2023年01月30日

第3097夜:リスクを負う男〜『ほろびない商店街のつくりかた』〜【Book】

『ほろびない商店街のつくりかた』。政令市・北九州をけん引する魚町商店街振興組合理事長かつ、県内の商店街を統べる福岡県商店街振興組合連合会理事長である梯輝元氏の著作である。

 理事長は若い時から商店街活動に取り組まれており、特に全国の先駆けになったリノベーション事業を中心にこの十数年の軌跡を濃厚極まりない筆致で活写。改行の少なさ(密度の濃さ)に理事長の気合が感じられる。

 私が初めて北九州を訪れたのは2009年。小倉が都心なら、副都心という位置づけだった黒崎に招かれた。この時期、サーズという国内では神戸発祥の感染症が話題になっていた。

 神戸から訪れた私はマスク着用で2時間しゃべり倒した。聴衆も全員マスク着用。今思えば、新型コロナを予見していたような一夜だった。

 その翌年(2010年)は近畿地方の若手タウンマネージャー候補らを引き連れ1泊だけの北九州視察を引率。そして2011年より黒崎、若松で本格的な北九州との御縁が始まった。

 私が小倉エリアにも御縁を頂くようになったのはたぶん2014年から。はっきり覚えていないが、梯理事長とは夏・冬の年2回ペースで酒席をご一緒させて頂く機会があった。そして2022年秋から半年間、毎月酒席をご一緒させて頂くことに。

 著書を拝読していると、当然のごとくご本人の表情や声を如実に思い浮かべてしまう。幕間に挟まれるこぼれ話が面白い。特に75ページからの下りは興味深い。理事長、酒を呑みながら書いているのではなかろうか。

 作中には数多くの人物が実名で登場。当然のごとく、組織名も。実名に関して私が存じ上げている方はごく数名だったが、組織名に関しては8割以上「よく」知っている。

 前半は穏やかな入りだが、中盤あたりから理事長の荒ぶる魂が文章から溢れ出しているようだった。様々な使えない組織(実名)、個人(実名でない)を容赦無用でぶった切り。しかし、単なる批判ではない。その理由も活写されている。

 困難に直面した理事長が組織、個人と戦いながら勝利を収めているシーン多数。勧善懲悪の物語のようで痛快である。組織を持ち上げては落とす緩急と高低の活用幅に惚れ惚れする。更に、ご自身が中心となって取り組んだが上手く運ばなかった事業に関しても堂々と触れている。

 名言至言のオンパレードの中「郊外型SCで起業する人はいない」という一文が、特に私の印象に強く残った。補助金事業に取り組むリスクにも深々と首肯させられる。

 商店街を取り巻く内部および外部トラブルはまさに「あるある」。情景が如実に目に浮かぶ。普通に会社(組織)務めしている人なら信じられぬレベルのトラブルに商店街は溢れている。

 この著書、私は、面白かった。しかし専門用語や実例がかなり多いため、商店街活動に全く興味のない人向けではないだろう。理事長もそのような方を対象に書いていないはず。一方、SDGsに興味のある人、まちづくり(特に商店街活動)に興味のある人には必読の一冊である。

 「リスクを誰が負うのか」。著作全編を共通するテーマに思えた。金銭面だけでなく、修羅場での矢面、人材の育成や登用含めて。

 魚町のまちづくりがこれほど全国的な成功事例として広まっているのは、リスクを負う男(梯理事長)がいるから。私が知る限り、強弱、大小あれど、成功している商店街やまちにはリスクを負う人がいる。それが複数いればなお力強い。富良野しかり、八戸しかり、会津若松しかり。

 余談だが、最後に近い179ページ5行目に、私の名前があった。思わず目を剥いた。全く知らなかった。ボロクソ書かれてはいないが、特段の活躍っぷりもない。薬どころか毒にすらなれぬフリーのヨゴレまちづくりコンサルである私は、日々リスクを負おうともしないからである。

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2021年12月15日

第2827夜:ヒラクビルのセレクトブックショップ【Book】(後編)

📚『駅弁大百科』(山と渓谷社)

 2010年から駅弁道に目覚め、最初の数年は順調に年間100箱(種類)ペースを刻んできたが、500箱を超えたあたりからペースダウン。私にとって駅弁は酒のサカナ。酒が飲めないシチュエーションでは縁遠く。また、気に入った駅弁をリピートするように。

 本の冒頭に駅弁の猛者5名が印象に残った駅弁を紹介。猛者は平均して5000箱以上実食。私のペースではとても追いつけない(2020年8月時点で約800箱強)。

 日本津々浦々1000駅弁が紹介。この中で記憶怪しいが我が実食済はちょうど100箱。たかだか800箱程度の私のぶっちぎり1位は当たり前すぎて恐縮だが「崎陽軒シウマイ弁当」。次は…。

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📚『古代史マップ』(ナショナルジオグラフィック別冊)

 様々な地図、写真満載のパラパラするだけで興奮するムック本。文章も分かりやすく簡潔。

 私は‘ムー系’だが、この本はソチラと一線を引いている。史実に基づいた考証と、そこに潜むロマン。

 コロナが終われば、海外の世界遺産クラスの古代史跡を見物したい。これまでギリシャやエジプトの古代遺跡を満喫。いつになれば遺跡訪問できるかさっぱり分からないけれど。

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📚『伝説の謎』(ナショナルジオグラフィック別冊)

 本屋に隣接する<喫茶わに>、よく流行っている。若い女性、それも上品で落ち着いた方ばかり。会話の声も抑え気味で雰囲気が良い。オッサンの私は独り。かなり浮いている。

 その日の夜中、多治見駅前のホテル定宿でウィスキーのポケット瓶を呷りながら、伝説の扉を開ける。メジャーからマニアックまで古今東西の伝説一発目が「アトランティス」。分かっていらっしゃる。古今東西のロマンあふれる伝説に我がムー系の血が騒ぐ。

 本書の基本スタンスは片っ端から伝説の否定。しかし文章が何故か破綻気味で面白い。世界史上「人物」として最も伝説が多いのはアーサー王かもしれぬ。

 世界には、私の知らぬ不思議が満載。謎は謎のままで解明されぬ方が良い。無理な解明は無粋というものである。

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📚『文字渦』(円城塔 新潮文庫)

 帯の甚句が強烈。「翻訳不可能!」。川端康成文学賞と日本SF大賞をダブル受賞した現代最高の奇書という。「文字」が主役の12作品収録の連作集。……。これだけでは、意味不明。

 あまりにも壮大かつユーモアに富む。古今東西の博識が縦横無尽。これまでにない読書体験な短編も。私のボンクラ頭では半分以上が意味不明作品。読書慣れしていない方には手ごわいかも。

 天才しか書けないこの作品、最終回(6回目)に購入。確かに私の新たな読書の地平を「ヒラク」キッカケになったかもしれない。セレクトブックショップは、広大で深遠な知識の海である。

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2021年12月14日

第2826夜:ヒラクビルのセレクトブックショップ【Book】(前編)

 <ひらく本屋>。多治見活性化の司令塔かつ総本山かつ実働部隊である多治見まちづくり梶uヒラクビル」1・2階に屹立するセレクトブックショップである。

 1階はテーマごとに、2階は作家ごとに色分けされている。特に1階のテーマ別本棚に経営者の抜群のセンスが感じられる。

 2021年7月から9月にかけて計6回多治見入りした。初回は右も左も分からずこの本屋を掘り下げる時間がなかった。

 2回目以降は13時に多治見入りし、まちづくり会社O口社長の鰻を喰い、ホテルチェックインの時間までヒラクビルのcafé珈琲を飲みながらこの本屋で買った本をパラパラめくるのが極上の楽しみに。動かせない不動のルーティンとなった。

 どうせならここでしか買えない本を、普段手に取らないテーマの本をと意気込むが、保守的な私は自分の嗜好外の本になかなか手が伸びない。その中でも一般の新刊書店ではフラリ入って手に入りにくそうな本を2回目以降選択するように心がけた。

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喫茶と併設。

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1階はテーマ別(たぶん)。


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階段を上ると…。

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2回は作家別(たぶん)。

 以下<ひらく本屋>で捕獲した書籍群である。

📚『瓶のなかの旅』(開高健 河出文庫)

 酒と煙草をテーマにした文豪のエッセイ集。私も酒と煙草は外せない人生の伴侶。大学生の頃に開高先生の様々なエッセイや冒険記(オーパ!、もっと広く!など)を読んだ。

 先生がラッキーストライクを愛吸されていたので、私もラッキーを20年以上吸い続けいるのかもしれない。パイプが試したことないが、若い頃はジッポー収集に励んだことも。

 「バターを肴に焼酎を飲む」という一文に魂のレベルで打ち震え、実際に日光市内のホテルで試す。まさに魂を賭ける飲み方だった。

 開高先生のエッセイは一気読みではなく、極上のスコッチのごとくちびちびゆっくり味わいながら読み進めるのがよろしい。

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📚『おなかがすいたハラペコだ。A おかわりもういっぱい』(椎名誠 集英社文庫)

 普段の文体よりポップな仕上がり。ただ、椎名先生も後期高齢者。文章の至る所に老いを感じるのが四半世紀以上の一読者としては幾分寂しい。一方で、味わい深さも深まっている。

 先生が箱買いされている「半田めん」。徳島の冷麦である。私は真夏でもホット(珈琲・ラーメン・そば)ゆえ冷や麦など1oも関心ないが、先生絶賛ゆえいつか機会があれば啜りたかった。

 その話を埼玉からの帰路で読み、自宅近所のスーパーに何気なく立ち寄ったら「半田めん」が普通に売っていた。どこでも売っているのか。購入し、翌昼に湯がく。美味しかったです。〔次夜後編〕

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posted by machi at 07:46| Comment(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする