ある秋の昼過ぎ。2度目の観音寺訪問となった私は、うどん県に訪れたにも関わらず、うどんを啜る暇がなかった。観音寺駅前にはざっと見渡しても見当たらない。駅前の観光案内所で観音寺うどんMAPを捕獲する。かなりの軒数だが、徒歩圏内は少なそうだ。
私は訪問する商店街の近くにある一軒に狙いを定めた。空腹である。気持ちを急かせながら店に突撃すると、何故か閉まっている。マップの情報では定休日でも営業時間外でもないはずなのだが…。4秒ほどで気持ちを入れ替えた。まあ、よくあることだ。
そのまま目的先の<茶屋ガーデン>へ。商店街専務理事のF田氏がオーナーのレストラン。個性的かつ広々とした店内は、若い女性グループやカップルでびっしり。度胆抜かれる。F田氏は観光協会会長も兼務されており、観音寺の魅力を市外、県外、全国、世界に発信すべく日夜獅子奮迅のご活躍をされている。様々なブランド商品の開発も手掛けられている。
案内されるまま奥に向かうと、F田氏と商店街Y田理事長が遅めの昼食を取られていた。私も同席。定食も魅力的だが、私としてはうどん一択。しかし、レストランなのでうどんはなさそうだ。せめて麺を啜りたい。スパゲティの種類は豊富そうなイメージがある。
F田氏が「いりこスープスパ」を勧めて下さった。私の空気頭に照明が灯った。観音寺は日本最強のいりこの産地。うどんは数あれど、いりこを前面に押し出したスパゲティがこの店でしかお目にかかれぬはず。心震える素晴らしいメニューである。もしうどんがメニューにあっても、私はスープスパを選択しただろう。打合せしながらも、期待に胸が高まる。
程なくしてブツが運ばれてくる。……。思わず見とれた。ニンニクとオリーブオイルの香りが食欲をさらに喚起させる。いりこも原型そのままトッピング。その名に相応しい。
大根おろしと絡めながら啜る。……。目の前に、青空と海とオリーブ畑が広がった。観音寺だけど、なぜか地中海を思い浮かべる。西洋と東洋ががっちり握手している。茹で加減も抜群で、濃厚と淡白が同居するハイレベルな合わせ技。私は夢中で熊啜する。最後は行儀悪いが、直接皿に口を付けてスープごと啜り喰う。最高だ。
レジ横には様々ないりこにまつわる商品が置かれている。オーナーのF田氏にすっかりご馳走になってしまった私は、「いりこ」と書かれた徽章を購入。さっそくジャケットに着ける。自分自身がいりこマンになったような気分になり、実に誇らしい。F田氏の運転で、お店から1分ほどの商店街事務所に向かった。〔次夜後編〕
絶品。いりこスープスパ。

