富山ブラック。何とも不穏で魅惑的な響きを有する言葉である。一般的な知名度は分からぬが、麺道を究めようとする者にとっては自明の理。富山で覇を唱えるご当地ラーメンである。
十数年前の昼前。乗り換えのためだけに富山駅に降り立った私は、昼食に富山ブラックラーメンを啜るべくそこら中で改装中の駅舎を出た。関西の知人軍団にバッタリ邂逅するという嬉しき鳥肌経験の後、一人ブラックに染まるべく、駅舎近くの飲食店を探索し始めた。
ブラックを求める私の視界に飛び込んできたご当地丼があった。「白えび天丼」。富山湾の貴婦人と言われている艶やかなピチピチ。思わず立ち止まった。魅力的なご当地料理である。
黒か、白か。店の前で3秒ほど長考。米派と終わりなき終末戦争を展開している麺派の私は我に立ち返り、初志貫徹すべく黒へ心の振子を傾けさせる。もう、迷わない。観光案内所でランチマップを入手し、駅から最も近そうなラーメン店<一心>に向かった。
店内はサラリーマン客でびっしり満員。地元客、それもサラリーマンや工事関係者で賑わう店に外れなし。カウンターに陣取った私は、メニューを見る。特に`富山ブラック´という表記はないが、メニュー写真のスープは確かに黒い。お店のダントツ一押しだった「煮玉子ラーメン」を注文。富山で最初に煮玉子を提供した店であることが記されている。
ブツを待つ間、暇つぶしに店内ポップやメニューを斜め見る。化学調味料不使用完全無添加、ナントカ水使用、カルシウム、コラーゲン、麺とスープへのこだわり……。腹より頭が満腹になりそうな時、ブツが運ばれてきた。黒い。MJのように「フォ〜」と叫びそうになる。
ラードが油膜を作り、漆黒のスープが揺蕩っている。煮玉子の黄金色が一際鮮烈。圧倒されつつ、まずはレンゲでスープを啜る。……。思いっきり和風魚介風味である。もっと胡椒辛い、もっと塩っぱいかと思いきや、マイルド。昔は濃厚ギトギトを愛していたが、年を重ねて魚介系にも心奪われるようになった私にとって、実に体になじむ味。
食べ放題のキャベツキムチをラーメンと啜ると、過激さが増す。煮玉子も抜群で、麺もスープとよく絡む。化学調味料不使用完全無添加のため、パンチ力よりもバランス重視が見事。
啜り終えて駅に戻る。売店で二つのカップ麺を発見した。「富山ブラック」(寿がきや)と富山限定「白えびらーめん」(イシダ)。黒か、白か。迷わず両方握りしめ、レジに向かった。帰宅後、あまり時を置かず啜り比べた。
「富山ブラック」は鶏ガラと豚骨ベースらしいが、刺激満点の胡椒の味が存在感独り占め。全く<一心>さんのラーメンと異なる味。これが王道の富山ブラックなのか。富山湾の貴婦人「白えびらーめん」はかなり和風。白えびの旨さを全体で包み込む。優しく上品な味わいだ。
ブラックが『BAD♪』のごときポップ味なら、ホワイト(白えび)は『ヒール・ザ・ワールド♪』のごときバラード味。マイケルの名曲『BLACK or WHITE♪』。私は……。
全く覚えていない。黒、というより赤。
(付記@)
今回はデータが残っていた十数年前の死蔵ストックをアップ。この内容、掛け値なしにほぼ覚えていない。自分自身の出来事と思えないが、次夜への前説である。
(付記A)
以降、他にもカップで「富山ブラック」を啜っていた模様。

