2016年09月04日

第1530夜:妖艶な伊賀牛の巻【伊賀(三重)】(前編)

 伊賀牛。三重県伊賀市が誇るブランド牛である。松阪牛や神戸牛などと比べると知名度不足は否めぬが、肉質は同等クラス。そして、非常にリーズナブルである点が最大の特徴である。

 私は神戸市民だが神戸牛などこれまでの人生で食べた記憶は1度あるかどうか。ところが伊賀市民は伊賀牛を常食。輸入牛も含め他の牛肉を口にすることも少ないという。

 伊賀市最大最強の商店街・伊賀上野銀座商店街にも伊賀牛を取り扱っている肉屋さんがあり、どちらも大人気という。伊賀牛をフュ―チャーしたメニューも多そうだ。

 当地ブランド牛をウリにしている商業地を尋ねたら、これ見よがしにその牛を前面に押し出した看板のすき焼屋、ステーキ屋などを見かけることが多々あれど、伊賀ではあまり目立たない。忍者が目立つことはご法度なので、その血を商業者も受け継いでいるのだろう。

 ある晩春の夜。伊賀上野銀座商店街の旦那衆と勉強会の後、商店街の居酒屋<いとう>さんで遅くから懇親会。山に囲まれた里だが気合の入った刺身盛合せの後に運ばれてきた「軍鶏の王将風」に微笑。見た目は思いっきり普通の大ぶりな唐揚だが、一口齧ると<餃子●王将>の味に酷似。マスターは一度舌に乗せた味の再現力に極めて秀でているという。

 私が住みたい地域の選定にいくつか外せぬ要素がある。その一つが<餃●の王将>の存在。しかも`京都系‘に拘る。岩手県宮古市も`大阪系´ではなく`京都系´なら申し分ないのだが。

 大皿にたっぷりとした焼肉が運ばれてきた。タレに絡められた「伊賀牛」焼肉である。地元の方々は食べ慣れているようで、どうぞどうぞと進めて下さる。遠慮モードをオフにした。

 鼻の穴で吹き矢を飛ばせそうなほどの興奮を抑えられず、箸を伸ばす。……。柔らかさ、甘み。仕事がら日本中で様々なブランド牛をご相伴させていただいてきたが(商店街の役員は肉屋さんが割と多いため)、伊賀牛の実力も世界クラス。妖艶な`くのいち´にハニートラップを仕掛けられたような背徳かつ極上の味わい。脳天に手裏剣が突き刺さったような衝撃だ。

 ある初夏の夜。同じく伊賀上野商店街の旦那衆と22時過ぎからシブい構えのL字カウンター居酒屋へ。閉店後に貸し切ったそうだ。豪快そうなママさんが一人で切り盛りされている。

 生で乾杯し、数品の小鉢を肴に杯を進める。折しもその10日ほど前に三重は全世界から注目を独り占めしていた。伊勢志摩サミットである。その際の晩餐会で、伊賀市の地酒が各国首脳に振る舞われたという。銘柄は「半蔵」。伊賀忍群の棟梁を冠した淡麗辛口である。

 さっそく冷えた辛口を試す。……。鋭利な手裏剣がノドを掠めた。旨さという名の煙幕が視界を覆う。どんな料理にも合いそうだ。調子に乗って他の銘柄も試す。ちなみに伊賀は松尾芭蕉翁の生誕地。その名を冠した「芭蕉」も端麗辛口だが、もう一種(銘柄失念)は豊潤な甘みと旨みでどっしりとした旨口酒である。〔次夜後編〕

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蕩ける旨さ(タレ焼)

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初感動から1か月後、シブいL字カウンターにて。
posted by machi at 07:46| Comment(0) | 三重県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月11日

第1512夜:忍者のカクレ商店街の巻【伊賀(三重)】(後編)

 日本最強の忍者タウンらしく、中心部の何店舗かで忍者衣装に着替えることも出来る。土砂降りなので私も着替えたい気分。手裏剣コンテストなどもどこかが主催しているらしい。

 忍者装束に身を包んだ人形を見かけるが、急に現れると怖い。余計に目立つ。故にホンモノはあんな目立つ格好せず、普段は市井に溶け込み一般人と見分けがつかないそうだ。忍者やスパイが目立ったら仕事にならない。007がコスプレしたら世界平和は保てぬはずだ。

 伊賀市最大最強の規模を誇る伊賀上野銀座商店街は約770mという大規模集積。自前の駐車場は約400坪あり、貸ホールも有している。一方、周囲に大型SCやロードサイド型店舗も乱立も進む。市役所郊外移転も抱えている。
 
 厳しい商環境下だが、理事長を含め理事は若く駐車場の利活用を含めた商店街の将来ビジョン策定を目指し、活動を開始している。

 「伊賀」といえば「忍者」という鮮烈なイメージがあり、その知名度は全国区。甲賀市の皆様に申し訳ないが、「伊賀忍者=正義」「甲賀忍者=悪訳」という思い込みがある。何故だろうか。スネオ的雰囲気を醸し出すケムマキ氏の印象が鮮烈な故か。

 市内の至る所にサッカー女子「くの一FC」応援ポスターが貼られている。「なでしこ」より「くのいち」の方が強そうだ。女子は代表監督も変わったことだし、これを機に愛称を変更したらどうだろう。なでしこよりも世界に与える恐怖とインパクトは絶大なはず。世界中のサッカーマニアにとって、日本といえば「サッカー」よりも「ニンジャ」のはずだから。

 商店街の各店も忍者にちなんだ様々な遊び心溢れるユーモア満点の商材を取り扱っている。忍者うどん、ニンジャ―エール…。地元ブランド牛(伊賀牛)を用いた料理も数多そうだが、豊富な選択肢に満ち溢れている。

 ある炎天下の午後。駅を挟んで商店街の反対側にある上野公園エリアへ。ホタホタと坂道を上っていくと、「芭蕉翁記念館」がある。貴重な直筆資料なども展示されているそうだが、私が訪れた日は改装中のため休館していた。旅姿の芭蕉翁を建築で表現したという巨大な八角堂の「俳聖殿」は日本建築史上でも傑作と呼び声が高いそうだ。

 軽快な音楽と叫び声らしきものが聞こえてくる。「伊賀流忍者博物館」である。中で忍者アトラクションが繰り広げられているのだろう。

 公園内に屹立するのは「伊賀上野城」。昭和10年に天守閣も復興されたそうだが、築城当時の石垣や内堀は健在。クロサワ映画のロケ地にもなったという。

 ある朝。上野市駅から帰路に着こうと伊賀鉄道の切符を買うと、何とラベンダーの香りがする特別切符だった。まさに変幻自在。江戸風情と平成の街並みが混在する伊賀上野は、日本国内だけでなく世界規模でアピールできるネオジャパネスクの象徴である。

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伊賀のメインストリート「伊賀上野銀座商店街」。

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本屋も忍者押し。

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酒屋も忍者押し。

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「閉館中」ではなく「休館中」と表記した方がよさそうな芭蕉翁の記念館。

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芭蕉翁の旅姿をイメージして建てらてたという俳聖殿。

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ひっそりと佇む忍者屋敷(伊賀流忍者博物館)。

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立派な上野城。

posted by machi at 09:33| Comment(0) | 三重県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月08日

第1511夜:忍者のカクレ商店街の巻【伊賀(三重)】(前編)

 忍者。世界に通用するジャパニーズカルチャーである。忍者といえば連想される地名は「伊賀」と「甲賀」。我々40歳軽くオーバー世代には藤子F二雄先生の『忍者ハットリくん』の印象強烈。高●崇史先生の『カンナ』シリーズ(全9巻 講談社文庫)も忍者ミステリである。

 近鉄特急で伊賀神戸駅到着。乗換時間1分で伊賀鉄道に文字通り飛び乗る。2両編成だが、私が乗った車両はすべて学生さん。オッサン一人は浮いている。

 車掌と呼ぶには抵抗があるスタイルのオヤジさんが定期や切符の巡回チェック。切符を買う時間が無かったのでその場で360円支払う。オヤジさんは踏ん張り切符をきる。近江鉄道ガチャコンなみに揺れる車両だが、かなりの足腰だ。忍者の末裔だろうか。

 土砂降りの夕方。途中止まった駅でふと車窓を見ると、二人組の釣り人が土手に腰を下ろして竿を垂れている。その様子を覗きこむ人も。すごい気合である。感心していると、違和感を覚えた。釣り人と電車の間には川らしきものが流れているが、どちらかといえば用水路。魚がいるとは思えぬ。そして、3人とも微動だにしない。

 さらにこの3人以外に買物車を押した老婆が歩いている。しかし、彼女も1oも動かない。ディオが時を止めたのだろうか……。さらに目を凝らした。案山子だった。あまりにもリアルで怖すぎる。カラスよりも人間が驚いて近寄らないだろう。

 上野市駅到着。人口10万弱の伊賀市最大の中心市街地である。上野市と周辺町村が合併し、伊賀市になったという。駅構内も忍者押し。ゆるキャラ的にデフォルメされていない等身大忍者人形ははっきり言って怖い。こんなのが闇夜に立っていたら腰を抜かしそうだ。

 「お気軽にお立ちより下さい」と書かれた駅長室を横切り駅前広場へ。真っ先に視界に飛び込むのが、忍者ではなく何故かメーテルと哲郎。小倉駅新幹線口に降り立った気分だ。松本先生は伊賀市に何のゆかりもないそうだが、伊賀鉄道が銀河鉄道999を模した車体の電車を走らせたことがきっかけという。

 その奥には巨大な松尾芭蕉像が屹立。伊賀は芭蕉翁の出身地であるそうな。日本中に芭蕉翁の足跡が残されているが、すべては伊賀から始まったのだろう。昔から芭蕉翁は幕府の隠密(スパイ・忍者)ではないかという説を読み聴きしたことがある。忍者の里出身なら納得である。数々の名作俳句も幕府などに充てた暗号文なのかもしれない。

 上野市駅を挟み、城や忍者博物館がある上野公園ゾーンと商店街ゾーンに分断されている。商店街は碁盤の目が歩いていると方向感覚が分からなくなる。城下町独特の曲がり路もある。建物や風情は江戸と平成が混在している不思議な感覚。幻術に惑わされている気分になる。

 駅前に伊賀唯一と思しきアーケード商店街がある。レトロ極まりない風情だが、ショップは若々しい。最近、駅前のこのあたりで若者の出店が相次いでいるそうだ。〔次夜後編〕

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リアルすぎる4体の案山子。

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車両は独特のデザイン。

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駅のホームにも忍者。

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駅のロッカーも忍者。

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駅前は何故か哲郎&メーテル。

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駅前の商店街。
posted by machi at 06:52| Comment(0) | 三重県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする