新天地。伊賀鉄道の中心・上野市駅前に伸びるレトロでシブいアーケード型商店街である。様々な仕掛けが施され、飲食店の開業が相次いでいるという。老舗の名店もあるそうな。
ある夏の夜22時過ぎ。伊賀上野銀座商店街にて勉強会終了後、F山理事長と石B氏と新天地へ。何軒か灯りが煌めいており、その中の一軒<ONO>さんへ。私が普段足を踏み入れることなきお洒落でムードの良いイタリアンバールである。
生ビールで乾杯した後は、ワインへ移行。鰆のカルパッチョが爽やかだ。エスカルゴのようなビジュアルを放つ海鮮アヒージョも抜群。バケットに乗せて口に運ぶ。……。冷まさずにかぶりついてしまったので上顎が大惨事。すかさずワインを流し込んで冷す。この激熱もアヒージョ系の醍醐味である。カレー風味の鶏ハーブ焼も見事だった。
店内禁煙なので、煙草吸いは外に出る。すると若い(?)女性2人組が<ONO>さんを覗く。本来は22時ラストオーダーなので入れなかったようで、店前で途方に暮れている。
すかさずF山理事長が優しく声を掛け、すぐ近くの2階のバー<4>をご紹介。女性コンビは嬉しそうに階段を駆け上がっていった。
ワインなど洒落たモノは普段呑み慣れないので焼酎ロックに移行していると、<4>のマスターが店に入ってきた。用事かなと思いきや、生ビールを注文。休憩に来られたようだ。あれ、お客さんは…?さっきの二人組はバーに行かなかったのだろうか。
<4>マスターがさっと店に戻り、我ら3人も追いかけるようにバーへ。お客さんで賑わっている。他にもスタッフがおられるようだ。
F山理事長と石B氏がお二人とも「クロクロ」と注文。クロクロ?呑み喰いした2軒目の最初にこれを飲むと最高にスッキリして旨いとおっしゃる。よく分からぬまま私もクロクロに。
目の前のボトルが置かれた。洋酒が高級品だったころの海外土産定番「ジョニーウォーカー」。その中でも「ブラックブラック」という銘柄。置いている店はかなり少ないらしい。これのソーダ割りがいわゆる「クロクロ」だった。
クロクロが目の前に置かれた。普通のハイボールより何杯も豊潤で香り高い。どっしりしているのにキレがあり、スッキリしている。これはハマりそうだが、伊賀でしか呑めない。
<ONO>のマスターもバーに来られた。名刺を下さったが、直径1pほどの丸い穴が空いている。F山理事長が私のその穴の意味を問う。全く分からなかったが、正解を教えていただき思わず唸らされた。なるほどと激しく首肯する。
そんな話をしていたら無性にスパゲティを腹に入れたくなった。談笑しながらクロクロを流し込んでいると、スパゲティが運ばれてきた。大盛である。穴があったら入りたい気持ちで夢中で啜りこんだ。
ジョニーウォーカー・ブラック×ブラック。
それから2か月後。石B氏のバースデイサプライズ。
2016年11月20日
2016年10月25日
第1562夜:くのいち饂飩忍法帖の巻【伊賀(三重)】
牛乳うどん。字面だけ見るとゲテモノとしか思えない決して食指が伸びぬ語感である。ましてや自分で、自腹で注文するなどありえなかった。2016年の夏までは。
伊賀鉄道の中心・上野市駅前に広がる忍者の隠れ里・伊賀市中心市街地の商店街を13時頃フラフラ散策していた。凄まじい暑さ。空腹である。
江戸と平成が混在するような商店街の一角に、黄色いノボリがはためいていた。かなり目立っている。「テレビでおなじみ 味自慢 伊賀流 牛乳うどん」と染め抜かれていた。
牛乳うどん?伊賀名物なのか?入口には`そば うどん‘と書かれた暖簾が掛かっている。うどん屋なのに屋号は<池澤湯>。銭湯なのか?忍者の煙幕に巻かれた気分で暖簾を潜る。
本当に銭湯が経営しているようで、14時閉店。以降は銭湯に早変わりするのだろう。店内は忍者一色。レジ横にも忍者グッズが並んでいる。女性店員も皆さん`くのいち´衣装。銭湯というより湯屋と呼びたい気分である。幻惑しつつ、壁面メニューを観る。
伊賀牛うどん800円が魅力だが、あえて「北川牛乳うどん」600円を召喚。北川とは、地元牛乳メーカーのようである。すると`くのいち´は「冷たいのもできますが」とおっしゃる。
この日は炎天下。早めに伊賀入りして街を視察。汗ドボドボだが、冷たい牛乳うどんは想像外。熱々を要望。
私は真夏でも珈琲はホットだし、冷麺、ざるそば、冷しうどんよりも熱々汁不可欠派。ちなみに乳製品はチーズが大好物。レーズンバターも酒の肴に好適だが、牛乳そのものがダメ。普段なら「牛乳うどん」など視界にかすりもしないが、暑さでヤラれていた。
ブツが出てきた。見た目は丼に入ったクリームシチューである。うどんが見えぬ。真っ白な雪原に蒲鉾のピンクがなまめかしい。
啜ってみる。とろみがある。味もクリームシチューだ。しかし、和風である。出汁が効いている。タマネギが隠れている。カレーうどんのクリームシチューうどんといった方がよいのだろうか。手間暇かかっているだろう。
うどんに絡める。旨い。冷し中華やざるそば、冷麺を注文することは酒の〆以外あまりない。ライスをぶち込んでも旨いだろうが、次回は伊賀牛うどんを試してみよう。
私が食べ終わりそうな頃、推定年齢アラエイの`くのいち´が入店。きつねうどんを注文された。その3分後、アラエイくのいちは「ざるそばに変えてほしい」といきなり言い出した。
きつねを天ぷらや月見に途中チェンジするのは可能かもしれない。しかし、うどんからそばへのチェンジは変幻かつ究極の忍法。まさに必殺である。どう考えても明らかにうどんを茹でている途中だろう。私も成り行きが気になり、眼前の牛乳うどんに集中できない。
くのいち店員は困り顔で厨房へ。若干の沈黙の後、くのいちが再度現れた。何故か私まで緊張を強いられる。
「わかりました。変更できますよ」。
究極の駆け引き。シノビの世界の非情と決断。まさに忍法帖である。
伊賀名物?牛乳うどん。
黄色いノボリに導かれ、
青暖簾を潜り抜け、
忍者押しの店内を見渡しながら、
伊賀牛うどんと迷いつつ。
伊賀鉄道の中心・上野市駅前に広がる忍者の隠れ里・伊賀市中心市街地の商店街を13時頃フラフラ散策していた。凄まじい暑さ。空腹である。
江戸と平成が混在するような商店街の一角に、黄色いノボリがはためいていた。かなり目立っている。「テレビでおなじみ 味自慢 伊賀流 牛乳うどん」と染め抜かれていた。
牛乳うどん?伊賀名物なのか?入口には`そば うどん‘と書かれた暖簾が掛かっている。うどん屋なのに屋号は<池澤湯>。銭湯なのか?忍者の煙幕に巻かれた気分で暖簾を潜る。
本当に銭湯が経営しているようで、14時閉店。以降は銭湯に早変わりするのだろう。店内は忍者一色。レジ横にも忍者グッズが並んでいる。女性店員も皆さん`くのいち´衣装。銭湯というより湯屋と呼びたい気分である。幻惑しつつ、壁面メニューを観る。
伊賀牛うどん800円が魅力だが、あえて「北川牛乳うどん」600円を召喚。北川とは、地元牛乳メーカーのようである。すると`くのいち´は「冷たいのもできますが」とおっしゃる。
この日は炎天下。早めに伊賀入りして街を視察。汗ドボドボだが、冷たい牛乳うどんは想像外。熱々を要望。
私は真夏でも珈琲はホットだし、冷麺、ざるそば、冷しうどんよりも熱々汁不可欠派。ちなみに乳製品はチーズが大好物。レーズンバターも酒の肴に好適だが、牛乳そのものがダメ。普段なら「牛乳うどん」など視界にかすりもしないが、暑さでヤラれていた。
ブツが出てきた。見た目は丼に入ったクリームシチューである。うどんが見えぬ。真っ白な雪原に蒲鉾のピンクがなまめかしい。
啜ってみる。とろみがある。味もクリームシチューだ。しかし、和風である。出汁が効いている。タマネギが隠れている。カレーうどんのクリームシチューうどんといった方がよいのだろうか。手間暇かかっているだろう。
うどんに絡める。旨い。冷し中華やざるそば、冷麺を注文することは酒の〆以外あまりない。ライスをぶち込んでも旨いだろうが、次回は伊賀牛うどんを試してみよう。
私が食べ終わりそうな頃、推定年齢アラエイの`くのいち´が入店。きつねうどんを注文された。その3分後、アラエイくのいちは「ざるそばに変えてほしい」といきなり言い出した。
きつねを天ぷらや月見に途中チェンジするのは可能かもしれない。しかし、うどんからそばへのチェンジは変幻かつ究極の忍法。まさに必殺である。どう考えても明らかにうどんを茹でている途中だろう。私も成り行きが気になり、眼前の牛乳うどんに集中できない。
くのいち店員は困り顔で厨房へ。若干の沈黙の後、くのいちが再度現れた。何故か私まで緊張を強いられる。
「わかりました。変更できますよ」。
究極の駆け引き。シノビの世界の非情と決断。まさに忍法帖である。
伊賀名物?牛乳うどん。
黄色いノボリに導かれ、
青暖簾を潜り抜け、
忍者押しの店内を見渡しながら、
伊賀牛うどんと迷いつつ。
2016年09月05日
第1531夜:妖艶な伊賀牛の巻【伊賀(三重)】(後編)
気持ち良くなってきたところで、引き戸がガラリと開いた。おや、私たちが店に入った時から暖簾が下げられ、貸切状態になっていたはずだが……。
「お待たせしました〜」。大皿を両手にしたエプロンのおネエさんだった。カウンターの上にどかんと置かれた。私は目を剥いた。歓声を上げた。大皿たっぷりの伊賀牛ステーキだった。大人気居酒屋<いとう>さんに商店街旦那衆がお願いしてステーキの出前を頼んでいてくれたようだ。すりおろし生姜、刻み葱、洋辛子など薬味も豊富である。
鼻息荒く箸を伸ばし、まずは何もつけずそのまま口に放り込む。口の中で何かが弾けた。塩コショウという絶妙の火薬がトリガーとなり、旨さが爆発した後一瞬で肉が解ける。すかさず端麗辛口(半蔵)で追いかける。……。華が咲いた。風が吹いた。谷が割けた。星が飛んだ。そして、月が鳴いた。2ヶ目はわさび醤油で。……。完成された忍法に酔いしれた。
ある梅雨の夜。その2か月前に訪れた<いとう>さんへ22時過ぎに再訪。ガツンとした大皿料理が運ばれてくる中、たっぷりの伊賀牛ステーキが運ばれてきた。私の中で月1度のお愉しみ状態になっている。表面の焼かれた黒と切り口の鮮烈な赤。何度見ても美しい。
まずは岩塩にチョン付け。続いてポン酢で。甘さと香ばしさが舌の上で弾け、溶ける。様々な調味料は数あれど、旨し肉ほど「塩&胡椒」のシンプルが最も本質的輝きを放つ。化粧の必要がないのだ。脂がサラリとしているので、クドさもない。柔らかな透明感である。
シメに運ばれてきた焼そば。商店街の石B氏が生卵に浸してすき焼のように啜られている。あまりにも旨そうなので私も追従。
……。焼そばの生卵つけ麺は初めてだが、これほどの実力とは。まったりとしたコクが加わり、シメというよりアテに。焼酎のピッチが上がる。後日、スーパーのテイクアウト焼そばで試してみたが、やらなければよかった。何が違うのだろうか。まさか、焼そばのこま切れ肉すら伊賀牛を使っているのだろうか。
毎回ミッション時間の関係で懇親会は22時以降になるが、開いている店がどうしても限られるという。昼間や早い時間なら伊賀牛を使ったうどんやシチューなども味わえるようだ。定宿ホテルの朝食には予約制だが伊賀牛のひつまぶしもある(未食ですが)。値段は1000円程度。うなぎの3分の1程度である。
商店街活性化に向けた熱い激論を旦那衆とかわしながら店を出た。時間は24時を超えている。もう一軒行こうと誘っていただいた。向かった先は、駅前のアーケ―ド商店街にあるビルの奥まった2階のバー。忍者屋敷の隠れ家的渋さがにじみ出ている。
恐るべし伊賀牛、そして服部忍群。私は過去と現在を飛翔する。眼前には山田風太郎忍法帖の世界が広がる。脳内には『にんじゃりばんばん♪』きゃりーちゃんの歌声がこだました。
出前されてきた伊賀牛。
塩焼はほっぺた落としの大絶品。
「お待たせしました〜」。大皿を両手にしたエプロンのおネエさんだった。カウンターの上にどかんと置かれた。私は目を剥いた。歓声を上げた。大皿たっぷりの伊賀牛ステーキだった。大人気居酒屋<いとう>さんに商店街旦那衆がお願いしてステーキの出前を頼んでいてくれたようだ。すりおろし生姜、刻み葱、洋辛子など薬味も豊富である。
鼻息荒く箸を伸ばし、まずは何もつけずそのまま口に放り込む。口の中で何かが弾けた。塩コショウという絶妙の火薬がトリガーとなり、旨さが爆発した後一瞬で肉が解ける。すかさず端麗辛口(半蔵)で追いかける。……。華が咲いた。風が吹いた。谷が割けた。星が飛んだ。そして、月が鳴いた。2ヶ目はわさび醤油で。……。完成された忍法に酔いしれた。
ある梅雨の夜。その2か月前に訪れた<いとう>さんへ22時過ぎに再訪。ガツンとした大皿料理が運ばれてくる中、たっぷりの伊賀牛ステーキが運ばれてきた。私の中で月1度のお愉しみ状態になっている。表面の焼かれた黒と切り口の鮮烈な赤。何度見ても美しい。
まずは岩塩にチョン付け。続いてポン酢で。甘さと香ばしさが舌の上で弾け、溶ける。様々な調味料は数あれど、旨し肉ほど「塩&胡椒」のシンプルが最も本質的輝きを放つ。化粧の必要がないのだ。脂がサラリとしているので、クドさもない。柔らかな透明感である。
シメに運ばれてきた焼そば。商店街の石B氏が生卵に浸してすき焼のように啜られている。あまりにも旨そうなので私も追従。
……。焼そばの生卵つけ麺は初めてだが、これほどの実力とは。まったりとしたコクが加わり、シメというよりアテに。焼酎のピッチが上がる。後日、スーパーのテイクアウト焼そばで試してみたが、やらなければよかった。何が違うのだろうか。まさか、焼そばのこま切れ肉すら伊賀牛を使っているのだろうか。
毎回ミッション時間の関係で懇親会は22時以降になるが、開いている店がどうしても限られるという。昼間や早い時間なら伊賀牛を使ったうどんやシチューなども味わえるようだ。定宿ホテルの朝食には予約制だが伊賀牛のひつまぶしもある(未食ですが)。値段は1000円程度。うなぎの3分の1程度である。
商店街活性化に向けた熱い激論を旦那衆とかわしながら店を出た。時間は24時を超えている。もう一軒行こうと誘っていただいた。向かった先は、駅前のアーケ―ド商店街にあるビルの奥まった2階のバー。忍者屋敷の隠れ家的渋さがにじみ出ている。
恐るべし伊賀牛、そして服部忍群。私は過去と現在を飛翔する。眼前には山田風太郎忍法帖の世界が広がる。脳内には『にんじゃりばんばん♪』きゃりーちゃんの歌声がこだました。
出前されてきた伊賀牛。
塩焼はほっぺた落としの大絶品。