2015年04月20日

第1195夜:「人生を変えた(かもしれない)」5冊の本【Book】(後編)

■『生物としての静物』(開高健 集英社文庫)

 最近は知らぬが、20年以上前の私の周りの大学生は開高作品が一つのステイタスとして読まれていた。大傑作の釣り冒険紀行『オーパ!』シリーズ(集英社文庫)をはじめ、『もっと広く!』『もっと遠く!』(ともに文春文庫)などの北南米釣り機構に胸躍らせた。しかし、先生の豊潤な文体と表現は当時の我が読解力では少々難しかった。

 今回取り上げた作品は、先生の愛する様々な「静物」をまさに`生物´のごとく生き生きと綴っている。ジッポーライター、百人一首、ビーフジャーキー、パイプ、ジーンズ、万年筆、釣り具…。これほど味わい深いエッセイ集はない。一言一句が宝石のように輝いている。

 私は20歳のころからヘビースモーカーだが、銘柄は浮気すれど基本的に「ラッキーストライク」。先生がこの銘柄を好まれており、この作品でも取り上げられている。

■『街のイマイチ君』(綱島理友 講談社文庫)

 私がサブカル的視点に目覚めた一冊である。浅草キ●ド、テリ●伊藤、み●らじゅん、大槻ケ●ヂ、リ●ー・フランキー、石●壮一郎といった各氏の新刊(文庫エッセイ限定ですが)は今でも必ず購入する。綱島作品も文庫はすべて網羅している(はず)。その中でもこのイマイチくんの秀逸ぶりが素晴らしい。

 サブカルではないが、嵐●光三郎、小●武夫、勝谷●彦といた大御所のエッセイも目が離せない。特に小泉先生の食エッセイは最も食欲を刺激する名著ぞろい。

■『深夜特急1〜6』(沢木耕太郎 新潮文庫)

 言わずと知れた若者のバイブルである。私が大学生の頃、この作品をモチーフにした猿●石のユーラシア横断ヒッチハイクが凄まじい社会現象になっていた。読み始めると、止まらない。誰もがじっとして居られず、世界を放浪したくなる。

 沢木エッセイもかなり読んだ。映画と本と酒と旅。氏の撮影したスナップ写真を集め文章を添えた豪華本『天涯(第一〜第三)』(スイッチ・パブリッシング)のセンスに唸らされた。

 沢木作品に夢中になった大学生時代。深夜特急の旅の回想や新たな旅エッセイをオッサンになって読む。少し驚いたことがあった。これほどナルシズム溢れる文体だったのか。

 好きな本を5冊挙げろと言われたら、三日三晩悩んでも答えがでない。今でもたまに読み返す本が、好きな5冊かもしれない。しかし、「人生を変えた(かもしれない)」5冊を読み返すことはあまりない(開高作品除く)。手放せずにいるが、読み直そうともあまり思わない。

 自分の適性ややりたい事が分からぬ夢溢れるハタチの頃と、酸いも甘いも経験した40代では感受性が違うからだ。自分探しの旅に出るには、やはりそれにふさわしい年齢がある。しかし私は40になって未だに自分の適性が分からない。感受性の衰えは著しいけれど。

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『生物としての静物』『街のイマイチ君』『深夜特急1〜6』
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2015年04月17日

第1194夜:人生を変えた(かもしれない)5冊の本【Book】(前編)

 「人生を変えた一冊は何ですか?」。

 裸一貫八尾市内で創業。地域に愛され複数店舗のオーナーとなった3名様による「八尾あきんど起業塾」パネルディスカッションにおける会場からの質問である。皆さん25歳で独立を決意。就職時点ですでに独立を視野に入れておられた。商売の醍醐味、辛かったこと、嬉しかったことなど、八尾で成功するコツなどを惜しげ語って下さる。

 たっぷり紹介したいが、これはセミナー(有料)を受講された方々の特典である。私は進行役を仰せつかっていた。

 冒頭の質問は私ではなく、パネラー各氏に対してである。私は大学生になってから実質的に読書を始めた。もし同じ質問を私に投げかけられていたらどのように答えただろうか。瞬時に一冊に絞れそうにない。ちなみに私の推測だが、質問者はおそらく経営に役立つ内容やその流儀・考え方が記された書籍を紹介して欲しかったのかもしれない。

 私は基本的にエッセイ(旅・食・サブカル)とミステリが主食。「好きな」本と「人生を変えた」本は異なる。後日、自宅の本棚を見渡した。定期的に処分しているが、常時3000冊ほどひしめいている。その中から「人生を変えた」(考え方を変えた)本を5冊選び出した。

