三四郎とは、某柔道マンガの主人公ではなく文豪・夏目漱石氏の代表作「三四郎」(明治41年)の主人公・小川三四郎氏がモチーフ。熊本から激変する東京での生活を夢見て一人ぼっちで上京する青年の成長を描いている。
レトロなパッケージに目を奪われた私は、浜松駅で購入し、新幹線に乗り込んだ。
「……(思いっきり中略)浜松で二人とも申し合わせたように弁当を食った。食ってしまっても汽車は容易に出ない。…(思いっきり後略)」。
私はこの名作古典は未読だが(自慢できないが)、パッケージや容器の中のウンチク紙に記載された作品冒頭のシーンである。
この「弁当」は自笑亭の弁当であるそうだ。なぜなら、当時浜松駅で弁当を販売していたのは自笑亭のみ。作者の夏目氏も食べたと推測されるらしい。たっぷりの自信と一抹の弱気が入り混じった解説が心に沁みる。
当時の駅弁資料は第二次世界大戦ですべて焼失し、詳しい中身は謎のままだが、明治38年に発行された雑誌を基に当時浜松駅で販売されていたと思われる駅弁を再現。その雑誌では浜松駅弁は「細鰻・玉子焼・蒲鉾・河魚佃煮・蓮根・椎茸を副食」と書かれていたそうだ。容器も木の折の2段重ねというこだわりぶりである。
弁当を開いた。一の重はびっしりのおかず。二の重は清々しいまでに清冽な日の丸弁当だ。
煮物(蒟蒻・蓮根・がんもどき・椎茸・人参)は1ヶづつがとにかくデカくて味が濃い。玉子焼きは大きくて分厚いものが2ヶ入っており、甘さは控えめだ。
煮豆の甘さも濃厚だが、一粒づつ味わえるので酒のサカナとして長持ちする。わかさぎの佃煮は3本。これまた味が濃く、煮汁が口で弾ける。タクアンも実に分厚い。
細切りされた鰻の蒲焼は酒のサカナに良し、ご飯のおかずに良しというスグレモノ。木の折なので白メシもいつも以上に旨く感じられる。
とにかく、全体的におかずが大きくて味が濃い。パッケージでは現代風の味づけとしているが、なかなかのパンチ力だ。蒲鉾と梅干しが見事な箸休めを演じている。
静岡限定なのかもしれぬが、緑茶缶チューハイが駅構内売店で売られている。これが実に濃厚駅弁に相応しい。口の中をサッパリと洗い流し、フレッシュな気持ちをキープし続けている。
松山駅で味わった「坊っちゃん弁当」「マドンナ弁当」をはじめ、未食だが花巻駅には宮沢賢治氏をモチーフにした駅弁もある。日本の古典名作と駅弁のコラボは、味ももちろんだがそのウンチクが最高のスパイスである。
(FB)
今月末(2020年10月下旬)に浜松へ行くことに。記憶を手繰るべく浜松ネタの死蔵ストックを引っ張り出す。ガラケーで撮影したと思しき画像を確認すると、2011年12月。1gも覚えておりませぬ。