2016年03月10日

第1407夜:雲の王国【酒田(山形)】(その三)

 無我夢中でチャーシュー、麺、メンマ、スープを交互に乱れ喰い。途中、卓上のニンニクとラー油を少し投下してみたが、その必要は全くなかった。この2種類はふやけた味のラーメンを再生させるべく確変に用いるなら有効な武器だが、このスープには余計だった。策に溺れてしまう。修業がまだまだ足りない。

 麺、チャーシュー、メンマを完食。そして、残ったのはワンタンである。たっぷりである。麺と異なり、ワンタンはフヤケた方が味が染み込み、さらに柔らかくなり旨さが倍加する。

 レンゲで掬い、スープもろとも口に滑り込ませる。……。一瞬、意識が飛んだ。視界が真っ白になった。口に入った瞬間、するすると滑るようにノドへ押し流される。ワンタンに包まれた肉の旨みも濃厚である。これだけで一食のメニューとして成立する。

 私は雲の上に乗った気分でフワフワと意識が朦朧とし始めた。ふと気づけば、丼は完全な空っぽ。ワンタン汁を一口啜った後、あまり記憶がない。あまりの絶頂な官能に意識がチャネリングして飛んでしまったようだ。もしかすると、白目を剥いて啜っていたやもしれぬ。

 ちなみにこのお店、当面の間15時には閉店するという。旨しワンタンメンとの出会いは一期一会。地球の奇跡である。

 『酒田のラーメン物語』(酒田のラーメンを考える会・酒田市麺類食堂組合共同監修)の<川柳>紹介ページもシーナ先生のエピソードがたっぷり。「ラーメン通の作家椎名誠氏ひとめぼれのワンタンメン。`雲を呑むような滑らかさ´と評された(以下略)」という。

 『ラーメン物語』で紹介されている14店舗以外にも実力を兼ね備えた名店が軒を連ねている酒田。`月系‘以外にも王国の領土が拡大している。

 シーナ先生は`満月インパクト´後に数店で啜られたようで「酒田こそ日本最古の独立ワンタンメン王国」と力強く宣言。なかでも先生の心をつかんだのが中心市街地にある<川柳>さん。この店のワンタンメンに一番胃袋を掴まれたそうである(『すすれ!麺の甲子園』より)。

 シーナ先生ご友人の某居酒屋評論家氏が酒田を呑み歩きしたBS番組でも、この店が一番と太鼓判を押していた。

 ワンタンメン一択ではなくうどん、そばも含め麺類の種類が凄まじい。その一方でご飯ものが存在しない点も清々しく潔い。

 11月中旬なのに30度を超える沖縄名護で明け方4時半まで鯨飲。超弩級の二日酔いと戦いながらバス2本、飛行機2本乗り継いで酒田に到着。寒暖の激しさ、二日酔いが抜けて空腹。本日一食目。熱々たっぷりワンタンメンを啜るには最高のコンディションである。〔次夜その三〕

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シーナ先生大絶賛<そば川柳>さん。

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麺類一択な豊富すぎるメニュー群。

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シーナ先生の御著書でも熱く推薦。
posted by machi at 06:58| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月08日

第1406夜:雲の王国【酒田(山形)】(その二)

 レンゲでワンタンをすくい、口に運ぶ。……。唇に触れた瞬間、ツルンと口の中に飛び込んできた。まるで生きているようである。熱々で目を剥きそうになった瞬間、雪解けのごとくワンタン皮がスープの旨みと共に霧消する。最後に皮に包まれていた肉の激しい旨みが押し寄せる。限りなく雪に近い雲。私は夢中になり、麺一本、汁一滴、ワンタン一皮残さず熊啜した。

 私はワンタンメンを偏愛している。毎週のように通う北九州でも、豚骨ラーメンにワンタントッピングがあれば迷わず注文する。しかし、これまで啜ってきたワンタンと酒田ワンタンは別次元。<満月>メニューに「ワンタン」のみもあった。思う存分「雲」を味わえそうだ。

 月1〜2回ペースで酒田に通っていると、訪酒日が近づくにつれ落ち着かなくなる。酒田ワンタンメンが脳裏から離れない。すっかり王国の虜囚である。

 冬の訪れを感じせる10月下旬。庄内空港からバスで市役所前に13時前到着。前夜は一睡もしておらず、移動中もPC猿打で、2本の飛行機も2本のバスも30分から1時間程度なので熟睡には至らない。

 眠気と空腹が入り混じった無重力状態のまま、<満月>さんから歩いて2分ほどの<中の口三日月軒>さん直行。もちろんワンタン系一択である。店頭のワンタンメンと力強く印字されたノボリが風ではためき、何とも頼もしい。私は電球に群がる蛾のごとく吸い寄せられた。カウンターに陣取り、メニューを見る。

 意外なほど豊富だが「チャーシューふわとろワンタンメン」を召喚。これまで数軒酒田のお店で啜ってきたが、自家製麺はもちろん、その量が普通サイズで一般の大盛。ちなみにこの店では普通が220g。どの店の小サイズをわざわざ表記しているほどだ。大盛は1.5倍。普通サイズでも大満足である。餃子やライス系などサイドメニューがないところも実に力強い。

 常連客が続々入ってくる。スポーツ新聞を斜め読みしているとブツが運ばれてきた。……。最初、戸惑った。分厚く大きなチャーシューとメンマとネギが鉢を覆っているが、ワンタンがない。

 あれ?恐る恐るスカートを捲るように(捲ったことありませんが)チャーシューを捲ると、その下にはワンタンがびっしり。微笑と苦笑と恥ずかしさが入り混じった気分に浸る。

 鼻息で鳥海山まで飛ばされそうになりつつ、胡椒をパラリ。まずはスープを一啜り。……。おおぅ…。これぞ酒田系。澄み切ってクリアなのに重層的な魚介鶏ガラ醤油出汁。思わず目を細める。自家製麺を啜る。……。適度なコシとモチモチ感が泣けてくるストレート系。スープにもよくなじむ。麺の味そのものが猛烈な旨さを醸し出す。

 チャーシューを頬張る。柔らかくてジューシー。ロース肉なのでしつこくなくサラリとしている。味付けも半端ない。チャーシューだけでも塊ごと買って帰りたい気分だ。〔次夜その三〕

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<中の口三日月軒>さんの「チャーシューふわとろワンタンメン」。

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頼もしい店構え。

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入らずにいられない。

posted by machi at 23:24| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月06日

第1405夜:雲の王国【酒田(山形)】(その一)

 『すすれ!麺の甲子園』(椎名誠 新潮文庫)。シーナ先生が北海道から沖縄まで津々浦々を網羅したご当地麵の魅力をふんだんにタップリと取り上げた麺フェチ必読のバイブルである。

 読了は数年前だが、圧倒的に興味を惹かれたご当地麵が「酒田ワンタンメン」だった。シーナ先生の筆も踊っている。「強豪ワンタンひしめく酒田へ突入」の章で詳しく紹介されている。

 大学1年の頃初めて読んだシーナ作品が私の趣味を読書へといざなった。以降、エッセイ、小説を問わず文庫化された作品はほぼすべて読了したはずだ(軽く300冊以上)。『すすれ!麺の甲子園』以外にもエッセイで酒田ワンタンメンに触れた作品があったように記憶する。

 酒田ラーメンの歴史や製法、特徴を余すところなくユーモアあふれる筆致で解説した後、具体的な実食シーンへ。

 「たまたま昼どきに<満月>という店の前を通りかかった。(中略)そのワンタンこそまさしく我々が本当のワンタンを求めてついには天竺まで行こうかと考えていた矢先に出会った雲呑みワンタンであったからだ。」(以上、無断引用)。震えるではないか。

 2015年9月上旬。遅めの午後に酒田入りした私は定宿に荷を解き、早速ワンタンメン攻略の歩を進めた。旅館から10分ほど歩いて到着したのが、シーナ先生が最初に訪れた<満月>さん。酒田ワンタンメンを世に知らしめる超有名店であり、現在の聖地といえる。創業50年の老舗でありつつ、営業時間は11時から16時半という短さだ。

 昼時はとっくに過ぎているが、店内は満席。家族連れ、サラリーマンでびっしりだ。有名店でありながら女性店員さんたちの接客も極めてキビキビと爽やかで温かい。

 ワンタンメン一択かと思いきやうどんやタンメンもあるが、やはりワンタンメニューの充実に目を惹く。最高値メニュー「チャーシューワンタンメン」を召喚した。

 待つ間、店内をキョロキョロ見渡す。冷やしワンタンメンなるメニューもあり、さすが山形県と唸らされる。メニューには「幾度となく圧延を繰り返して薄く伸ばしたとろけるようなワンタン。数種の煮干しと鶏ガラなどを合わせて炊いたスープ、シャキっとした歯ごたえの自家製麺。どこか懐かしく、じんわり体に沁みる定番の一杯です」。心の高鳴りが抑えられない。

 ブツが出てきた。……。目を剥いた。凄まじい量である。酒田ラーメンの特徴として麺の量が多いことも挙げられるが、眼前の作品は明らかに通常サイズの倍。ゆえに「ワンタンメン(小)」を注文する年配女性の声が至る所で聞こえてきた理由が判明する。

 まずはスープを一啜り。……。シンプルな醤油味だが、その底に豊潤な海の恵みが幾層にも横溢している。魚介一択ではない鶏ガラのコクも好アシストを決めている。

 麺を啜る。……。ノドごし、切れ味、スープとの絡み具合、そしてその味。……。官能を通り越した何かがノドを通り過ぎていく。〔次夜その二〕

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チャーシューの下に広がるワンタンの海。

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‘月系’の聖地(らしい)。
posted by machi at 09:51| Comment(0) | 山形県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする