前述の坊っちゃんパロディミステリーを書いた柳氏は、他にも夏目漱石氏自身を主人公に据えたミステリーを発表している。いずれもユーモア小説に分類されるパロディミステリーだ。ただし、スマートに事件を解決する存在ではなく、極めてエキセントリックかつ行動の意図が不明な変人として描かれていることが多い(ような気がする)。
『吾輩はシャーロックホームズである』(柳広司 角川文庫)も同様に、ロンドンで漱石氏が大暴れするミステリー。ロンドン留学中に気を病んだ漱石氏は、自分をホームズと思いこむ妄想世界に陥る。そこに殺人事件が発生する。
『漱石先生の事件簿 猫の巻』(柳広司 角川文庫)は、漱石氏の代表作『吾輩は猫である』の世界を再現した日常の謎を解決する連作集。夏目氏宅の書生が夏目氏に振り回される話。
柳氏の作風は、歴史上の偉人が探偵役を務める本格ミステリーが主軸と思われる。私は柳氏の文庫化作品はすべて読了した(はずである)。
進化論を説いたダーウィ氏の『はじまりの島』(創元推理文庫)。トロイ遺跡発掘で著名なシュリーマン氏の『黄金の灰』(創元推理文庫)。古代ギリシャ賢人ソクラテス氏の『響宴』(創元推理文庫)。東方見聞録を世に広めたマルコ・ポーロ氏の『百万のマルコ』(創元推理文庫)。動物記で世界中の少年少女を虜にしたシートン氏の『シートン(探偵)動物記』(光文社文庫)など。
氏の異色作品として、フランシスコ・ザビエル氏にまつわる謎を意識のみがタイムスリップして解き明かしていく『ザビエルの首』(講談社文庫)、古代ギリシャのアクロポリスを巡る連作集『パルテノン』(実業之日本社文庫)、原爆の開発責任者オッペンハイマー博士とその友人が殺人事件の謎に迫る『新世界』(角川文庫)がある。原爆を開発したことで想像を絶する死者を生み出した博士が一つの殺人事件に拘るというのは、究極の皮肉と言えないこともない。
『新世界』で新境地を切り開いたのか、第2次世界大戦時の軍部等を舞台にしたミステリー群が絶賛されている。
『トーキョー・プリズン』(角川文庫)は巣鴨プリズンに収監されている囚人とアメリカの私立探偵が微妙に連携しながらプリズン内で発生した殺人事件に迫るミステリー。
真打ちは『ジョーカー・ゲーム』(角川文庫)。柳氏の大ブレイク作となり、吉川英治文学新人賞&日本推理作家協会賞をダブル受賞した傑作スパイミステリー。未読ながら続編『ダブル・ジョーカー』(角川書店)もある。文庫化が待ち遠しい。
私はスパイ小説や映画に目がないのだが、中でも『ジョーカー・ゲーム』は世に数あるスパイミステリーの中でも傑作の大傑作。内容はあえて触れない。ミステリー好きで未読の方は、今すぐ本屋へ直行し、ぜひご一読いただきたい。極上の読書体験を味わうことができる。
2011年09月29日
2011年09月28日
第326夜:坊っちゃんとミステリー【Book】(前編)
『坊っちゃん』(夏目漱石 岩波文庫)。言わずと知れた古典名作文学であり、出版から100年を経た今日も世代を超えて読み継がれている永遠のベストセラーである。
『坊っちゃん』というタイトルと、その作者(夏目氏)を知らない日本人は少ないように思われるが、最後まで読んで内容まで細かく把握している人は多いのだろうか。私は恥ずかしながら、未読だった。親譲りの無鉄砲な坊っちゃんがどこか(松山)で大暴れしながら悪者を退治し、マドンナと恋に落ちる痛快ロマンスだと思っていた。
毎月出張で四国の松山へ訪れることになった。坊っちゃんの舞台に向かう特急でこの文庫150ページ程度の名作を読んでみた。そして、ぶっ飛んだ。全然違うではないか。
松山の中学校に赴任した無鉄砲(というより短慮)で、都会意識が強く極端に地方を蔑視する主人公(坊っちゃん)は、赴任早々校長以下教員たちに有●弘行氏のごとくあだ名を命名。実に些細なトラブルに巻き込まれていく。せいぜいイタズラの範疇だが、短気な坊っちゃんは事を大きくしてしまう。
物語の軸は、赤シャツ(教頭・文学)・のだいこ(美術)の芸術コンビと、坊っちゃん(数学)・山嵐(数学)の数学コンビの争いだ。狸(校長)は様子見といったところ。それにしても赤シャツとは、金●先生時代のト●ちゃんを思い出させる見事なネーミングである。
赤シャツがうらなり(英語)の婚約者(マドンナ)に横恋慕し、強引に別れさせ自分のオンナにしてしまう。うらなり氏は宮崎の中学校に栄転(左遷)。これが最も大きな問題となり、おせっかいな筋肉系数学コンビは芸者遊びに勤しむ芸術コンビの現場を押さえ、待ち伏せして一方的に暴力を振るう。坊っちゃんは辞表を出し、東京に戻って鉄道技師になった。これが本筋だ。
私の要約と読解力にかなり難はあるものの、全編に渡り坊っちゃんの育ての親であり愛情を注ぎ続けた清(坊っちゃんの実家のお手伝いさん)に対する思慕で彩られている。
私の一番の勘違いは、マドンナだった。物語の鍵を握る存在だが完全な脇役。坊っちゃんとは何のカラミもなく、あまつさえ敵役の扱いを受けていることだ。
何とこの作品には後日談があった。坊っちゃんが東京に戻って3年を経た頃、山嵐がいきなり訪ねてくる。山嵐は驚くべき情報を伝える。坊っちゃん&山嵐が赤シャツに天誅(リンチ)を加えた夜、実は赤シャツは自殺していたというのだ。赤シャツの暗号のような遺書が残されており、その時は赤シャツのオンナになっていたマドンナが真相を知っているという。
本当に赤シャツは自殺したのか。殺されたのではないのか。真相を探るべく、坊っちゃんと山嵐は松山に向かう。事件の裏には驚天動地の陰謀が隠されていた……。
この後日譚は『贋作「坊っちゃん」殺人事件』(柳広司 集英社文庫・角川文庫)。『坊っちゃん』を読み終えた後、間髪いれず読み始めると、原作を読んだものにしか分からない伏線や表現が随所にちりばめられており、ニヤリとさせられる朝日新人文学賞受賞作である。〔次夜後編〕
『坊っちゃん』というタイトルと、その作者(夏目氏)を知らない日本人は少ないように思われるが、最後まで読んで内容まで細かく把握している人は多いのだろうか。私は恥ずかしながら、未読だった。親譲りの無鉄砲な坊っちゃんがどこか(松山)で大暴れしながら悪者を退治し、マドンナと恋に落ちる痛快ロマンスだと思っていた。
毎月出張で四国の松山へ訪れることになった。坊っちゃんの舞台に向かう特急でこの文庫150ページ程度の名作を読んでみた。そして、ぶっ飛んだ。全然違うではないか。
松山の中学校に赴任した無鉄砲(というより短慮)で、都会意識が強く極端に地方を蔑視する主人公(坊っちゃん)は、赴任早々校長以下教員たちに有●弘行氏のごとくあだ名を命名。実に些細なトラブルに巻き込まれていく。せいぜいイタズラの範疇だが、短気な坊っちゃんは事を大きくしてしまう。
物語の軸は、赤シャツ(教頭・文学)・のだいこ(美術)の芸術コンビと、坊っちゃん(数学)・山嵐(数学)の数学コンビの争いだ。狸(校長)は様子見といったところ。それにしても赤シャツとは、金●先生時代のト●ちゃんを思い出させる見事なネーミングである。
赤シャツがうらなり(英語)の婚約者(マドンナ)に横恋慕し、強引に別れさせ自分のオンナにしてしまう。うらなり氏は宮崎の中学校に栄転(左遷)。これが最も大きな問題となり、おせっかいな筋肉系数学コンビは芸者遊びに勤しむ芸術コンビの現場を押さえ、待ち伏せして一方的に暴力を振るう。坊っちゃんは辞表を出し、東京に戻って鉄道技師になった。これが本筋だ。
私の要約と読解力にかなり難はあるものの、全編に渡り坊っちゃんの育ての親であり愛情を注ぎ続けた清(坊っちゃんの実家のお手伝いさん)に対する思慕で彩られている。
私の一番の勘違いは、マドンナだった。物語の鍵を握る存在だが完全な脇役。坊っちゃんとは何のカラミもなく、あまつさえ敵役の扱いを受けていることだ。
何とこの作品には後日談があった。坊っちゃんが東京に戻って3年を経た頃、山嵐がいきなり訪ねてくる。山嵐は驚くべき情報を伝える。坊っちゃん&山嵐が赤シャツに天誅(リンチ)を加えた夜、実は赤シャツは自殺していたというのだ。赤シャツの暗号のような遺書が残されており、その時は赤シャツのオンナになっていたマドンナが真相を知っているという。
本当に赤シャツは自殺したのか。殺されたのではないのか。真相を探るべく、坊っちゃんと山嵐は松山に向かう。事件の裏には驚天動地の陰謀が隠されていた……。
この後日譚は『贋作「坊っちゃん」殺人事件』(柳広司 集英社文庫・角川文庫)。『坊っちゃん』を読み終えた後、間髪いれず読み始めると、原作を読んだものにしか分からない伏線や表現が随所にちりばめられており、ニヤリとさせられる朝日新人文学賞受賞作である。〔次夜後編〕
2011年06月28日
第263夜:卑弥呼は滋賀県守山市出身【Book】(その九)
一方、大阪のおばちゃんが主人公の怪獣伝奇『UMAハンター馬子1・2』(ハヤカワ文庫)、『水霊(ミズチ)』『禍記』(いずれも角川ホラー文庫)などオカルト、ホラー、伝奇、SFに見事な冴えを見せるのだが、徹底して共通しているのは、オチのダジャレと読者を不愉快のどん底の叩きこむスカトロ的グロゲロ描写。『ミミズたちの伝言』『蠅の王』(ともに角川ホラー文庫)を読みながら食事出来た人は、ある意味で超人と言えよう。
■『邪馬台国の神符』(志茂田景樹 徳間文庫:1980年)
額の真中を狙撃されて即死にも関わらず、打たれた後に指で額の血をすくい、「倭王の刺青」という血文字を残す展開に驚愕。死ぬ前のダイイングメッセージ史上最も複雑な文字だろう。私が臨終を迎えるとき、最後の言葉として謎めいているが全く意味のないメッセージを残し、残された遺族が混乱するのを想像するもの楽しいものだ。
謎の女性が主人公の漢方薬医に謎の薬草を託して立ち去る。そして事件は日本の政財界のみならず、日米貿易摩擦まで発展する大スケールの展開だ
謎の薬草は、異様なまでに人のテンションを維持し凶暴性を持つ「葉」、即座に心臓発作させる「茎」、人を狂わせる「根」の3種類の効果がある。
この「根」が強烈である。呑まされた奴は犬の真似をしたり、結婚式で下半身を露出したり、素っ裸でタクシーに乗ろうとしたりと大暴れ。
謎の女性の秘密が明らかになる。「鬼道を用いて人を惑わす」卑弥呼一族の血を受け継いでいるらしい。最も驚いたのが、謎の女性が表す人文字。鬼という字からムを抜いた字を素っ裸で表現するTIMも真っ青の高等技術だが、このシーンのバカっぽさに感涙。
ラストはハリウッド映画のような怒涛のアクションの後、極めて皮肉なハッピーエンドを迎える衝撃の展開で締めくくられる。最終ページのラスト9行は必読で、失禁しそうになる。一昔前、過激ファッションで話題を呼んだ直木賞作家・志茂田景樹氏のゴキゲンな作品だ。
未読なのでミステリーがどうかも分からぬ作品も多いが、まだまだ邪馬台国小説は存在する。
