『ほろびない商店街のつくりかた』。政令市・北九州をけん引する魚町商店街振興組合理事長かつ、県内の商店街を統べる福岡県商店街振興組合連合会理事長である梯輝元氏の著作である。
理事長は若い時から商店街活動に取り組まれており、特に全国の先駆けになったリノベーション事業を中心にこの十数年の軌跡を濃厚極まりない筆致で活写。改行の少なさ(密度の濃さ)に理事長の気合が感じられる。
私が初めて北九州を訪れたのは2009年。小倉が都心なら、副都心という位置づけだった黒崎に招かれた。この時期、サーズという国内では神戸発祥の感染症が話題になっていた。
神戸から訪れた私はマスク着用で2時間しゃべり倒した。聴衆も全員マスク着用。今思えば、新型コロナを予見していたような一夜だった。
その翌年(2010年)は近畿地方の若手タウンマネージャー候補らを引き連れ1泊だけの北九州視察を引率。そして2011年より黒崎、若松で本格的な北九州との御縁が始まった。
私が小倉エリアにも御縁を頂くようになったのはたぶん2014年から。はっきり覚えていないが、梯理事長とは夏・冬の年2回ペースで酒席をご一緒させて頂く機会があった。そして2022年秋から半年間、毎月酒席をご一緒させて頂くことに。
著書を拝読していると、当然のごとくご本人の表情や声を如実に思い浮かべてしまう。幕間に挟まれるこぼれ話が面白い。特に75ページからの下りは興味深い。理事長、酒を呑みながら書いているのではなかろうか。
作中には数多くの人物が実名で登場。当然のごとく、組織名も。実名に関して私が存じ上げている方はごく数名だったが、組織名に関しては8割以上「よく」知っている。
前半は穏やかな入りだが、中盤あたりから理事長の荒ぶる魂が文章から溢れ出しているようだった。様々な使えない組織(実名)、個人(実名でない)を容赦無用でぶった切り。しかし、単なる批判ではない。その理由も活写されている。
困難に直面した理事長が組織、個人と戦いながら勝利を収めているシーン多数。勧善懲悪の物語のようで痛快である。組織を持ち上げては落とす緩急と高低の活用幅に惚れ惚れする。更に、ご自身が中心となって取り組んだが上手く運ばなかった事業に関しても堂々と触れている。
名言至言のオンパレードの中「郊外型SCで起業する人はいない」という一文が、特に私の印象に強く残った。補助金事業に取り組むリスクにも深々と首肯させられる。
商店街を取り巻く内部および外部トラブルはまさに「あるある」。情景が如実に目に浮かぶ。普通に会社(組織)務めしている人なら信じられぬレベルのトラブルに商店街は溢れている。
この著書、私は、面白かった。しかし専門用語や実例がかなり多いため、商店街活動に全く興味のない人向けではないだろう。理事長もそのような方を対象に書いていないはず。一方、SDGsに興味のある人、まちづくり(特に商店街活動)に興味のある人には必読の一冊である。
「リスクを誰が負うのか」。著作全編を共通するテーマに思えた。金銭面だけでなく、修羅場での矢面、人材の育成や登用含めて。
魚町のまちづくりがこれほど全国的な成功事例として広まっているのは、リスクを負う男(梯理事長)がいるから。私が知る限り、強弱、大小あれど、成功している商店街やまちにはリスクを負う人がいる。それが複数いればなお力強い。富良野しかり、八戸しかり、会津若松しかり。
余談だが、最後に近い179ページ5行目に、私の名前があった。思わず目を剥いた。全く知らなかった。ボロクソ書かれてはいないが、特段の活躍っぷりもない。薬どころか毒にすらなれぬフリーのヨゴレまちづくりコンサルである私は、日々リスクを負おうともしないからである。