朝食抜きで津に移動したため、猛烈な空腹。がっつり食べたい。カットされた蒲焼5枚入りの特上丼(肝吸い付)の大盛を迷わず注文した。
すると店員さんが心配顔で「大盛ですか…。お客様初めてですか?残されてしまうと、お持ち帰りいただきますが…」と妙な気を配ってくれる。うなぎ蒲焼を焼く匂いは、人の理性を破壊し、私の空腹を激しく痛めつける。残すはずないではないか。どんと来い。
ビールか酒を頼もうと思ったが、午後からも街歩きを続けねばならないので断念。お茶をすすり、スポーツ新聞を読みながら待っていると、お待ちどうさま、と声を掛けられた。待ってましたと振り向いた。
……。絶句し、目を剥いた。マウント・オーガスタスが屹立していた。
丼からはみ出しているってもんじゃない。ハンドボールほどの巨大な茶褐色のUFOである。山頂に大きく肉厚のうなぎ蒲焼が5枚、ちょんまげのように積み重ねられており、申し訳程度にフタが乗っている。分福茶釜のたぬきのようだ。
どこから食べたらよいか分らず攻めあぐねていると、近くのテーブルからクスクス笑い声や会話が聞こえてくる。
「よくあんなの注文するよね」
「アハハ、写真撮りた〜い」
……。
仲間と一緒ならリアクションも可能だが、私は一人孤独である。恥ずかしさで俯くことしかできない。
意を決して食べ進める。とにかくはみ出した激盛部分だけでも食べて、他の客の好奇の視線から逃れたい一心だ。蒲焼をかじる。辛口のタレに、炭火焼の香ばしさ。悶絶ものの旨さだ。普段なら大切にチビチビ齧りながら味わうのだが、思いっきり丸かじり。
フタに蒲焼をいったん移動させ、タレがしみ込んだ飯を攻める。旨い。熱燗をヤリながらゆっくり食べたいが、そんな悠長は許されない。ひたすら掻きこむ。サービス満点なのか、ご飯が隙間なくギュウギュウ詰めだ。
タレが満遍なく掛けられた飯はかなりの強敵と気付いた。味が濃いので、腹が満たされてくると苦戦する。澄まし汁の淡白と漬物の酸味で対抗するが…。
結局、蒲焼を3枚、飯にいたっては半分しか食べられず残してしまった。大盛を注文して残すと、持ち帰り料金が発生する。いくら払うのだろうか。
会計の時、幾分緊張したが、しっかりしたタッパーの容器85円のみで安堵する。しかも店のロゴ入り。これはいいお土産になるが、食べ残したことに深く反省する。うな重ではなくうな丼とはいえ、2,100円は安いと思う。
帰りの近鉄特急で、猛烈な喉の渇きに襲われた。20分おきに、ペットボトルが空になる。満腹ではちきれそうな胃に液体をガンガン注ぐので、さらに米粒が膨らんでいくようだ。
食べても減らない極上のうなぎ丼。夢のような現実だが、じっくり、ゆっくり、しみじみ味わうものであるようだ。スタミナを付けすぎても、はけ口がないのだから。
巨大な一枚岩。<新玉亭>鰻特上丼大盛
2010年07月27日
2010年07月26日
第39夜:スタミナ過剰【津(三重)】(前編)
マウント・オーガスタス。オーストラリア西部にある世界最大の一枚岩である。その高さ約1,000m。写真を見た限り、岩でなく山にしか見えない。同じオーストラリアの著名なエアーズ・ロック(世界2位)の2.5倍の大きさらしい。私は三重県の県庁所在地・津で、マウント・オーガスタス級スケールを誇る茶褐色の一枚岩を発見した。
津駅から近鉄電車で1駅の津新町は、津市の中心地。商店街が集中している。「丸の内商店街」「わけべまち商店街」「大門商店街」「だいたてたてまち通り」などである。地元百貨店「松菱」は大勢の地元客でにぎわっている。ちなみに、戦国武将・藤堂高虎ゆかりの地で、それにちなんだイベントも数多く開催されているようだ。
ホタホタと散策していると、うなぎのノボリを多く見かける。そして『うまっぷ』なる、うなぎの食べ歩きスタンプラリー付ユーモア満載のグルメマップを発見した。それによると、津は一人当たりのうなぎ消費量が日本一で、津っ子にとってうなぎはソウルフードとのこと。ちなみに2位は大阪、3位は京都。すっかり東京がぶっちぎり1位と思い込んでいた。
まちづくりのキャッチフレーズで有効なのは、「日本一の●●」「日本三大●●「日本有数の●●」「●●発祥の地」シリーズである。こじづけでも良い。どんな地域でも、探せばあるはずだ。私が30年以上過ごした神戸・新長田は、10年前まで何もない地域だった。いや、何もないのではない。気付かなかっただけなのだ。それが今では、いろいろ思いつく。
「日本一のお好み焼店の集積地」(「世界一」でも同義である)
「お好み焼きの聖地」(豪華でなくシンプルな具材と調理法のため)
「日本最大級の再開発事業が行われている街」(褒め言葉かは微妙だが)
「世界一大きなアニメキャラクターのモニュメント」(18mの等身大鉄人28号)
「ぼっかけ(牛すじコンニャク)発祥の地」(真偽はともかく、言ったもん勝ち)
「いかなごのくぎ煮発祥の地」(明石、垂水、塩屋とも言われているが)
「日本一のケミカルシューズ生産高」(震災前は全国の8割シェアだったそうだ)
うなぎの養殖が盛んな東海地方で、津も力を入れていたが、養鰻池(というのだそうだ)がすっかり姿を消し養殖が途絶えた後も、うなぎ屋だけがそこにあり続けたらしい。A級グルメな街である。
‘津に来て戦隊ツヨインジャー’という、いくつものダジャレが掛けあわされたご当地ヒーローが紙面で大活躍するマップには23店舗が掲載。その中から、津新町駅に近い「新玉亭」の暖簾をくぐった。異様に立派な緑色のビルである。マップによると超有名老舗店らしい。お客がひっきりなしに入ってくる。 〔以下次夜〕
津駅から近鉄電車で1駅の津新町は、津市の中心地。商店街が集中している。「丸の内商店街」「わけべまち商店街」「大門商店街」「だいたてたてまち通り」などである。地元百貨店「松菱」は大勢の地元客でにぎわっている。ちなみに、戦国武将・藤堂高虎ゆかりの地で、それにちなんだイベントも数多く開催されているようだ。
ホタホタと散策していると、うなぎのノボリを多く見かける。そして『うまっぷ』なる、うなぎの食べ歩きスタンプラリー付ユーモア満載のグルメマップを発見した。それによると、津は一人当たりのうなぎ消費量が日本一で、津っ子にとってうなぎはソウルフードとのこと。ちなみに2位は大阪、3位は京都。すっかり東京がぶっちぎり1位と思い込んでいた。
まちづくりのキャッチフレーズで有効なのは、「日本一の●●」「日本三大●●「日本有数の●●」「●●発祥の地」シリーズである。こじづけでも良い。どんな地域でも、探せばあるはずだ。私が30年以上過ごした神戸・新長田は、10年前まで何もない地域だった。いや、何もないのではない。気付かなかっただけなのだ。それが今では、いろいろ思いつく。
「日本一のお好み焼店の集積地」(「世界一」でも同義である)
「お好み焼きの聖地」(豪華でなくシンプルな具材と調理法のため)
「日本最大級の再開発事業が行われている街」(褒め言葉かは微妙だが)
「世界一大きなアニメキャラクターのモニュメント」(18mの等身大鉄人28号)
「ぼっかけ(牛すじコンニャク)発祥の地」(真偽はともかく、言ったもん勝ち)
「いかなごのくぎ煮発祥の地」(明石、垂水、塩屋とも言われているが)
「日本一のケミカルシューズ生産高」(震災前は全国の8割シェアだったそうだ)
うなぎの養殖が盛んな東海地方で、津も力を入れていたが、養鰻池(というのだそうだ)がすっかり姿を消し養殖が途絶えた後も、うなぎ屋だけがそこにあり続けたらしい。A級グルメな街である。
‘津に来て戦隊ツヨインジャー’という、いくつものダジャレが掛けあわされたご当地ヒーローが紙面で大活躍するマップには23店舗が掲載。その中から、津新町駅に近い「新玉亭」の暖簾をくぐった。異様に立派な緑色のビルである。マップによると超有名老舗店らしい。お客がひっきりなしに入ってくる。 〔以下次夜〕
2010年07月05日
第25夜:ゲゲゲとオカゲ【伊勢(三重)】
お陰参り。江戸時代に大流行した伊勢市の伊勢神宮内宮の「お伊勢参り」と同義らしい。そして、伊勢といえば<A福>。そのA福が音頭をとり、補助金を活用せずに1993年、江戸末期の街並みを再現したのが、年間400万人が訪れる一大観光地「伊勢おかげ横丁」だ。いつ訪れても強烈なエネルギーと賑わいで、江戸末期の狂乱「ええじゃないか」と踊りだしたくなる。
私は江戸時代から存在した横丁と勘違いしていた。なんと、平成に出来上がったのだ。日本のまちづくり史上の奇跡であり、屈指の成功例である。「お陰」参りと、伊勢神宮の「おかげ」で栄えたことをかけ合わせたネーミングの分かりやすくて素晴らしい。
みらいもりやま21ブログで、石G氏がベストセラー『東京島』(桐野夏生)の一節「オラガオラガの‘ガ’を捨てて、オカゲオカゲの‘ゲ’で生きろ」に感動した旨が紹介されていた。
マンガキャラのまちづくりの先駆であり頂点である境港市(鳥取)は、M木しげる先生の『ゲゲゲの鬼●郎』キャラクターを最大限活用した妖怪のまちおこしで成功を収め、勢いは増すばかり。今放映されているN●K連続TV小説も『ゲゲゲの●房』だ。その舞台の調布市(東京)も気合いのこもったキャンペーンを展開中だ。高級住宅街・調布と妖怪の掛け合わせが良い。
日本最強級の神社の存在に奢らず、伊勢おかげ横丁近辺は訪れるたびに新しい発見、工夫がある。広大な原始の緑とマイナスイオンに包まれた内宮参拝後(もしくは前)のお楽しみは、何といっても五十鈴川を愛でながらの、横丁散策と食べ歩きである。
「一日一麺」を信念とする私は、日本全国の「イケ麺(by南紀みらい梶j」通の間で屈指の極太うどんとして知られる「伊勢うどん」を食べたことがなかった。
麺を美味しく啜る最高のシチュエーションは、屋外の立ち喰いである。その名も<おかげや>で立喰い伊勢うどんを啜る。極太麺を極限まで柔らかく煮込み、甘めの出汁醤油をかけたもの。麺は固めが好みなのだが、伊勢の地には絹のような柔らかさが合うようだ。
7年ぶりに訪れた伊勢おはらい通り&おかげ横丁は、相変わらずすごい活気と人出。<豚捨>のコロッケを齧りながら、<二軒茶屋餅>の地ビール『神都ビール』をゴキュゴキュ。私がこれまでに呑んだ地ビールの中でぶっちぎりの旨さ。すっきり呑みやすくも深い味わいで、凡百の地ビールと一線を画している。
原木しいたけ天ぷらや焼牡蠣などにホクホクし、試食で鶏皮揚や絶品だったサバ燻製をつまむ。<傅兵衛>という漬物屋の箸に刺したスティック胡瓜は、かつおだしがさっと効いていて爽やかで、オトナのアイスといった風情でまことに良かった。
造り酒屋が経営する立ち呑み屋で、塩を肴に200円ほどのお神酒を呑み、我が身を清めた。まさに時代は「ゲゲゲ」と「オカゲ」の「ゲ」である。
極太柔らか「伊勢うどん」
<二軒茶屋餅>民都地ビール(ギンギンに冷えてます)
さっぱりさわやか「胡瓜スティック」
私は江戸時代から存在した横丁と勘違いしていた。なんと、平成に出来上がったのだ。日本のまちづくり史上の奇跡であり、屈指の成功例である。「お陰」参りと、伊勢神宮の「おかげ」で栄えたことをかけ合わせたネーミングの分かりやすくて素晴らしい。
みらいもりやま21ブログで、石G氏がベストセラー『東京島』(桐野夏生)の一節「オラガオラガの‘ガ’を捨てて、オカゲオカゲの‘ゲ’で生きろ」に感動した旨が紹介されていた。
マンガキャラのまちづくりの先駆であり頂点である境港市(鳥取)は、M木しげる先生の『ゲゲゲの鬼●郎』キャラクターを最大限活用した妖怪のまちおこしで成功を収め、勢いは増すばかり。今放映されているN●K連続TV小説も『ゲゲゲの●房』だ。その舞台の調布市(東京)も気合いのこもったキャンペーンを展開中だ。高級住宅街・調布と妖怪の掛け合わせが良い。
日本最強級の神社の存在に奢らず、伊勢おかげ横丁近辺は訪れるたびに新しい発見、工夫がある。広大な原始の緑とマイナスイオンに包まれた内宮参拝後(もしくは前)のお楽しみは、何といっても五十鈴川を愛でながらの、横丁散策と食べ歩きである。
「一日一麺」を信念とする私は、日本全国の「イケ麺(by南紀みらい梶j」通の間で屈指の極太うどんとして知られる「伊勢うどん」を食べたことがなかった。
麺を美味しく啜る最高のシチュエーションは、屋外の立ち喰いである。その名も<おかげや>で立喰い伊勢うどんを啜る。極太麺を極限まで柔らかく煮込み、甘めの出汁醤油をかけたもの。麺は固めが好みなのだが、伊勢の地には絹のような柔らかさが合うようだ。
7年ぶりに訪れた伊勢おはらい通り&おかげ横丁は、相変わらずすごい活気と人出。<豚捨>のコロッケを齧りながら、<二軒茶屋餅>の地ビール『神都ビール』をゴキュゴキュ。私がこれまでに呑んだ地ビールの中でぶっちぎりの旨さ。すっきり呑みやすくも深い味わいで、凡百の地ビールと一線を画している。
原木しいたけ天ぷらや焼牡蠣などにホクホクし、試食で鶏皮揚や絶品だったサバ燻製をつまむ。<傅兵衛>という漬物屋の箸に刺したスティック胡瓜は、かつおだしがさっと効いていて爽やかで、オトナのアイスといった風情でまことに良かった。
造り酒屋が経営する立ち呑み屋で、塩を肴に200円ほどのお神酒を呑み、我が身を清めた。まさに時代は「ゲゲゲ」と「オカゲ」の「ゲ」である。
極太柔らか「伊勢うどん」
<二軒茶屋餅>民都地ビール(ギンギンに冷えてます)
さっぱりさわやか「胡瓜スティック」