2015年12月09日

第1341夜:店主におまかせ【酒田(山形)】

 店主におまかせコース。実力派名店が揃う山形県酒田市の居酒屋群の中でも、私にとってベスト1かもしれぬ海鮮居酒屋<笑快晴>さんのお得すぎるコースである。

 晩秋の秋のごとき冷え込みが体を包む10月上旬。中通り商店街で勉強会終了後、S野理事長と2人で<笑快晴>へ。私が初めて酒田入りした夜もこのお店。以降、いつ行っても満員で入れないのだが、21時を回っていたためかカウンターが空いていた。理事長と陣取る。

 日替わりのオススメメニューには字面だけで涎が溢れだす魅力に満ち溢れている。びっしりだが、すべて注文したいほど。何を注文しようかと迷いに迷う。理事長が「おまかせコース」にしようとおっしゃる。私も異存なし。コースは1500円で3品、2000円で5品、2500円で6、7品(すべてお通し含む)。2000円5品コースを理事長は選択した。

 生で乾杯した後、すかさず1品目が出てきた。たっぷりのイクラにタンポポのごとき可憐な黄色が指し込んでいる。「菊はららご」である。酒田では食用の菊があり、なじみの食材という。イクラの皮が柔らかく、鮮度抜群。見事な味付けである。菊が爽やかにアシストする。

 2品目は大皿にたっぷりと盛られた枝豆。庄内名産だだちゃ豆かと思いきや、すでに旬の季節は終了。庄内にはだだちゃ以外にも優れた枝豆が多いらしく、「みどり豆」という極上の品種。ちなみに枝豆は朝採りしたものをその日のうちに湯がいて食べるのがベストだそうだ。

 日本酒に切り替えたいが、前夜日本酒を鯨飲しすぎたので焼酎に。理事長が「爽」という酒田が蔵元の「甲類」焼酎を勧めて下さる。マスター曰く日本一旨い甲類焼酎であるという。お土産で買っていく御仁も多いそうだ。

 私にとって甲類は銘柄を問わず不味くて安いという印象しかない。ただし、レモンサワーや炭酸割(プレーン)、ウーロンハイなどには甲類が欠かせない。私にとって甲類の味はどうでもよく、安ければ安いほど良い。日本一の甲類とやらを試してみる。……。確かにすっきりしている。独特のエチルアルコール臭も和らいでいる。どんな料理や酒にも合いそうだ。

 「刺身5種盛」も圧倒的。地物の〆鯖、赤海老、ナントカ鯛など新鮮極まりない海の恵みたちが1人前でもたっぷり。思わず唸り声を上げそうになる。巨大な「カンパチのカブト焼」も身がたっぷり。口に運ぶと口いっぱいに極上の身であふれるという至福ぶり。「おでん(7品)」もボリューム満点なのに上品。この出汁が〆の汁モノにも早変わりする。

 杯を重ねながら庄内地区の歴史だけでなく森羅万象を知るS野理事長が語る悲しい黒歴史。終戦記念日は8月15日だったが、ロシアとの講和条約締結は8月19日。この4日間、ロシアから庄内地区は思いっきり空爆されていたという。この期間に北方領土が知らぬ間にロシアに。あと2週間講和が遅れていたら北海道の半分はロシア領だったかもしれないそうだ。

 店のステキな雰囲気と料理の絶品ぶりと対照的な理事長が語る黒歴史に鳥肌が立ってしまった。

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魅力溢れすぎるお品書き。迷ったら「店主におまかせコース」。

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おまかせ・その一。

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おまかせ・その二。

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おまかせ・その三。

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おまかせ・その四。

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おまかせ・その五。
posted by machi at 08:06| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月08日

第1340夜:酒田ラーメン進化論【酒田(山形)】

 <麺屋酒田>。ワンタンメン王国・山形県酒田市最大の中通り商店街S野理事長イチオシのラーメン店である。

 兵庫西宮で鯨飲し、翌朝寝過ごして神戸市内の自宅からタクシーで伊丹空港までぶっ飛ばし、寝ぼけて茫然としたまま朝から●万円の出費に入滅寸前の10月上旬。風が強く秋どころか冬の気配さえ感じられる13時ごろ、中通り商店街に無事到着した私はS野理事長とS藤女史と合流。理事長の運転で打合せを兼ねラーメン昼食のため理事長イチオシ<麺屋酒田>へ。

 車に乗り込んだ瞬間、理事長が何も言わずさりげなく少しだけウィンドウを下げた。強烈な酒臭さだったようである。「なかなかのフレグランスですね」と笑う理事長。S藤女史は酒を嗜まれないので、私の横は生き地獄だっただろう。

 目的地に到着。私の酒田のバイブル「酒田ラーメン物語」には「酒田ラーメンを考える会」に加盟する14店舗が詳しく紹介されているが、掲載されていない名店も数多いそうだ。<麵屋酒田>は掲載されておらず、イチゲン辿り着き不可能な立地だが、店内満員でひっきりなし。地元住民比率ほぼ100%と推測される。サラリーマンも高齢の夫婦も夢中で啜っている。

 小上がりが空いていたので陣取り、壁面メニューを見る。ラーメン、チャーシューメン、つけ麺、味噌ラーメン、岩のりラーメン、味噌バターコーンラーメンというラインナップ。残念ながらワンタンメンはなかったようだ。それぞれに大盛、小盛があるようだ。

 岩のりラーメンが気になったが、私は「チャーシューメン」を召喚。大盛にすべきか迷ったが、酒田のラーメンはこれまで啜った店はどこも麺が普通の店の大盛以上。並で日和見する。

 夜のミッションに向けた打合せをしていると、ブツが運ばれてきた。……。圧倒的なチャーシューのボリューム、巨大な1枚海苔、たっぷりのメンマ、刻み葱、そしてかなり太目の麵である。レンゲが添えられており、そこには背脂がこんもり乗せられている。

 シンプルな酒田ラーメンっぽいが、チャーシューの豪快さ、麺の太さ、背脂はかなり先を走っている。まずはスープを一啜り。……。シンプルであっさりだがコクがある魚介醤油だ。

 麺のモチモチ、メンマのシコシコ、チャーシューのジューシーを一通り堪能した後、背脂を投下した背脂を一気に混ぜ合わせる。そしてスープ。……。一気に粗々しくなった。しかし、しっかりと酒田ラーメンの底を保っている。可憐な田舎の美少女が都会に出て外観は弾けてしまったものの、心は純朴なままといった趣の味わいだ。

 前夜の酒が汗として頭皮から噴き出してくる。無言夢中で熊啜。あっさりとこってり。味の好みは人それぞれだが、両方楽しめるのはお得である。理事長曰く、最近は味を微妙に変え、よりくっきりと個性が出始めている店が増えたという。このお店の流行りっぷりも酒田人の舌がハイブリッドに進化している証拠かもしれない。

【付記】後日お聞きしたのだが、<麺屋酒田>さんは「酒田みなと市場」近くにも支店を出されているそうで、「朝ラー」が楽しめるという。しかも、納豆入り。……。進化の極北である。

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イチゲン辿り着きの道険し。

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ワンタンメンがない…。

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背脂が強烈。
posted by machi at 06:45| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月09日

第1328夜:芋煮は味噌か醤油か【酒田(山形)】

 芋煮。北海道のジンギスカンに匹敵する、山形を代表する秋の風物詩である。字面だけなら極めて渋く地味な料理を連想させる。三陸宮古で啜った「芋の子汁」と類似しているのだろうか。山形の芋煮は里芋を使うという。居酒屋定番「里芋煮っ転がし」とも異なるそうだ。

 江戸時代は東北随一の商業都市として栄えた港町・山形県酒田市。鮮度最強で旨みも濃い絶品海の幸だけでなく、山も恵みも充実している。

 夜の肌寒さが熱燗を恋しくさせる9月下旬。商店街の旦那衆と豆腐料理が自慢の<兵六玉>へ。酒田沖・飛島名産「烏賊の塩辛」で我が人生最高の塩分濃度を更新し、悶絶していたころ「芋煮」が運ばれてきた。山形で芋煮に対峙することは、私の念願の一つだった。

 グルメ漫画収集を一つの趣味にしている私だが、最も敬愛するのは山形県(米沢)出身のラズウェル細木先生。先生の著書は我が聖書。ほぼすべてコンプリートしているはずである。

 作品中、「芋煮」が取り上げられることがある。河川敷等で芋煮の大鍋を囲み、昼から仲間たちと酒を飲む「芋煮会」に憧れた。北海道ではジンパ(ジンギスカンパーティ)、日本全国ではバーベキューだろうが、山形は芋煮会らしい。情景を思い浮かべるだけで素朴で嬉しくなる。

 大ぶりの椀にブツが運ばれてきた。思いっきり味噌仕立てである。それも白味噌のようだ。江戸期に貿易港として名を馳せた酒田は京文化の影響を受けているという。ゆえに白味噌なのか。大きな里芋がゴロゴロ。豚バラ肉もたっぷり。ニンジン、キノコ類が彩りを添えているが、「人参は邪道」と厳しい御仁もおられた。

 味噌に口を付ける。……。様々な野菜の旨みと豚肉の脂とコクが溶け出し、思わず目を細める。一味唐辛子をパラパラさせ、味を引き締める。豚肉、里芋、野菜などをツマミながら熱燗の杯を重ねる。汁モノで酒を呑むことを至上のヨロコビとしている私には極上の逸品である。

 商店街の旦那衆と談笑しつつ芋煮のことをお聞きする。芋煮は家庭料理だが、味噌と豚肉ではなく醤油と牛肉というパターンもあるという。これがデフォルトらしく、味噌&豚肉は山形県沿岸の庄内地区限定らしい。県下醤油&牛肉が内陸を含め県内をほぼ制圧しているという。

 最近の若者は河川敷ではなく普通にバーベキューをするらしい。確かにその方が簡単だが、芋煮会文化を後世まで伝え続けていただきたい。

 暴食せず深夜に旅館に戻り、24時間薬草風呂大浴場を満喫。翌朝、再度大浴場でサッパリし、朝食会場へ。普段朝飯を腹に入れる習慣はないが、我が定宿<若菜旅館>は手作り朝食のハイレベルらしく、興味をそそられた。芋煮でシメとしたせいか、胃もスッキリしている。

 焼き立ての具だくさん玉子焼き、何かの焼魚、熱々の極上だし味噌汁、ピンとたった熱々御飯、ヘルシーな野菜系煮物小鉢…。ドリンク付の大充実だが、もう一品欲しかった。未食の内陸版芋煮(醤油&牛肉)にぜひお手合わせしたいと切望してしまった。

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庄内風の芋煮。味噌と豚肉で。
posted by machi at 06:54| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする