2010年07月02日

第24夜:女王陛下のAKB【伊勢(三重)】(後編)

 どよめきと歓声に包まれて、飼育記録21年目という日本記録を保持する、ミナミゾウアザラシのマルコ女王が降臨した。人間年齢では80歳を超える大長寿らしいが、二見シーパラダイスを、一つの芸で20年以上も支えてきた。「アッカンベー」である。

 現れては消える昨今のアイドルグループと異なり、伊東四R氏「ニンッ」、谷K氏「ガチョーン」、」村上Sョージ氏「ドゥーン」など、(恐らく)永遠に語り継がれる一発芸や、たった1曲の大ヒットで数十年営業し続ける演歌歌手のように、腰に粘りが感じられる。

 女王はあまりの高齢のため、動きはコマ送りのようにスロー。本来は引退して悠々自適の生活を送りたいのだろうが、そこは悲しき一枚看板。引退はまだ先のようである。まさに、海獣界の森光K氏といえよう。

 トレーナーの声と餌に合わせ、女王は何度も「アッカンベー」を披露。観客が写真を撮り終わるまで、アッカンベーの姿勢を崩さないところに、芸の重さと細かさを感じる。そして、女王は体調と機嫌がよろしいのか、特別に大技を披露されるという。女王直属のシモベ(トレーナー)が厳かに、拝謁する庶民(我々)に宣言した。

 期待と不安が入り交まじり、食い入るように観ていると、女王はゆっくりと体を起こし、そのままゆ〜っくりと反り返って尻尾(足?)と後頭部を引っ付ける、一人プロレス技を見せつけた。あまりの脱力系大技に、拍手のタイミングを逸すという失態を私は犯した。

 マルコ女王はテレビCMにも出演した経験があり、園内グッズの多くをマルコアッカンベーが占めている。来館の目玉としてだけでなく、グッズ売上の貢献度のかなりにものだろう。

 これほどまでの貢献度と知名度にも関わらず、女王は二見のローカルタレントの枠から脱していないような気がする。街のシンボルとなり、まちづくりにおける様々な舞台で気ぐるみやイラストキャラクターが活躍してもよさそうなものだが、あまり見かけない。なぜだろう。

 私は一昔前のプロ野球の原理をここに見た。巨人絶対主義である。

 メジャーな鳥羽水族館は巨人であり、マイナーな二見シーパラダイスは弱小地方球団のような関係にある。巨人絶対主義とは、巨人の控え選手の方が他球団のタイトルを獲得したスター選手よりも知名度が高く、引退後の将来も巨人控えの方が約束されていることである。以前ほど影響力は薄れていたとはいえ、その傾向は今もそれほど変わっていないだろう。

 太閤秀吉の時代から400年以上にわたり、一般的な関西人のDNAに刷り込まれたアンチ東京、アンチ巨人。頼朝より義経が愛され、赤穂浪士や弱小高校野球チームの甲子園快進撃を応援するのは、判官びいきの太古の血脈。「二見シーパラダイス」を熱烈に私は支持する。

 ちなみに今回のタイトル、007シリーズの異色作『女王陛下の007』のパロディだが、何か?

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マルコ女王の十八番「AKB(アッカンベー)」

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マルコ女王渾身の大技
posted by machi at 06:39| Comment(0) | 三重県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月01日

第23夜:女王陛下のAKB【伊勢(三重)】(中編)

 入場すると、資金のなさを工夫で補おうとする努力が随所に感じられ、胸を打つ。私は海獣ショーを3本続けて見る幸運に恵まれた。さながら‘二見ロック座’の様相を呈してきた。

 前座はアシカショー。平日の午前中のため、たまたま観客も少なくゆったりと鑑賞できる。

 アシカは元気が良すぎて、プールを飛び越し観客席まで乱入。しかもそのまま会場を飛び出してしまい、係員が必死になって館内も戻そうとしている。観客も芸なのかハプニングなのか、判断がつきかねている様子だ。
                
 黒光りする2頭のアシカは、器用に様々な芸を見せつける。私もノリノリで拍手をおくる。観客がアシカめがけてワッカを投げ、首で見事にキャッチする定番芸がある。トレーナーのお姉さんがワッカを投げたい人に挙手を促すが、子どもは非常に少なく、私のようなオヤジばかり。積極的に挙手するわけもなく、気まずい雰囲気が流れる。

 居たたまれなくなった私が挙手しようとした瞬間、同じく所在なさげだった前に座る男性も挙手。私がお姉さんに指名されることはなかった。この当たりの微妙な雰囲気は、ストリップ劇場におけるダンサーとかぶりつきの観客との掛け合いに似たものがある。

 続いてセイウチショーが始まる。家のソファーに寝転んでゴロゴロ酒を呑んで太っている私は、セイウチに強い親近感を持つ。

 勇んで屋外の会場に向かうと、ステージがない。戸惑っていると、おもむろにマットが通路となっている地べた敷き詰められた。ストリートでセイウチショーが開催されるという。このあたりのフットワークの軽さ、臨機応変さは、まちづくりに不可欠の要素である。まるで大道芸のようだ。

 ブホブホ言いながら、2頭の巨大なセイウチが出てきた。仰向けになって拍手したり、口笛を吹いたり大活躍である。セイウチはダラダラ動かないものと思い込んでいたが、予期せぬ軽快な動きに目の覚める思いだ。

 観客の一人がトレーナーのお兄さんに指名され、舞台中央に登場。2頭のセイウチが、両頬にキスするのだ。アシカもそうだが、トレーナーがリズムよく投げる餌の魚をひたすら食べ続けているので、かなりの口臭だそうである。観客を気の毒と思いながらも、セイウチにキスされる経験なんてなかなかできないのだから、羨ましくもあった。

 ショー終了後はセイウチに直接触れることができる。ツーショット記念撮影会もある。カメラを構えている間、セイウチはカメラ目線のまま動かない。慣れたものである。

 いよいよ、真打ち登場である。悠々とした圧倒的な存在感で、二見シーパラダイスの女王陛下が2頭のセイウチを脇にやり、「スター●ォーズ」シリーズのジャバ・ザ・ハットのごとくゆっくりとステージ中央に進んできた。思わず息を呑む。〔以下次夜〕

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切ないアシカショー
posted by machi at 07:01| Comment(0) | 三重県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月30日

第22夜:女王陛下のAKB【伊勢(三重)】(前編)

 「AKB48」。今、最も勢いのあるアイドルグループのようだ。40代以上の壮年にとっての「キャ●ディーズ」や「ピン●レディ」、私のように30代後半の中年にとっての「おニ●ン子クラブ」、20代後半の青年にとっての「モー●ング娘」のような存在か。

 斬新なのは‘総選挙’なるものを実施し、メンバーを都度選抜していること。政権交代を経て従来より政治関心が高まった2010年の日本男子の青い心を鷲掴みしている。

 順位を付けず、万事‘競争’を排し、すべてを平等に扱おうとする昨今の運動会の徒競走のような現代日本の教育制度に、一石を投じたといえなくもない。

 AKB総選挙における、小さな地方自治体の首長選挙など全く及ばないほどの注目と速報性に、私は驚愕した。他国のマスメディアにとっては、パレスチナあたりでAKBという新しい政治団体が勃興したのかと錯覚したのではないか。

 ‘AKB’の意味ははっきりと分らないが、たぶん‘アキバ(秋葉原)’なのだろう。すでに‘アキバ系’すら死語の感がする。ちなみに、AKBの意味をネット検索してみたら、1980年代末の西武ライオンズのクリーンナップ(秋山・清原・バークレオ)と出たので思わず声を出して笑ってしまった。デストラーデでなくバークレオというところに、独特の渋さがある。

 私は当初(今も少し)、AKBは「アッ・カン・ベー」の略と思っていた(いる)。おそらく、私の空気頭の中で「PKB」(ピー・カー・ブー:いないいないばぁ)と混同していたのだろう。

 アッカンベー。AKB48のみなさんや小悪魔的美女、天使のような乳幼児がするとカワイイだろうが、私のような中年のオッサンが披露すると、職場、呑み屋を問わずこの上なく人を不愉快にさせる仕草である。老若男女問わず人間がこれをすると、強弱あれど波風が立ちやすいものだが、ミナミゾウアザラシがすればどうなるか。

 三重県の伊勢・鳥羽地区には、(たぶん)日本3大水族館とされる‘水の惑星’「鳥羽水族館」がある。太陽のように眩しく明るく清潔なトバスイから車で10分も移動すると、もう一つの水族館が存在することをご存じだろうか。神戸の小学校修学旅行の定番、二見浦の夫婦岩のすぐ近く。伊勢市の「二見シーパラダイス」が日陰の月のようにひっそりと佇んでいる。

 鳥羽水族園と二見シーパラダイス。最新鋭の設備と環境、広大さ、水族生物の豊富さ、美しさを醸し出す前者に比べ、後者は場末のキャバレーのような雰囲気が充満。アシカショーのステージなど、鄙びた温泉街のストリップ劇場を彷彿とさせる。

 設備や規模では劣るが、民営ならではのアットホームさとサービス精神は、二見シーパラの大きな魅力。料金は鳥羽に比べ半額程度なのも嬉しい。入口横の巨大水槽では、3mを超すトドがグルグル泳いでいる。これは無料で鑑賞できるので、豪気なサービスである。〔以下次夜〕
posted by machi at 08:21| Comment(3) | 三重県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする