2020年09月22日

第2526夜:よげんの書【stay-home】

 ウィルスパニック系SF。小説、映画等様々なメディアで取り扱われている分野である。謎のウィルスが人類を未曽有の危機に陥れる点はほぼ共通。カミュ『ペスト』がベストセラーにも。

 引き籠り中の2か月、ミステリ、コミックをとにかく読みまくった。1日1冊ペース以上である。しかし本屋に行けないので自宅書庫を見渡し、「今」読むべき作品に改めて驚嘆させられた。

 『20世紀少年(全24巻)』(1999〜2007年)を10年以上ぶりに一気読み。浦沢直樹先生しか描けぬ圧倒的な世界観。私のような40代半ばから60歳ぐらいまでの20世紀少年には最高の物語。

 「よげんのしょ」には細菌がばらまかれて2000年と2015年の2段階で人類滅亡を示唆。争乱、都市封鎖、感染防止対策など、まさに新型コロナが全世界で猛威を振るう今読むべき驚愕のコミック。日本では松本サリン、地下鉄サリン事件が究極。目に見えぬ細菌ほど恐ろしき敵なし。 

 『ザ・スタンドT〜X』(スティーブン・キング 文春文庫)2500ページ10年以上ぶりに再読。まさに今読むべき巨匠畢生の超大作。

 アメリカのどこかの軍事施設から感染率=致死率99.4%のインフルエンザウィルスが漏洩。様々な場面で感染していく経路と様子が不気味。

 初版は1978年で、初読時はインフルエンザウィルスの蔓延など単なるSFでピンとこなかったが、多人数の集会禁止や都市封鎖、旅行の制限など今読むとしみじみ実感させる予言の書。

 U以降は旅の仲間が増減しロールプレイングゲーム状態。免疫を持って生き延びた人々が不慮の事故や自殺、殺戮、別の病気等で「第2波」として死んでいく淡々とした筆致が不気味。

 V以降は108歳の老女の元に集いし生き残りたちが、選挙や法を作って新たな街、というより国づくりを始める。法律が崩壊し無法地帯になった世界で秩序を民主主義によって取り戻そうとする善のグループと、ラスベガスを本拠地に荒くれどもをはじめとした恐怖政治で秩序を保とうとする悪のグループ。人間は悪になびいていくのか。

 最も首肯したのは電力復旧シーン。いきなり通電したから火事やスィッチが入れっぱなしの電気製品が一度に稼働して負荷に耐えられずショート。再稼働させるためにグループを組織してスィッチを切って廻ったりブレーカーを落としていくシーンの妙な細かさに感心。

 そして、壮大なカタルシス。伏線の回収も見事。舞台はアメリカのみにで全世界がどうなったのかは不明。キング作品は長大な上に正直申し上げて我がボンクラ頭では世界に入り込めず、様々な作品にトライしたが完読したのはこの作品と『グリーンマイル』『シャイニング』のみ。

 『JIN-仁-レジェンド』ドラマ総集編。これほど感動して泣いたドラマは初めてかも。普段はSF医療時代劇などのキワモノに1gも関心ないが、これは別格。勢いで文庫コミックス全13冊を捕獲。ドラマと異なるが感動したでありんす。特にコロリ(コレラ)シーンは手に汗握る。

 コロナ無ければ永遠に読む、観る機会なかった作品。自宅を事務所にしているためひたすら引き籠りっぱなしだが、土日昼夜関係なく電話やメールで相談を頂くことも。

 南方仁先生のような名医にはなれぬが、せめて商店街や中心市街地、創業希望者および創業間もない方々にとっての「ヤブ医者」ぐらいになることができれば。

(おまけ)緊急事態宣言期間(4月上旬〜5月下旬)の乱読本。
 以下、読了順。大量のコミック除く。

・蝦夷地別件(上・中・下)@船戸与一/新潮文庫
・煽動者(上・下)@ジェフリー・ディーヴァー/文春文庫
・神の時空 五色不動の猛火@高田崇史/講談社文庫
・今昔百鬼拾遺 河童@京極夏彦/角川文庫
・今昔百鬼拾遺 天狗@京極夏彦/新潮文庫
・新しい十五匹のネズミのフライ@島田荘司/新潮文庫
・陀吉尼の紡ぐ糸@藤木稟/角川ホラー文庫
・ハーメルンの哭く笛@藤木稟/角川ホラー文庫
・黄泉津比良坂、血祭りの館@藤木稟/角川ホラー文庫
・黄泉津比良坂、暗夜行路@藤木稟/角川ホラー文庫
・大年神が彷徨う島@藤木稟/角川ホラー文庫
・濱地健三郎の霊なる事件簿@有栖川有栖/角川文庫
・浮雲心霊奇譚 白蛇の理@神永学/集英社文庫
・心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言@神永学/角川文庫
・大塩平八郎の逆襲 浮世奉行と三悪人@田中啓文/集英社文庫
・マーベル空想科学読本@柳田理科雄/講談社文庫
・旅の窓@沢木耕太郎/幻冬舎文庫
・ザ・スタンド(全5巻)@スティーヴン・キング/文春文庫
・ヤマンタカ 大菩薩峠血風録(上・下)@夢枕獏/角川文庫
・大相撲殺人事件@小森健太朗/文春文庫
・ミレニアム5(上・下)@ダヴィド・ラーケルクランツ/ハヤカワ文庫
・三国志(全13巻)@北方謙三/ハルキ文庫

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20世紀&21世紀少年。

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ザ・スタンド。

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仁ーJINー。
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2020年05月20日

第2448夜:仙台は伊坂ワールド【stay-home】(その四)

■『チルドレン』(講談社文庫)における仙台 → 私の仙台度:4

 仙台在住の大学生、家裁調査官、セキュリティシステム会社の女性、盲目の好青年が主人公の短編集。それぞれ独立した作品として楽しめるが、すべての主人公に共通する友人知人として「陣内」という男性が存在する。

 陣内氏は詭弁家と見受けられる。「皮肉な詭弁家」という特性は、伊坂作品に登場する主役級の人物に共通している点かもしれない。

 伊坂ワールドでは天才肌の屈折したヒーロー的に描かれているようだが、現実に存在すれば「イッちゃったヤツ」にしか思えないだろう。会話するだけで面倒くさそうだ。

 この陣内氏を軸に、すべての作品が繋がっている。しかも、時系列でなく過去と現在が交互に入れ替わる。通して読むと一つの長編として成立するという、超絶技巧に唸らされる。

 伊坂氏がよく用いるテーマの‘銀行強盗’(もしくは店舗襲撃)が冒頭の作品。以降、誘拐などがモチーフに挙げられるが、殺人はなし。徐々に「日常の謎」系に移行していく。

 冒頭の短編が仙台を舞台とし、以下、登場人物が共通しているので仙台が舞台として推測される。しかし、仙台の街中を綿密に描写しているシーンは少ない。全編を通じて仙台なのだが、どこかパラレルワールドのような雰囲気が、伊坂風味である。

 デビュー当時より数年たった作品の方が、伊坂ワールドは健在ながら明らかに作品世界の幅が広がり、リーダビリティ(「読みやすさ」または「一気読み必至」とでもいうべきか)が増していると私は感じる。

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■『終末のフール』(集英社文庫)→ 私の仙台度:4.5

 地球に小惑星(巨大隕石)が衝突し、8年後に人類が滅亡することが確定してから5年を経過した仙台市郊外の団地が舞台という、独特の設定に妙がある8編の連作短編集である。

 すべて1人称で語られ、団地マンションの住人たちがすべての作品でリンクしながら、3年後に死を迎える中の日常生活が淡々と描かれている。

 人類滅亡が発表された直後は全世界で暴動が起きたが、5年経過すると落ち着きと秩序が生じ、残り僅か3年の人生を精一杯平和に楽しもうとする。状況設定の悲惨さは変わらないが、どの作品も活きる力と希望にあふれた見事な作品が揃っている。抑えた筆致も好感度高し。

 この作品の舞台が仙台市の中心市街地なら、また異なった雰囲気になっただろう。郊外の団地をほぼ舞台として限定しているので、どこかほのぼのとした雰囲気がある。私の持つこの作品のイメージは‘団地のベランダから公園越しに見える夕日’だ。

