2020年05月20日

第2448夜:仙台は伊坂ワールド【stay-home】(その四)

■『チルドレン』(講談社文庫)における仙台 → 私の仙台度:4

 仙台在住の大学生、家裁調査官、セキュリティシステム会社の女性、盲目の好青年が主人公の短編集。それぞれ独立した作品として楽しめるが、すべての主人公に共通する友人知人として「陣内」という男性が存在する。

 陣内氏は詭弁家と見受けられる。「皮肉な詭弁家」という特性は、伊坂作品に登場する主役級の人物に共通している点かもしれない。

 伊坂ワールドでは天才肌の屈折したヒーロー的に描かれているようだが、現実に存在すれば「イッちゃったヤツ」にしか思えないだろう。会話するだけで面倒くさそうだ。

 この陣内氏を軸に、すべての作品が繋がっている。しかも、時系列でなく過去と現在が交互に入れ替わる。通して読むと一つの長編として成立するという、超絶技巧に唸らされる。

 伊坂氏がよく用いるテーマの‘銀行強盗’(もしくは店舗襲撃)が冒頭の作品。以降、誘拐などがモチーフに挙げられるが、殺人はなし。徐々に「日常の謎」系に移行していく。

 冒頭の短編が仙台を舞台とし、以下、登場人物が共通しているので仙台が舞台として推測される。しかし、仙台の街中を綿密に描写しているシーンは少ない。全編を通じて仙台なのだが、どこかパラレルワールドのような雰囲気が、伊坂風味である。

 デビュー当時より数年たった作品の方が、伊坂ワールドは健在ながら明らかに作品世界の幅が広がり、リーダビリティ(「読みやすさ」または「一気読み必至」とでもいうべきか)が増していると私は感じる。

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■『終末のフール』(集英社文庫)→ 私の仙台度:4.5

 地球に小惑星(巨大隕石)が衝突し、8年後に人類が滅亡することが確定してから5年を経過した仙台市郊外の団地が舞台という、独特の設定に妙がある8編の連作短編集である。

 すべて1人称で語られ、団地マンションの住人たちがすべての作品でリンクしながら、3年後に死を迎える中の日常生活が淡々と描かれている。

 人類滅亡が発表された直後は全世界で暴動が起きたが、5年経過すると落ち着きと秩序が生じ、残り僅か3年の人生を精一杯平和に楽しもうとする。状況設定の悲惨さは変わらないが、どの作品も活きる力と希望にあふれた見事な作品が揃っている。抑えた筆致も好感度高し。

 この作品の舞台が仙台市の中心市街地なら、また異なった雰囲気になっただろう。郊外の団地をほぼ舞台として限定しているので、どこかほのぼのとした雰囲気がある。私の持つこの作品のイメージは‘団地のベランダから公園越しに見える夕日’だ。

 8編の作品タイトルは、どれも韻を踏んでいる。表題作をはじめ『太陽のシール』『籠城のビール』『冬眠のガール』『鋼鉄のウール』『天体のヨール』『演劇のオール』『深海のポール』。タイトルそのものが作品の伏線となっている。

 今回は6作品紹介した。読み直したのだが(注:2011年)、初読時より遥かに面白く思えた。これからも作品(文庫限定ですが)は出続けるので、至福の楽しみを味わえそうである。

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2020年05月19日

第2447夜:仙台は伊坂ワールド【stay-home】(その三)

■『重力ピエロ』(新潮文庫)→ 仙台度:5

 伊坂先生が大ブレイクするキッカケとなった記念碑的作品。驚愕のラストというものはなく、話の展開は私ですら予測容易だが、ミステリという概念を越えた家族小説としても楽しめる。

 仙台を舞台に放火事件が頻発。なぜか放火場所には謎の文字が書かれたグラフティアート(よく分からないが、多分スプレーの落書きのようなもの)が。この2つに関連は?暗号なのか?

 主人公兄弟が調査を進めるうちに、主人公の弟の出生に纏わる秘密が、二重らせんのように絡み合い始める。

 『ラッシュライフ』の主要登場人物が、脇役として渋いところを見せる。この作品の主人公は『死神の精度』にもゲスト出演している。仙台を舞台に、様々な作品で、それぞれの登場人物がどこかで繋がっている。

 スタイリッシュな会話、独特の引用。遺伝子、ゴタール、グラフティアート、ネアンデルタール人などなど。このような脈絡のない名詞が、宝石にように煌めき、ちりばめられている。

 この作品も実写映画化されている。加●亮氏、岡●将生氏、鈴●京香氏、小日向文●氏が原作とイメージ通りというか、これ以上ハマるキャスティングは思いつかないほどである。ヒール役の渡●篤郎氏も、出番は少ないながら存在感を見せつける。

 映画はほぼオール仙台ロケが観光されたようで、この作品のロケ地マップすら発行されている。仙台の街のポップでアートな魅力を、街中だけでなく郊外まで余すところなく伝えている。

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■『フィッシュストーリー』(新潮文庫)→ 私の仙台度:3

 4作が収録された短編集で、いずれも伊坂長編作品の登場人物やその関係者が活躍する、スピンオフ的な作品である。ただ、どの作品も外伝的な枠を超え、極めて水準が高くバラエティに富んでいる。

 『動物園のエンジン』は、動物園の折の前で寝そべっている謎のオトコがいる。ただ、彼がいるだけで、動物たちが活気づく。彼は、動物園の「エンジン」のような存在なのか。ただ、この男が重大事件に関わっているかもしれない。

 (おそらく)仙台の動物園とは特定されていないが、男の謎を『ラッシュライフ』主要人物の父親たちが、解き明かそうと試みる。このことから、仙台市内の恐らく架空の動物園と推測される。また、地下鉄の乗車しているシーンがある。地下鉄を有する都市は限られている。

 『サクリファイス』は、伊坂ワールドで頻繁に登場する泥棒が主人公。伊坂作品は街中をスタイリッシュに描くことが特徴と思っていたが、仙台から離れ宮城県と山形県の県境にある閉鎖的な村で、生贄など土俗的風習が色濃い村を描いている。それでもしっかりと伊坂ワールドは確立されているのが見事。仙台度は低め。

 『フィッシュストーリー』は表題作であり、私は未観だが映画化もされている。一つの歌の録音に纏わるトラブル的なものが、録音から10年後、20年後、30年後の時空を跨ぐ。いわゆる「風が吹けば桶屋がもうかる」的な話と私は感じた。

 それぞれの時空で主人公は異なるが、そのうちの一人が実家のある仙台に車で戻る途中の話や回想シーンがあり、仙台は登場するものの極めて低め。

 『ポテチ』はタイトルがあまりにも秀逸で、見事な伏線となっている。伊坂ワールド全開ながら、しっかりとした家族小説であり、人情ドラマとなっている。主人公の女性と、その彼氏の母親との掛けあいが絶妙。作者の筆のノリが伝わってくる。

 ほぼ全編仙台が舞台であり、仙台市民ならニヤリとさせられること請け合い。仙台度は極めて高い。〔次夜最終〕

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2020年05月18日

第2446夜:仙台は伊坂ワールド【stay-home】(その二)

 2011年3月末現在、私が読了したのは『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』『重力ピエロ』『フィッシュストーリー』『アヒルと鴨のコインロッカー』『終末のフール』『チルドレン』『魔王』『グラスホッパー』『陽気なギャングが地球を回す』『陽気なギャングの日常と襲撃』『死神の精度』の12冊。

この中から、仙台を舞台にした作品について、私にとっての「仙台度」を5段階で表してみた(低:1→高:5)。

■『死神の精度』(文春文庫)→ 仙台度:1

 太古の時代から存在し、担当する人間の死を「可」または「見送り」を判断する死神が主人公の、6篇からなる連作短編集。日本推理作家協会賞受賞作である。

 伊坂作品に珍しく、文体は1人称の軽ハードボイルドといった感じだが、死神のキャラ設定が素晴らしい。ミュージックが大好きで渋滞が何より嫌い。人間界にいるときはいつも雨。受け答えは天然ボケなど、何ともポップである。

 死神は担当する人間に8日間張りつき、その間に「可」「見送り」を判断し「上司」に報告。8日後に自殺および病死以外の死を遂げる。その8日間は、取り憑かれた人間は死なない。

 これらの物語ルールが、ミステリとしての重要な伏線になる。ちなみに、伊坂作品には登場人物に様々なルールが課せられているようだ。

 作品はそれぞれ短編だが、最後に1冊の長編となる凝った展開である。どの作品もクオリティは極めて高い。その中の一篇『旅路で死神』が異色作である。

 東京で殺人を犯した犯人が、死神とともに東北へある目的成就のために東北へ北上していくという、ロードノベル形式。この作品は現実の地名が多く、異質さを際立たせる。

 最終目的地へ向かう途中、仙台郊外に立ち寄る。そこでちょっとしたシーンがある。

 この作品は金●武氏主演で映画化された。私はすぐに分かってしまったが、なぜか神戸がロケ地だった。映画としての出来栄えもかなり秀逸。ヒロインの小西●奈美氏が唄う主題歌も良く、私はよく無意識で口ずさんでいたらしい。この主題歌も、大きく本編に関係する。

 たっぷりと紹介に費やしたが、この作品集は私にとっての伊坂作品ナンバーワン。主人公の死神は、人間の情が理解できないという設定だが、すべての短編がホロリとさせる人情ミステリに仕上がっている。超絶技巧が凝らされた極上の作品集だ。仙台度はかなり低いが。

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■『ラッシュライフ』(新潮文庫)→ 仙台度:5

 『このミス』ベスト20にランクインし、私が初めて読んだ伊坂作品である。

 文中で頻繁に取り上げられているのが、エッシャーの‘だまし絵’。5つの異なる物語が、最後に一つに収斂していく群像劇である。
 
 旧友と思わぬ交友を深めることになった空き巣、新興宗教の教祖を崇める新人信者と教団幹部、不倫中の女医とサッカー選手、偶然拾った老犬に癒される中年失業者。そして、仙台に向かう途中の東北新幹線で仙台に向かう社内の画廊オーナーとその女性画家の卵。

 これに、切断されたが再びひっついて歩き出す死体、予知的能力を持つ新興宗教のカリスマ教祖などが絡んでいく。

 5つの異なる登場人物がドタバタ劇を繰り返していく。基本的には奥田英朗氏の‘ドツボ型クライムサスペンス’のようだが、さらにポップで寓意的である。

 そして、舞台はオール仙台である。東北新幹線車中のシーンも、仙台に向かう途中なので仙台に加えていいだろう。仙台という箱の中で、時間軸を微妙にずらしながら展開していく。勧善懲悪的なエンディングなので、読後感も爽やかだ。

 なぜ仙台が舞台なのか。作者は何かのインタビューで、仙台に住んでいるため地理感があるから、特に深い意味はないそうである。確かに、仙台でなくても良かったかもしれない。

 ただ、画廊があって画家の卵が多く育つ文化的土壌があり、プロサッカーチームがあり、マンションが林立している。適度に街中でばったり出くわすかもしれない程度の人口過密度と中心市街地の集積度。新幹線が停車する都市。やはり、この作品は仙台が最も相応しい。〔次夜その三〕

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posted by machi at 15:03| Comment(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする