野毛小路。横浜駅からJRで一駅、桜木町駅の(たぶん)北エリアに広がるディープな歓楽街である。私は桜木町から関内、そして伊勢佐木町にいたるエリアはよくホタホタとふらついていたが、野毛エリアは訪れたことがなかった。
梅雨真っ盛りの2012年6月16日。まちゼミのカリスマ・岡崎のM井氏と北陸一熱く爽やかな氷見のH川氏と東京から桜木町へ向かう。駅改札口でお出迎えいただいたのは、中小機構のN坂氏。言わずと知れた全国のまちづくりネットワークを築き上げる業界のオーガナイザーだ。
N坂氏のおススメ呑みスポットが野毛小路。呑み屋が数多く集積し、横浜のシャレたイメージからは百万光年離れているものの、呑ん兵衛のノドと肝臓を興奮させる磁場が働いている。
小雨が降ったり止んだりのジメジメ空を吹き飛ばすかのごとく向かったのは、看板すらない立ち飲み串カツ屋。土曜日のためサラリーマンは少ないだろうが、店内は地元民らしきオトコたちで満員。取り急ぎ生ビールで乾杯し、N坂氏のお任せで串カツを注文する。
大阪でもあまり見られない独特のムードの思わずカメラを取り出した瞬間、カウンター厨房から怒号が飛んだ。「あぁ〜!写真撮らないでぇ〜!!」
慌ててカメラを引っ込める。周りの客は慣れているのは平然としている。すごい緊張感である。お客が注文してもスムーズにオーダーが通ることは少なく、若オーナーの怒声はカウンター内の御母堂(たぶん)だけでなく客にも容赦ない。
周りの店を見渡すと、一生懸命カタコト日本語で居酒屋の呼び込みが繰り広げられているが、怒声一色のこの店だけが超満員である。なぜ流行っているのか。不思議で仕方なかった。
串カツが運ばれてきた。カウンター厨房で2種類のソースでどぶ付けされたものが出される。同行氏たちは甘口ソース。私は辛口ソースを選択した。
私の皿が運ばれてきた。ソースというより、デミグラスソースのような赤褐色である。4種類ほど入った熱々の中のひと串を齧った。……。ぶっ飛んだ。強烈なニンニクダレである。
ソースというより中華ダレ。ニンニクをそのまま食べているような感じすらある。強烈である。そして、とてつもなく旨く、パンチがある。30年は軽く超す私の串カツ人生でも初めての味わい。確かにクセになる。どれだけ怒鳴られても委縮しても、また食べたいと思わせる。それだけではないのかもしれないが、この店が繁盛している理由が分かった気がした。
2軒目は中華料理店の2階で餃子などをサカナに黒ビール、3軒目はスペイン風バールにて路上にイスとテーブルを出し、生ハムをサカナに赤ワインのフルボトルをグビグビ。もう一つの極上のサカナは、N坂氏、M井氏、H川氏と繰り広げた熱きまちづくり談義である。
たっぷり呑んで食べて、3軒で一人5000円もしなかった。チケットのない「勝手に野毛小路バル」。シビレルほどの満足感である。
霧雨煙るシブい野毛小路
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2012年07月02日
2012年06月29日
第510夜:恋人も濡れるカツレツ【横浜(神奈川)】
カツレツ。純日本でも純欧米でもない、日本独自の和洋食といえる。そんな文明開花の和洋食が似合う街といえば、残念ながら港町・神戸ではなく、横浜。恋人も思わず濡れてしまう横浜屈指の風情あるオトナの街・馬車道に、その名も<勝烈庵>総本店がある。
立派な白壁の蔵を思わせる重厚な外装。軽い気持ちで入りにくい豪奢な雰囲気だ。勇気を出して暖簾を潜り、木戸を引く。目に飛び込むのは、5人以上の厨房でキビキビとカツを揚げている職人さんと、割烹着を着た大勢の仲居さん。
パンフによると、昭和元年に創業した老舗。洗練されたヒレ肉、独自研究を施された生パン粉、野菜と果物を2日間煮込んで1日寝かせた秘伝ソース、しじみ椀のしじみ、赤味噌までこだわり尽くしたそうである。
朝からホテルの大浴場でひとっ風呂浴び、伊勢佐木モールをホタホタ散策して喉の渇きと空腹を覚えた私は、まだ正午にもなっていないが間髪いれず瓶ビールを注文。各種ある定食の中から、定番かつ王道と思われる「勝烈定食」(ご飯・キャベツおかわり自由)を選択した。
荒ぶる興奮を鎮めるべく瓶ビールをグラスに注ぎ、一気に喉に放り込んだ。……。人生とは、何てスバらしいのだ。喜びに震えながら店内を見渡す。見覚えのあるタッチの書や絵が複数飾られている。パンフを再読すると、日本の代表的版画家・棟方志功画伯の作品。店名書体も画伯という。店の格式を何倍も上げている。
定食が運ばれてきた。8等分されたヒレカツが黄金色に輝いている。ゴクリと喉が鳴る。端の2切れにソースをあらかじめドボドボ浸すようにぶっかける。寝かせて、後で味わうのだ。この食し方は大傑作コミック『食の軍師』(日本文芸社)を参考にさせていただいた。
最初の一切れは塩のみで。口に運ぶ。……。初体験といえる衣のふんわり感だ。油も極上なのだろう、全くしつこくない。噛みちぎるというより、口の中でほどけると言った方が正しい。ヒレ特有のサッパリした旨みが凝縮されている。ビールで口の中を洗い流す。2切れ目の塩&辛子がさらに旨くなる。3切れ目は秘伝ソース、4切れ目はソース&辛子だ。
生キャベツと瓶ビールも無くなった。生キャベツ追加を進められるが、これで充分。残り4切れをおかずに、ご飯、しじみ赤出汁、漬物をグイグイ頬張る。‘アッイ〜だけが〜俺を〜惑わせぇる〜♪’愛だけでなく、カツレツとビールも私を惑わせる。
カツを齧る。ご飯を頬張る。喉を押し広げていくような感覚が心地よい。赤出汁のサッパリ感が、定食全体を引き締める。そして、残しておいた、ソースドボドボ寝かせヒレカツ。最高にご飯に合う。しんなりとした衣も、エロティックでセクシー。熟した色気がある。
何気なく箸袋を見た。「世界遺産 吉野熊野古道の箸」。宮内庁御用立の箸メーカーの作で、箸袋に入れてお持ち帰りし、水洗いしてご家庭で大切に使ってほしいと書かれている。シビれた。恋人だけでなく、私も昼から濡れそうになった。
<勝烈庵>勝烈定食
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立派な白壁の蔵を思わせる重厚な外装。軽い気持ちで入りにくい豪奢な雰囲気だ。勇気を出して暖簾を潜り、木戸を引く。目に飛び込むのは、5人以上の厨房でキビキビとカツを揚げている職人さんと、割烹着を着た大勢の仲居さん。
パンフによると、昭和元年に創業した老舗。洗練されたヒレ肉、独自研究を施された生パン粉、野菜と果物を2日間煮込んで1日寝かせた秘伝ソース、しじみ椀のしじみ、赤味噌までこだわり尽くしたそうである。
朝からホテルの大浴場でひとっ風呂浴び、伊勢佐木モールをホタホタ散策して喉の渇きと空腹を覚えた私は、まだ正午にもなっていないが間髪いれず瓶ビールを注文。各種ある定食の中から、定番かつ王道と思われる「勝烈定食」(ご飯・キャベツおかわり自由)を選択した。
荒ぶる興奮を鎮めるべく瓶ビールをグラスに注ぎ、一気に喉に放り込んだ。……。人生とは、何てスバらしいのだ。喜びに震えながら店内を見渡す。見覚えのあるタッチの書や絵が複数飾られている。パンフを再読すると、日本の代表的版画家・棟方志功画伯の作品。店名書体も画伯という。店の格式を何倍も上げている。
定食が運ばれてきた。8等分されたヒレカツが黄金色に輝いている。ゴクリと喉が鳴る。端の2切れにソースをあらかじめドボドボ浸すようにぶっかける。寝かせて、後で味わうのだ。この食し方は大傑作コミック『食の軍師』(日本文芸社)を参考にさせていただいた。
最初の一切れは塩のみで。口に運ぶ。……。初体験といえる衣のふんわり感だ。油も極上なのだろう、全くしつこくない。噛みちぎるというより、口の中でほどけると言った方が正しい。ヒレ特有のサッパリした旨みが凝縮されている。ビールで口の中を洗い流す。2切れ目の塩&辛子がさらに旨くなる。3切れ目は秘伝ソース、4切れ目はソース&辛子だ。
生キャベツと瓶ビールも無くなった。生キャベツ追加を進められるが、これで充分。残り4切れをおかずに、ご飯、しじみ赤出汁、漬物をグイグイ頬張る。‘アッイ〜だけが〜俺を〜惑わせぇる〜♪’愛だけでなく、カツレツとビールも私を惑わせる。
カツを齧る。ご飯を頬張る。喉を押し広げていくような感覚が心地よい。赤出汁のサッパリ感が、定食全体を引き締める。そして、残しておいた、ソースドボドボ寝かせヒレカツ。最高にご飯に合う。しんなりとした衣も、エロティックでセクシー。熟した色気がある。
何気なく箸袋を見た。「世界遺産 吉野熊野古道の箸」。宮内庁御用立の箸メーカーの作で、箸袋に入れてお持ち帰りし、水洗いしてご家庭で大切に使ってほしいと書かれている。シビれた。恋人だけでなく、私も昼から濡れそうになった。
<勝烈庵>勝烈定食
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2010年08月10日
第50夜:恋人の聖地からレバニラ炒めまでの距離【川崎(神奈川)】(後編)
ヨーロッパ風の石畳や路地、ショップなど実に魅力的。単なる再開発でなく、街ごとイタリアにしてしまうところに妙味がある。シネマコンプレックスや魅力あふれる専門店や飲食店が連なる。噴水広場など、行ったことはないがローマのようだ。
オトコ一人でうっとりしながら、川崎駅に戻る。川崎駅北側に直結するのは<ラゾーナ川崎プラザ>というショッピングセンター。店舗面積約8万u弱、核テナントのビッグカメラをはじめ約300店舗が入店する広域型SC。シネコン、フィットネス、スーパー、雑貨、100円ショップ、ブランドショップなど生活に必要なものはすべて揃っている。
5階建ての商業ビルと駅に囲まれるように、パティオ(中庭)がある。常設ステージもあり、市民の憩いの場として愛されているようだ。
灼熱の炎天下を歩いた13時過ぎ。館内で食事を試みたがどこも満員。平日の昼下がりにも関わらず、館内は人で溢れている。2006年に開業し、売上も来館者も増え続けているようだ。さすがは第4回日本ショッピングセンター大賞の金賞(最優秀賞)受賞SC。日本一の証である。
昼食を食べ損ねた私は、再度駅の南に足を伸ばした。<ラ チッタデッラ>から東は、「銀柳街」「銀座街」という賑やかなアーケード型商店街が続く。川崎らしさというか、独特の猥雑な下町雰囲気が残されている。ラゾーナやチッタデッラとの大きなギャップに唖然とする。
時間は15時。喉も渇き、空腹を感じた。ドアは開けっぱなしだが客がびっしりの<中華料理 天龍>のカウンターに座った。なぜか看板に「天下一まずい」と書かれている。ただし、この「まずい」は上下反転して書かれているので、まずいの逆で「天下一うまい」という意味か。
瓶ビールを注文し、名物らしい焼餃子を頼んだ。ついでに水餃子も頼んだ。ビールの冷えた苦みがつま先まで駆け抜ける。おおぶりの餃子はプリプリの熱々。水餃子はツルンと口ですべる。ビールを流し込む。昼下がりのビールと餃子。これほどの幸せは人生で多くない。
食べ足りず、呑み足りなかった。私は大好物のギンギンに冷えたホッピーを注文。中(甲類焼酎)をお代わりしながら、レバニラ炒めを追加した。
どっしりたっぷりと皿に盛られてきた。レバーのコク、ニラのしゃきしゃき、白米が欲しくなる濃厚な中華味。ホッピーが口と喉ではじける。旨さが倍加する。一人中年オトコの聖地だ。
ビールにホッピー、餃子にレバニラ。下町商店街の大衆中華屋でこれらを楽しむカップルの方が、<チッタデッラ>でランチを楽しむカップルより、遥かに一線を越えた感がある。
2施設の物理的距離はわずか300m程度だが、<チッタデッラ>のカフェで恋が芽生えてから、<天竜>でビールとレバニラを分け合うまでの時間的精神的距離は、何万光年も離れている。もどかしい距離を一気に縮めるためには、少量の勇気と、大量のアルコールが必要である。
天下一まずい?<天龍>
黄金コンビ。<天龍>ニラレバ炒め&ホッピー
オトコ一人でうっとりしながら、川崎駅に戻る。川崎駅北側に直結するのは<ラゾーナ川崎プラザ>というショッピングセンター。店舗面積約8万u弱、核テナントのビッグカメラをはじめ約300店舗が入店する広域型SC。シネコン、フィットネス、スーパー、雑貨、100円ショップ、ブランドショップなど生活に必要なものはすべて揃っている。
5階建ての商業ビルと駅に囲まれるように、パティオ(中庭)がある。常設ステージもあり、市民の憩いの場として愛されているようだ。
灼熱の炎天下を歩いた13時過ぎ。館内で食事を試みたがどこも満員。平日の昼下がりにも関わらず、館内は人で溢れている。2006年に開業し、売上も来館者も増え続けているようだ。さすがは第4回日本ショッピングセンター大賞の金賞(最優秀賞)受賞SC。日本一の証である。
昼食を食べ損ねた私は、再度駅の南に足を伸ばした。<ラ チッタデッラ>から東は、「銀柳街」「銀座街」という賑やかなアーケード型商店街が続く。川崎らしさというか、独特の猥雑な下町雰囲気が残されている。ラゾーナやチッタデッラとの大きなギャップに唖然とする。
時間は15時。喉も渇き、空腹を感じた。ドアは開けっぱなしだが客がびっしりの<中華料理 天龍>のカウンターに座った。なぜか看板に「天下一まずい」と書かれている。ただし、この「まずい」は上下反転して書かれているので、まずいの逆で「天下一うまい」という意味か。
瓶ビールを注文し、名物らしい焼餃子を頼んだ。ついでに水餃子も頼んだ。ビールの冷えた苦みがつま先まで駆け抜ける。おおぶりの餃子はプリプリの熱々。水餃子はツルンと口ですべる。ビールを流し込む。昼下がりのビールと餃子。これほどの幸せは人生で多くない。
食べ足りず、呑み足りなかった。私は大好物のギンギンに冷えたホッピーを注文。中(甲類焼酎)をお代わりしながら、レバニラ炒めを追加した。
どっしりたっぷりと皿に盛られてきた。レバーのコク、ニラのしゃきしゃき、白米が欲しくなる濃厚な中華味。ホッピーが口と喉ではじける。旨さが倍加する。一人中年オトコの聖地だ。
ビールにホッピー、餃子にレバニラ。下町商店街の大衆中華屋でこれらを楽しむカップルの方が、<チッタデッラ>でランチを楽しむカップルより、遥かに一線を越えた感がある。
2施設の物理的距離はわずか300m程度だが、<チッタデッラ>のカフェで恋が芽生えてから、<天竜>でビールとレバニラを分け合うまでの時間的精神的距離は、何万光年も離れている。もどかしい距離を一気に縮めるためには、少量の勇気と、大量のアルコールが必要である。
天下一まずい?<天龍>
黄金コンビ。<天龍>ニラレバ炒め&ホッピー