2016年01月22日

第1373夜:日本海のホンマグロ【酒田(山形)】

 爆弾低気圧。冬の山形県酒田市を襲った異常気象により鉄道はすべて不通状態。雹交じりの強風が横っ面を叩いてくる。骨の芯から冷え込んでくる寒さの中、旅館自慢の朝食をスルーした私は朝9時過ぎ、歩いて10分ほどの<酒田みなと市場>へ向かった。規模は決して大きくないが、東北各地の市場よりは声が出ている。

 強烈な押しに負けていわし煎餅540円を買った足で、その隣の<小松まぐろ専門店>へ。大トロ、中トロ、ネギトロ、赤身、そのミックスなど様々なバリエーションのマグロ丼が超リーズナブルに楽しめるという。その前夜、地元商店主に午前11時までに入店することを強く勧められた。それ以降は満席になってしまうからという。

 時間は10時前。店は市場らしく9時に開いているようだ。中途半端な時間のためか、客は誰もいない。最初にレジで注文して支払いを済ませるタイプである。

 大トロ丼でも1500円、その3種ミックス(大・中・赤身)でも1000円ちょっと。私はデブメタボだが、鮪は赤身が一番好き。赤身丼はなんと550円である。

 少し申し訳ない気分にもなり、いくら(200円)をトッピング。熱いお茶で体を温めていると、ブツが運ばれてきた。鮮烈な赤身の眩しさである。鼻息が荒くなる。大きめの御飯茶碗というサイズだが、みっしりと米が詰まっている。牡丹のように花開いたマグロの中央に、いくらがたっぷり乗っている。その横の食用菊の黄も鮮烈な指し色だ。

 まずは味噌汁を一啜り。じんわりと旨い。五臓六腑に沁み渡る。昨晩の酒が浄化されていく。醤油をぶっかけず、小皿に醤油とワサビを研ぐ。赤身を一切れ箸でつかむ。醤油にたっぷり絡め、口に運ぶ。赤身特有の上品かつ豊潤、ワインのような旨みが口の中に広がる。

 呑み込む前にすかさず米に食らいつく。ほのかな酢飯だった。マグロを頬張りつつ、酢飯バクバク。マグロと酢飯をバランスよく腹に入れていく。思わず目を細める。口角が上がる。極上の刺身でご飯をグイグイ呑み込む感覚。日本人で良かったとシミジミ感じる瞬間だ。

 時折味噌汁を啜り、漬物でアクセントを奏でる。マグロをすべて食べ終えた。後は御飯が5分の1、そして、手を付けずにおいたイクラである。

 醤油ワサビをここで一気に垂らし、一心不乱に食らいつく。ノドをグイグイ押し広げていく感触が官能的である。いくらのコクと旨みが酢飯に絡みつき、そこに醤油とワサビの絡みと塩っ気が包み込む。

 私は、絶頂した。あっという間に食べ終えた。しかも、ホンマグロであるらしい。出発に余裕がある朝、ぜひ市場に足を運び、朝からマグロ丼を味わっていただきたい。酒田の醍醐味である。地酒が呑みたくて狂おしくなるけれど。隣接店舗のワンタンメンも魅力的だけれど。

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格安絶品「赤身丼」(550円)にイクラ(200円)をトッピング。

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綺羅星のごときメニュー群。
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2016年01月18日

第1372夜:酒と醤油の魔法【酒田(山形)】

 キントキ鯛。日本海の海の恵みがたっぷりと満喫できる山形県酒田市では、関西ではなじみのない数種類の鯛を賞味してきた。比較的さっぱりしている一方、ねっちりした食感が官能的で奥深い滋味がある。

 鯛の刺身を口に放り込み、咀嚼して呑み込んでから間髪入れず地酒を口に流し込む。鳥海山の頂上に一気飛びした気分になる。

 ある晩秋の妙に生暖かい酒田の夜。中通り商店街にて勉強会を終えた私は、商店街の旦那衆方と中通り2階にある超絶人気居酒屋<魚山人>へ。屋号の通り、海だけでなく山の幸も絶品である。天ぷらのボリュームと実力は出羽三山が束になっても敵わない。

 そこそこ広い店内なのに若マスターが一人で切り盛りしているので、マスターのペースに身を委ねる。生で乾杯した後、商店街の旦那がキープしていた焼酎ボトルを湯割りで。

 お通しが運ばれてきた。マグロとメカブの山かけである。冷たいとろろがツルルとノドに流れていく感触は隠微かつ超絶である。

 刺身の盛り合わせと私のリクエストのウマヅラハギ(カワハギ)の肝醤油和えが運ばれてきた。私の愛する白身魚の二強は、フグとカワハギ。フグの肝は食べられないが、カワハギの肝はフグの代用とするには失礼なほど豊潤な旨み。マルハギはともかく、ウマヅラハギにも肝が備わっているとは恥ずかしながら存じ上げなかった。

 数種類の鯛をメインとした刺身の盛り合わせも色鮮やかで鮮度最高。どれを食べても絶品。ウマヅラ肝和えは白身の旨みを最高に引き出している。醤油を付けずとも絶妙の加減である。

 何度聞いても覚えられない酒田名産の漬物を口に運びつつ焼酎をガバガバしていると、パフェのようなグラスにこんもりと牡蠣ポン酢が運ばれてきた。酒田は夏の岩牡蠣の産地なので冬の牡蠣は他所のようだが、旨いことに変わりなし。思わず熱燗が欲しくなる。

 今シーズン(2015秋〜2016春)初の牡蠣天ぷらが野菜天ぷらと一緒に運ばれてきた。熱々を頬張る。……。歯に力を入れた瞬間、サクっという衣の歯ごたえが耳に届く。身に歯がほんのわずか喰い込んだ瞬間、熱々の牡蠣汁が口の中に飛び出した。思わず目を白黒させ、すかさず卓上の湯割を流し込む。余計に熱くなったようだが、これも冬の醍醐味である。

 マスターが小椀を人数分運んできた。刺身盛合せで出てきたキントキ鯛の粗を、酒と醤油だけで粗汁に設えたものという。他の出汁を一切使わず、純粋に酒と醤油と水だけだ。

 湯気にウットリする。口を近づけて、慎重に啜る。……。思わずウォ〜っと感嘆の呻きが漏れる。私だけでない。同行氏らも一斉に同じような呻きを上げている。地元の常連である旦那衆らも唸らせる魔法。魔術的腕前に驚愕した魔王的旨さのシメである。

 店を出た。三々五々解散する。私は極上のシメの余韻に浸りながらイキツケになったBAR<アバディーン>へ。粗汁でシメた後は、ウィスキーでシメるのである。

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カワハギの肝和えと刺身盛合せ。

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酒田名産の漬物(手前のオリーブ色)。

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まさに「牡蠣パフェ」。

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地酒に最強、天ぷら盛合せ。

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酒と醤油と水だけが織りなす出羽庄内の奇跡。
posted by machi at 08:19| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月27日

第1355夜:屋台が取り持つ縁と艶【酒田(山形)】

 北前横丁。2015年10月15日にオープンした屋台村である。山形県内は未踏ながら山形市内の中心部の屋台村が著名。全国から視察が訪れる人気スポットである。我がミッション先である中通り商店街からひとブロック移動したところに煌々とそびえ立っている。

 約10店舗の入居区画があり、とりあえず5店舗が先行オープンした模様。屋台村の魅力は投資が少ないことと、面積が狭いこと。一人で開業を志す人にとっては手ごろなスペースであること。いくら賃料が安くても面積が広ければ持て余す上に人件費や光熱費などを含めランニングコストが高額になる。

 屋台村入居の2次募集では5つのメリットを紹介。「初期費用の削減(通常の3分の1以下)」「多くの集客(初年度10万人の入込目標)」「経営相談(バックアップ体制)」「他の有名屋台村からのアドバイス(八戸みろく横丁・山形ほっとなる横丁など)」「店内(8席)だけでなく広場も使った用途の多様性」。確かに魅力的である。

 余談だが我が前職の神戸新長田時代に展開した「丸五アジア横丁ナイト屋台」はアジアに絞った一日だけのチャレンジ出店。それで自身を掴んでいただき市場の空店舗へ出店を促した。

 理事長、副理事長と偵察を兼ねおでん屋台へ。1品250円らしい。大阪の超高級おでん屋と同額かもしれない。思わず目を剥いた。熱燗や焼酎でおでん、いぶりがっこなどを腹に入れる。

 外は本当に寒い。各屋台は超満員というワケではないがどこも8割の入り。壁面には巨大スクリーンがあり、様々な情報を流せるようだ。

 理事長の奥様もお見えになられた。すると、副理事長の知人熟女2人もお店へ。すでに呑んでこられたのか、ゴキゲンに元気一杯である。同じ東北でも三陸方言とは全くことなる庄内酒田方言が心地よく、旅情気分を呷られる。

 店で仕事が残っている理事長夫妻と別れ、私と副理事長、熟女2人の4人で屋台村を出てスナック街?へ。中国系の明るく楽しいママらが頑張るスナックに突入。まさに、屋台村が取り持つ「縁」である。

 様々な事業を展開している副理事長は空港にも置いているという土産「オランダせんべい」をカバンから取り出した。オランダ?日本とオランダの接点というと、長崎の出島ぐらいしか思いつかないが、副理事長が経営する<酒田米菓>さんの商品である。

 スナックのお通し(スナック菓子)を軽く無視し、酒田名物「おらんだせんべい」を口に運ぶ。……。甘塩っぱさが酒を進ませる。なぜオランダなのか。パッケージの裏面を読むと、庄内や酒田では肯定する時「んだんだ」という。自分のことは「おら」という。自分のものという意味は「おらのだ」→「おらんだ」。脱力感満点である。

 もう一袋頂戴し、旅館で夜中にポケットバーボンをヤリながら「おらんだ」に齧りついた。思わず「んだんだ」とほほ笑んでしまった。

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立ち寄らずにいられない。

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外は極寒。

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冬の醍醐味、おでんと熱燗。
posted by machi at 12:54| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする