サッカーは静岡、カーリングは青森(たぶん)、スキーは北海道(おそらく)、フィギュアスケートは愛知(何となく)。そして、バスケは秋田(特に能代)である。
後から知ったが、一日3回停車する「リゾートしらかみ」限定企画であった。能代駅で5分間停車する。その間に、プラットホームに設置されたバスケットゴールに、フリースローを試みる。見事シュートが決まると、駅員さんから記念品をいただける。
私が下車した車両が、たまたまバスケゴールの真ん前だった。ワケが分からないとはいえ、ボールを手にした。鞄を下に置き、少々緊張しながらシュートした。
惜しいどころか、ネットにかすりもしなかった。いつの間にか、ゴールの周りには10人以上の人だかりができていた。能代駅5分停車のプラットホーム・フリースローは、「リゾートしらかみ」乗車客の間ではすっかり知れ渡っているようだった。
若い女性のグループが、キャッキャ歓声を上げながら、シュートをたたき込む。見事に決め、ハイタッチを交している。小さな男の子がエイヤッとチャレンジし、両親がほほ笑みながら声援を送っている。駅員さんも満面の笑顔で、シュートを決めた乗客に記念品を手渡している。それを見ながら、私は一人でぼんやりと佇んでいた。
台風のような5分間が終わろうとしている。列車発車を告げるアナウンスがホームに響き、乗客はそれぞれ車両に戻っていく。能代で下車予定だった私は、そのまま改札を通るだけなので、たっぷりと時間がある。
やれやれ終わったな、という充実の表情を浮かべる駅員さんたちに、もう一度挑戦させてほしいと懇願した。フリースローをワイワイ楽しんでいた乗客たちは、列車に戻ったか改札を通過したようで、ホームには私を除いて客はいなかった。
駅員さんはギョッとした強張り気味の困った表情を浮かべ、私にボールを手渡してくれた。無観客試合である。先程は思いっきり外したが、失敗は許されない。一投目より緊張する。フリースローが大の苦手なシャキール・オ●―ル氏の気持ちが少しだけ理解できた。
私の両腕から、ボールが放たれた。小さな放物線を描き、リングに一度当たって跳ねた。外したかと思ったが、巻き込むようにボールがネットを通過した。
私にはハイタッチで喜びを共有する連れもおらず、嬉しさをかみ殺した半笑いを浮かべた。駅員さんもどこまでリアクションをすればいいのか分からず、戸惑い気味に私に記念品を手渡してくれた。秋田杉を材料にした、極めてシブい木目入りのハガキだった。
ゴキゲンな能代駅プラットホーム