20世紀は北九州が有力で、吉野ヶ里遺跡が決定打かと思われたが、21世紀は畿内が優勢。それを反映するがごとく、ミステリーの出版年代で九州説だったり畿内説だったりする。
私の邪馬台国ミステリー研究の結果、邪馬台国の位置は畿内+近江守山のどこか、ただし、卑弥呼生誕の地は、滋賀県守山市でいいのではないか。邪馬台国の女王だった卑弥呼の死後、自分の出身地(守山)で埋葬されたのだろう。まさに「卑弥呼が眠る里」(by守山商工会議所青年部)といえる。
縄文、弥生時代。古代日本の中心地に舞うホタル。2000年を経ても、ホタルの里・守山ではホタルが舞い続けている。祈祷する卑弥呼の周囲を舞うホタル。幻想的である。〔終〕
(付記)
私の邪馬台国研究は極めてお粗だが、守山商工会議所青年部様による「邪馬台国近江説」特設HPが最もアツく、おもしろい。邪馬台国近江説にご関心を持たれた現代のスサノオやアマテラスは、ぜひチェックあれ。(⇒http://www.moriyama-himiko.jp/)
■『邪馬台国の神符』(志茂田景樹 徳間文庫:1980年)
額の真中を狙撃されて即死にも関わらず、打たれた後に指で額の血をすくい、「倭王の刺青」という血文字を残す展開に驚愕。死ぬ前のダイイングメッセージ史上最も複雑な文字だろう。私が臨終を迎えるとき、最後の言葉として謎めいているが全く意味のないメッセージを残し、残された遺族が混乱するのを想像するもの楽しいものだ。
謎の女性が主人公の漢方薬医に謎の薬草を託して立ち去る。そして事件は日本の政財界のみならず、日米貿易摩擦まで発展する大スケールの展開だ
謎の薬草は、異様なまでに人のテンションを維持し凶暴性を持つ「葉」、即座に心臓発作させる「茎」、人を狂わせる「根」の3種類の効果がある。
この「根」が強烈である。呑まされた奴は犬の真似をしたり、結婚式で下半身を露出したり、素っ裸でタクシーに乗ろうとしたりと大暴れ。
謎の女性の秘密が明らかになる。「鬼道を用いて人を惑わす」卑弥呼一族の血を受け継いでいるらしい。最も驚いたのが、謎の女性が表す人文字。鬼という字からムを抜いた字を素っ裸で表現するTIMも真っ青の高等技術だが、このシーンのバカっぽさに感涙。
ラストはハリウッド映画のような怒涛のアクションの後、極めて皮肉なハッピーエンドを迎える衝撃の展開で締めくくられる。最終ページのラスト9行は必読で、失禁しそうになる。一昔前、過激ファッションで話題を呼んだ直木賞作家・志茂田景樹氏のゴキゲンな作品だ。
未読なのでミステリーがどうかも分からぬ作品も多いが、まだまだ邪馬台国小説は存在する。
20世紀は北九州が有力で、吉野ヶ里遺跡が決定打かと思われたが、21世紀は畿内が優勢。それを反映するがごとく、ミステリーの出版年代で九州説だったり畿内説だったりする。
私の邪馬台国ミステリー研究の結果、邪馬台国の位置は畿内+近江守山のどこか、ただし、卑弥呼生誕の地は、滋賀県守山市でいいのではないか。邪馬台国の女王だった卑弥呼の死後、自分の出身地(守山)で埋葬されたのだろう。まさに「卑弥呼が眠る里」(by守山商工会議所青年部)といえる。
縄文、弥生時代。古代日本の中心地に舞うホタル。2000年を経ても、ホタルの里・守山ではホタルが舞い続けている。祈祷する卑弥呼の周囲を舞うホタル。幻想的である。〔終〕
(付記)
私の邪馬台国研究は極めてお粗だが、守山商工会議所青年部様による「邪馬台国近江説」特設HPが最もアツく、おもしろい。邪馬台国近江説にご関心を持たれた現代のスサノオやアマテラスは、ぜひチェックあれ。(⇒http://www.moriyama-himiko.jp/)