■『わしらは怪しい探検隊』(椎名誠 角川文庫)。

 初めての読書がこの一冊である。以来、椎名先生の生き方に憧れた。豪快に仲間とビールを呑みながら語らい、世界中、日本中を旅して旨い酒と旨い肴を豪快に喰らう。先生の著作は文庫限定だがすべて網羅。300冊以上は優にあるだろう。最近かなり内容はカブリ気味だが。

 学生時代の共同生活を綴った『哀愁の街に霧がふるのだ(上・中・下)』(新潮文庫)もまさに私は大学生で寮生活を営んでいたので印象深い。私は今、日本中を旅(仕事ですが)してビールや酒を鯨飲しつ毎夜のようにその地域の旨いものを腹に入れながらその地域の仲間たちと酒を酌み交わしている。

 先生は作家、私はただの酔っ払いまちづくり屋だが、ある程度似たような生活になったかも。夢が叶ったといえないこともない。

■『キャベツの丸かじり』(東海林さだお 文春文庫)。

 週刊誌に長期連載中のエッセイ「丸かじりシリーズ」の第2作。大学生協を初めて手にして目を通した時、衝撃が走った。これほど旨そうに、独特の視点で食べ物を表現されるとは。着眼点があまりの斬新かつミクロ。上質のユーモアで溢れている。

 私のバカブログで食べ物関係が多いのは、明らかに東海林先生の影響である。このシリーズも20年以上。現在先生は80歳前で酒関連のテーマが減っているのが残念だが、完結するまで付き合う所存。先生の作品もエッセイはすべてコンプリートしている。〔次夜後編〕

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我が家の本棚。寝室や居間にも増殖中。

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『わしらは怪しい探検隊』&『キャベツの丸かじり』
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2013年08月18日

第788夜:ミステリーで読む都市論【Book】(後編)

 東京を語る上で絶対に外せない作品が、日本SF大賞受賞作『帝都物語』(荒俣宏)でシリーズ。角川文庫にから秘蔵の口絵入りで全6巻にまとめられている。

 明治中期から東日本大震災を予見するようなほんの少し前までの東京を舞台に、謎の魔人・加藤保憲と虚実入り乱れた歴史上・空想上の人物が戦いを繰り広げていく魔術大全というべき壮大なSF伝奇小説。東京という大都市が発展する過程を圧倒的スケールでつづられていく。

 帝都物語シリーズ、とっくに完結したものと思っていたが、数年前から幕末末期の江戸を舞台にエピソード1というべき作品が相次いで発表。世界観がさらに広がりを見せる。

 『帝都幻談(上・下)』(荒俣宏 文春文庫)は老中・水野忠邦氏の‘天保の改革’時代に遠山の金さん、国学者・平田篤胤氏らが加藤重兵衛保憲率いる妖怪軍団と壮絶な戦いを繰り広げる。平将門、アテルイまで登場。文庫版のおススメは、何と言っても水木しげる先生の挿絵がたっぷり楽しめること。

 戊辰戦争から明治維新に至る究極の激動期に舞台が下ったのが『新帝都物語 維新国生み編(上・下)』(荒俣宏 角川文庫)。平田篤胤氏の娘と娘婿、新撰組の土方歳三氏らが加藤重兵衛保憲と引き続き江戸を、日本を守るべく決死の活躍を展開する。江戸から東京へ。どこまで広がりを見せるか目が離せないシリーズである。

 『オリンピックの身代金(上・下)』(奥田英朗 角川文庫)は昭和39年の東京オリンピック直前の東京を舞台にした大傑作サスペンス。

 圧巻は、昭和49年生まれの私が想像し得ない昭和39年、日本が最も高度経済成長を迎え、某新宿2丁目、じゃなくどこかの3丁目を描いた映画の空気、雰囲気を文書で濃密に表現している点。当時のはやり言葉、流行などもたっぷり取り上げられており、間もなく70歳を迎える団塊世代が読むとさらに楽しめるだろう。

 しかし、この作品のテーマは限りなく重い。国家の威信をかけた東京オリンピック。急ピッチの工事などは東北の貧しい村の出稼ぎ労働者に対する過酷すぎる労働で支えられていたという現実。現代に共通する貧富の格差、都市と地方、文章中で「祝福を独り占め」している浮かれた東京へ鉄槌を下すべく、あるテロ行為が計画される。

 とにかく圧巻。上下巻900ページ近く、最初はとっつきにくいかもしれないが読み始めると止まらなくなる吉川英治文学賞受賞作だ。

 都市論は難しい内容が多いが、文豪(開高健氏)や神様(島田荘司氏)の視点で、それもミステリーの観点で都市を見つめなおすと、まちづくりという分野の壮烈な奥深さを味わうことができる。

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posted by machi at 08:24| Comment(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする