2020年05月18日

第2446夜:仙台は伊坂ワールド【stay-home】(その二)

 2011年3月末現在、私が読了したのは『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』『重力ピエロ』『フィッシュストーリー』『アヒルと鴨のコインロッカー』『終末のフール』『チルドレン』『魔王』『グラスホッパー』『陽気なギャングが地球を回す』『陽気なギャングの日常と襲撃』『死神の精度』の12冊。

この中から、仙台を舞台にした作品について、私にとっての「仙台度」を5段階で表してみた(低:1→高:5)。

■『死神の精度』(文春文庫)→ 仙台度:1

 太古の時代から存在し、担当する人間の死を「可」または「見送り」を判断する死神が主人公の、6篇からなる連作短編集。日本推理作家協会賞受賞作である。

 伊坂作品に珍しく、文体は1人称の軽ハードボイルドといった感じだが、死神のキャラ設定が素晴らしい。ミュージックが大好きで渋滞が何より嫌い。人間界にいるときはいつも雨。受け答えは天然ボケなど、何ともポップである。

 死神は担当する人間に8日間張りつき、その間に「可」「見送り」を判断し「上司」に報告。8日後に自殺および病死以外の死を遂げる。その8日間は、取り憑かれた人間は死なない。

 これらの物語ルールが、ミステリとしての重要な伏線になる。ちなみに、伊坂作品には登場人物に様々なルールが課せられているようだ。

 作品はそれぞれ短編だが、最後に1冊の長編となる凝った展開である。どの作品もクオリティは極めて高い。その中の一篇『旅路で死神』が異色作である。

 東京で殺人を犯した犯人が、死神とともに東北へある目的成就のために東北へ北上していくという、ロードノベル形式。この作品は現実の地名が多く、異質さを際立たせる。

 最終目的地へ向かう途中、仙台郊外に立ち寄る。そこでちょっとしたシーンがある。

 この作品は金●武氏主演で映画化された。私はすぐに分かってしまったが、なぜか神戸がロケ地だった。映画としての出来栄えもかなり秀逸。ヒロインの小西●奈美氏が唄う主題歌も良く、私はよく無意識で口ずさんでいたらしい。この主題歌も、大きく本編に関係する。

 たっぷりと紹介に費やしたが、この作品集は私にとっての伊坂作品ナンバーワン。主人公の死神は、人間の情が理解できないという設定だが、すべての短編がホロリとさせる人情ミステリに仕上がっている。超絶技巧が凝らされた極上の作品集だ。仙台度はかなり低いが。

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■『ラッシュライフ』(新潮文庫)→ 仙台度:5

 『このミス』ベスト20にランクインし、私が初めて読んだ伊坂作品である。

 文中で頻繁に取り上げられているのが、エッシャーの‘だまし絵’。5つの異なる物語が、最後に一つに収斂していく群像劇である。
 
 旧友と思わぬ交友を深めることになった空き巣、新興宗教の教祖を崇める新人信者と教団幹部、不倫中の女医とサッカー選手、偶然拾った老犬に癒される中年失業者。そして、仙台に向かう途中の東北新幹線で仙台に向かう社内の画廊オーナーとその女性画家の卵。

 これに、切断されたが再びひっついて歩き出す死体、予知的能力を持つ新興宗教のカリスマ教祖などが絡んでいく。

 5つの異なる登場人物がドタバタ劇を繰り返していく。基本的には奥田英朗氏の‘ドツボ型クライムサスペンス’のようだが、さらにポップで寓意的である。

 そして、舞台はオール仙台である。東北新幹線車中のシーンも、仙台に向かう途中なので仙台に加えていいだろう。仙台という箱の中で、時間軸を微妙にずらしながら展開していく。勧善懲悪的なエンディングなので、読後感も爽やかだ。

 なぜ仙台が舞台なのか。作者は何かのインタビューで、仙台に住んでいるため地理感があるから、特に深い意味はないそうである。確かに、仙台でなくても良かったかもしれない。

 ただ、画廊があって画家の卵が多く育つ文化的土壌があり、プロサッカーチームがあり、マンションが林立している。適度に街中でばったり出くわすかもしれない程度の人口過密度と中心市街地の集積度。新幹線が停車する都市。やはり、この作品は仙台が最も相応しい。〔次夜その三〕

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2020年05月17日

第2445夜:仙台は伊坂ワールド【stay-home】(その一)

 『ゴールデンスランバー』(新潮文庫)。このミス第1位、山本周五郎賞、本屋大賞の3冠を達成した超人気作家・伊坂幸太郎氏の代表作の一つ。人気俳優による映画化も実現している。

 仙台市内をパレード中に日本の首相が暗殺される。濡れ衣を着せられた主人公は巨大な陰謀に巻き込まれ、逃亡生活を余儀なくされる。極めて大ざっぱに要約すると、これがあらすじだ。

 国内外を問わず、最高権力者は常に暗殺の危機に晒される。大統領暗殺を扱った映画やサスペンスは、星条旗の星の数では到底足りないほど存在するが、日本を舞台にした首相暗殺モノは少ないように感じる。ゆえに、新鮮だった。

 この作品のオリジナリティを強めているのは、暗殺及び逃亡追跡の舞台が、東京やニューヨークではなく、杜の都・仙台という点。映画はほぼオール仙台ロケではないか。

 東北随一の大都市として、首都移転候補先として、楽●イーグルスとベガル●仙台の本拠地として、伊達正宗公ゆかりの地として名を馳せる仙台。サスペンスの舞台としては、旅情ミステリならともかく、首相暗殺という重厚すぎるテーマには、鑑賞前はそぐわない気がしていた。

 最も驚いたシーンは、仙台一の賑わいを誇る商店街のアーケードで、思いっきりアクションが撮影されていたことだ。商店街もロケに全面協力している。私の住む神戸・三宮センター街で同様の撮影が行われることは想像できない。

 伊坂氏の作品は、私が読了した作品の多くで、仙台が舞台となっている。文庫の著者紹介などでは、出身は異なるも仙台市内に在住されているそうだ。

 2004年に仙台を訪れた際、私はまだ伊坂作品に出会っていなかった。昨年(2010年)訪れて、仙台の印象は大きく変わった。歴史ある都会というイメージから、どことなく現実離れしたフワフワした空気感、シュールでポップな街と感じるようになる。私にとって伊坂ワールドの仙台は、水色を貴重にしたパステル画を連想させる。

 登場人物のクールかつシュール。特種能力を有する者も多い。映画ファンなら、映画監督クエンティン・タラ●ティーノ氏の作品に近い印象を受けるだろう。警句の引用、場面の転換、騙し絵のごときミスディレクション。タラ●ティーノ氏の大傑作『パルプ・フィクション』を鑑賞し、伊坂作品を読了すれば、何となく共通点を感じるはずだ。

 2011年、東日本大震災から1か月後。私は仙台訪問を機に、伊坂作品を再読した。仙台が舞台の伊坂作品を、仙台で読む醍醐味。現実と空想が入り混じり、フィクションの世界に迷い込んだ感覚を味わうことができる。

 伊坂作品には小粋な会話、音楽の引用、巧妙な伏線と、作者名を伏せて読んでも「あ、これは伊坂作品」と感じる独特の作品世界が広がる。架空の街ではなく、仙台というリアルの街で展開される独特の伊坂ワールドに迷い込みたい。〔次夜その二〕

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(付記)
この駄文は恐らく9年前に書いた死蔵ストック。東日本大震災の関連で東北入りすることになり、伊坂作品を集中的に再読していた頃。ちなみに仙台空港は割と利用するが、仙台の街なかは8年ほど足を運んでおりませぬ。
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2015年04月20日

第1195夜:「人生を変えた(かもしれない)」5冊の本【Book】(後編)

■『生物としての静物』(開高健 集英社文庫)

 最近は知らぬが、20年以上前の私の周りの大学生は開高作品が一つのステイタスとして読まれていた。大傑作の釣り冒険紀行『オーパ!』シリーズ(集英社文庫)をはじめ、『もっと広く!』『もっと遠く!』(ともに文春文庫)などの北南米釣り機構に胸躍らせた。しかし、先生の豊潤な文体と表現は当時の我が読解力では少々難しかった。

 今回取り上げた作品は、先生の愛する様々な「静物」をまさに`生物´のごとく生き生きと綴っている。ジッポーライター、百人一首、ビーフジャーキー、パイプ、ジーンズ、万年筆、釣り具…。これほど味わい深いエッセイ集はない。一言一句が宝石のように輝いている。

 私は20歳のころからヘビースモーカーだが、銘柄は浮気すれど基本的に「ラッキーストライク」。先生がこの銘柄を好まれており、この作品でも取り上げられている。

■『街のイマイチ君』(綱島理友 講談社文庫)

 私がサブカル的視点に目覚めた一冊である。浅草キ●ド、テリ●伊藤、み●らじゅん、大槻ケ●ヂ、リ●ー・フランキー、石●壮一郎といった各氏の新刊(文庫エッセイ限定ですが)は今でも必ず購入する。綱島作品も文庫はすべて網羅している(はず)。その中でもこのイマイチくんの秀逸ぶりが素晴らしい。

 サブカルではないが、嵐●光三郎、小●武夫、勝谷●彦といた大御所のエッセイも目が離せない。特に小泉先生の食エッセイは最も食欲を刺激する名著ぞろい。

■『深夜特急1〜6』(沢木耕太郎 新潮文庫)

 言わずと知れた若者のバイブルである。私が大学生の頃、この作品をモチーフにした猿●石のユーラシア横断ヒッチハイクが凄まじい社会現象になっていた。読み始めると、止まらない。誰もがじっとして居られず、世界を放浪したくなる。

 沢木エッセイもかなり読んだ。映画と本と酒と旅。氏の撮影したスナップ写真を集め文章を添えた豪華本『天涯(第一〜第三)』(スイッチ・パブリッシング)のセンスに唸らされた。

 沢木作品に夢中になった大学生時代。深夜特急の旅の回想や新たな旅エッセイをオッサンになって読む。少し驚いたことがあった。これほどナルシズム溢れる文体だったのか。

 好きな本を5冊挙げろと言われたら、三日三晩悩んでも答えがでない。今でもたまに読み返す本が、好きな5冊かもしれない。しかし、「人生を変えた(かもしれない)」5冊を読み返すことはあまりない(開高作品除く)。手放せずにいるが、読み直そうともあまり思わない。

 自分の適性ややりたい事が分からぬ夢溢れるハタチの頃と、酸いも甘いも経験した40代では感受性が違うからだ。自分探しの旅に出るには、やはりそれにふさわしい年齢がある。しかし私は40になって未だに自分の適性が分からない。感受性の衰えは著しいけれど。

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『生物としての静物』『街のイマイチ君』『深夜特急1〜6』
posted by machi at 07:30| Comment(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする