半額。スーパーの総菜弁当、刺身コーナーで閉店間際に「半額」シールが貼られることがある。
10%引き、20%引き…。半額のパンチ力は壮絶。狩人たちの腕が一斉に伸び、籠に収められていく。私はそれをめがけていくことはないが、たまたま立ち寄ったスーパーで半額シールを多数見つけると、欲しくもなく食べきれないのに籠に片っ端から入れてしまう悪癖がある。
ある極寒な11月中旬の19時過ぎ。門司港から電車で小倉駅5番ホーム入線。降りた地点から7番ホームが見えた。そこは北九州駅弁当様の立ち食いうどんスタンドが屹立。3名ほどが旨そうに啜っている背中が見える。
この日は骨の髄まで寒さが染みた。昼は役満級にレアなラーメンを啜ることができ、ミッション終了後は門司中央市場のタベルナでボジョレやビールをたっぷり頂いていた。ド空腹でもないが、暖まりたい気持ちはある。この夜は神戸に戻らねばならない。
幹線乗車時間まで20分強。目の前には愛してやまない立ち食いうどん。しかも吹き曝しというある意味で最高のシチュエーション。啜る以外の選択肢はこの世に存在しない。
階段を上がり、別ホームに移動するために再び階段を下りる。普段なら絶対にしないアクションに息を切らせつつ券売機と対峙。
いまさら説明不要だが、ノーマル(素)が「かしわうどん」。この夜、トッピングは「月見」に。見上げても見えなかったが、何となく寒月が中天を昇っている気がしたからだ。
熱々を受けとる。一味パラリ。出汁…。震えた。痺れた。泣いた。これまで何麺このホームで啜ったか覚えていない。どんな日も、どんな気分でも常に旨いが、この夜は超えてきた。
残り半分で、儀式に移行する。「黄身をつぶす」という神事。うどんに絡める…。神が降りてきた。出汁が楽園になった。
すべてが満たされた気分で階段を上がる。新幹線乗車まで10分。在来線ホームから新幹線ホームへ向かうコンコース上に売店が。めったに利用することはない。新幹線改札内のコンビニや売店で買物するからだ。
この夜、私の視界に飛び込んできた4文字に絶句させられた。「駅弁半額」。気づいたら手に取り、レジでお会計を済ませていた。475円。「小倉のかしわ飯」。調整元は、2分前に7番ホームで啜り終えたかしわうどんと同じ「北九州駅弁当」様だった。
小倉駅ホームの至宝
寒い夜ほど旨ささらに倍加
商品、残り僅か
見逃せないPOP
若松の古本屋さんで仕入れた『藤枝梅安』を友に
かしわうどんからの、かしわめし
かしわの子供(玉子焼)はプラザ祇園の「丸新精肉店」で捕獲
かしわの唐揚は自宅晩酌で
(付記)
深夜帰ったら老眼鏡を新幹線車内に忘れていることに気づいた。翌朝、メールの問い合わせフォームで窮状を伝えたら、すぐに返信。終点の名古屋駅で捕獲されたという。これまで新幹線でスマホ、パソコンなど何回か置き忘れた。すべて戻ってきた。多謝。そして、凄いぜ日本。