 8編の作品タイトルは、どれも韻を踏んでいる。表題作をはじめ『太陽のシール』『籠城のビール』『冬眠のガール』『鋼鉄のウール』『天体のヨール』『演劇のオール』『深海のポール』。タイトルそのものが作品の伏線となっている。

 今回は6作品紹介した。読み直したのだが(注:2011年)、初読時より遥かに面白く思えた。これからも作品(文庫限定ですが)は出続けるので、至福の楽しみを味わえそうである。

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2020年05月19日

第2447夜:仙台は伊坂ワールド【stay-home】(その三)

■『重力ピエロ』(新潮文庫)→ 仙台度:5

 伊坂先生が大ブレイクするキッカケとなった記念碑的作品。驚愕のラストというものはなく、話の展開は私ですら予測容易だが、ミステリという概念を越えた家族小説としても楽しめる。

 仙台を舞台に放火事件が頻発。なぜか放火場所には謎の文字が書かれたグラフティアート(よく分からないが、多分スプレーの落書きのようなもの)が。この2つに関連は?暗号なのか?

 主人公兄弟が調査を進めるうちに、主人公の弟の出生に纏わる秘密が、二重らせんのように絡み合い始める。

 『ラッシュライフ』の主要登場人物が、脇役として渋いところを見せる。この作品の主人公は『死神の精度』にもゲスト出演している。仙台を舞台に、様々な作品で、それぞれの登場人物がどこかで繋がっている。

 スタイリッシュな会話、独特の引用。遺伝子、ゴタール、グラフティアート、ネアンデルタール人などなど。このような脈絡のない名詞が、宝石にように煌めき、ちりばめられている。

 この作品も実写映画化されている。加●亮氏、岡●将生氏、鈴●京香氏、小日向文●氏が原作とイメージ通りというか、これ以上ハマるキャスティングは思いつかないほどである。ヒール役の渡●篤郎氏も、出番は少ないながら存在感を見せつける。

 映画はほぼオール仙台ロケが観光されたようで、この作品のロケ地マップすら発行されている。仙台の街のポップでアートな魅力を、街中だけでなく郊外まで余すところなく伝えている。

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■『フィッシュストーリー』(新潮文庫)→ 私の仙台度:3

 4作が収録された短編集で、いずれも伊坂長編作品の登場人物やその関係者が活躍する、スピンオフ的な作品である。ただ、どの作品も外伝的な枠を超え、極めて水準が高くバラエティに富んでいる。

 『動物園のエンジン』は、動物園の折の前で寝そべっている謎のオトコがいる。ただ、彼がいるだけで、動物たちが活気づく。彼は、動物園の「エンジン」のような存在なのか。ただ、この男が重大事件に関わっているかもしれない。

 (おそらく)仙台の動物園とは特定されていないが、男の謎を『ラッシュライフ』主要人物の父親たちが、解き明かそうと試みる。このことから、仙台市内の恐らく架空の動物園と推測される。また、地下鉄の乗車しているシーンがある。地下鉄を有する都市は限られている。

 『サクリファイス』は、伊坂ワールドで頻繁に登場する泥棒が主人公。伊坂作品は街中をスタイリッシュに描くことが特徴と思っていたが、仙台から離れ宮城県と山形県の県境にある閉鎖的な村で、生贄など土俗的風習が色濃い村を描いている。それでもしっかりと伊坂ワールドは確立されているのが見事。仙台度は低め。

 『フィッシュストーリー』は表題作であり、私は未観だが映画化もされている。一つの歌の録音に纏わるトラブル的なものが、録音から10年後、20年後、30年後の時空を跨ぐ。いわゆる「風が吹けば桶屋がもうかる」的な話と私は感じた。

 それぞれの時空で主人公は異なるが、そのうちの一人が実家のある仙台に車で戻る途中の話や回想シーンがあり、仙台は登場するものの極めて低め。

 『ポテチ』はタイトルがあまりにも秀逸で、見事な伏線となっている。伊坂ワールド全開ながら、しっかりとした家族小説であり、人情ドラマとなっている。主人公の女性と、その彼氏の母親との掛けあいが絶妙。作者の筆のノリが伝わってくる。

 ほぼ全編仙台が舞台であり、仙台市民ならニヤリとさせられること請け合い。仙台度は極めて高い。〔次夜最終〕

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posted by machi at 12:23| Comment(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする