2011年04月20日

第218夜:プラットホームでフリースロー【能代(秋田)】(後編)

 バスケットボールの街・能代。高校バスケ界の巨星・能代工業高校のホームグラウンドとして、スポーツ好きのみならず一般にまでその認知は浸透している。
 
 サッカーは静岡、カーリングは青森(たぶん)、スキーは北海道(おそらく)、フィギュアスケートは愛知(何となく)。そして、バスケは秋田(特に能代)である。
 
 後から知ったが、一日3回停車する「リゾートしらかみ」限定企画であった。能代駅で5分間停車する。その間に、プラットホームに設置されたバスケットゴールに、フリースローを試みる。見事シュートが決まると、駅員さんから記念品をいただける。
 
 私が下車した車両が、たまたまバスケゴールの真ん前だった。ワケが分からないとはいえ、ボールを手にした。鞄を下に置き、少々緊張しながらシュートした。
 
 惜しいどころか、ネットにかすりもしなかった。いつの間にか、ゴールの周りには10人以上の人だかりができていた。能代駅5分停車のプラットホーム・フリースローは、「リゾートしらかみ」乗車客の間ではすっかり知れ渡っているようだった。
 
 若い女性のグループが、キャッキャ歓声を上げながら、シュートをたたき込む。見事に決め、ハイタッチを交している。小さな男の子がエイヤッとチャレンジし、両親がほほ笑みながら声援を送っている。駅員さんも満面の笑顔で、シュートを決めた乗客に記念品を手渡している。それを見ながら、私は一人でぼんやりと佇んでいた。
 
 台風のような5分間が終わろうとしている。列車発車を告げるアナウンスがホームに響き、乗客はそれぞれ車両に戻っていく。能代で下車予定だった私は、そのまま改札を通るだけなので、たっぷりと時間がある。
 
 やれやれ終わったな、という充実の表情を浮かべる駅員さんたちに、もう一度挑戦させてほしいと懇願した。フリースローをワイワイ楽しんでいた乗客たちは、列車に戻ったか改札を通過したようで、ホームには私を除いて客はいなかった。
 
 駅員さんはギョッとした強張り気味の困った表情を浮かべ、私にボールを手渡してくれた。無観客試合である。先程は思いっきり外したが、失敗は許されない。一投目より緊張する。フリースローが大の苦手なシャキール・オ●―ル氏の気持ちが少しだけ理解できた。
 
 私の両腕から、ボールが放たれた。小さな放物線を描き、リングに一度当たって跳ねた。外したかと思ったが、巻き込むようにボールがネットを通過した。
 
 私にはハイタッチで喜びを共有する連れもおらず、嬉しさをかみ殺した半笑いを浮かべた。駅員さんもどこまでリアクションをすればいいのか分からず、戸惑い気味に私に記念品を手渡してくれた。秋田杉を材料にした、極めてシブい木目入りのハガキだった。

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ゴキゲンな能代駅プラットホーム
posted by machi at 06:49| Comment(0) | 秋田県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月19日

第217夜:プラットホームでフリースロー【能代(秋田)】(中編)

 炊き込みの上には、沖縄の海ぶどうのように黒っぽい小さなツブが一画を形成している。口に含むと、プチッという歯ごたえはあるが、いくらや海ぶどうのように濃密なエキスは出てこない。その代わりに、植物系のあっさりとしたシブい旨みが広がる。甘くもなく辛くもなく、苦くもない。これは「とんぶり」というらしい。何かさっぱり分からないが、いかにも秋田っぽさを感じさせる食材だ。
 
 もう一つのメインは、「ハタハタの唐揚」である。しっぽごと丸かじり。淡泊な白身が油と絡んで、風味が倍増している。サクっとした食感が好ましい。適度に塩分も濃く、炊き込みご飯のペースが上がる。
 
 白神の峻烈な朝の空気を全身で吸い込んだような山菜「こごみゴマ和え」。苦味が爽やかで、私のチョコレートフォンデュのようなドロドロの血が、サラリと癒されていくようだ。
 
 秋田名産漬物「いぶりがっこ」は、大根とにんじん。ともにパリっといい音を響かせる。スモーキーな香りが、ブナ林を連想させる。
 
 「しじみの佃煮」は、小粒ながら旨みが詰まっている。味づけも濃いめ。これだけで何杯でもメシが胃にすっ飛んでいきそうだ。
 
 小さな紅色の巻貝のようなものが添えられている。口に入れてみる。キュっと酸っぱく、らっきょのような歯ごたえだ。「ちょろぎ」の酢漬だそうで、これは嬉しい不意打ちを食らった。
 
 パノラマに広がる田園風景を眺めながら、秋田の恵みを堪能する。酒のツマミにも好適な駅弁だが、時間は朝9時。断腸の思いで断念し、「白神山地の天然水」というミネラルウォーターをノドに流し込んだ。

 あっという間に能代駅に到着してしまった。これから先が、絶景ポイント目白押しらしい。そのポイントになると、運行速度を緩めて景色を楽しんでもらうという気配り。リゾート車両なので、急いでいる人は特急に乗車せねばならない。

 青森に入ると、車内イベントとして津軽三味線の生演奏が繰り広げられるという。列車はもはや移動手段ではなく、乗る行為そのものを楽しむ時代であるようだ。

 列車が能代駅に到着した。私はホームに降り立った。風が強く、かなり冷え込んでいる。ジャケットの下に分厚いセーターを着込んだ私に、バスケットボールを持った制服の駅員さんが手招きをした。

 訝しげな表情を浮かべた私に、バスケットボールを差し出した。さっぱりわけが分からず眉間に皺を寄せて首をかしげた私に、駅員さんが上向きに指差した。その指の先には、バスケットゴールがあった。フリースローをしていけとおっしゃるのだ。〔次夜後編〕

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世界遺産・白神山地をモチーフにした絶品の「白神浪漫弁当」
posted by machi at 06:40| Comment(0) | 秋田県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月18日

第216夜:プラットホームでフリースロー【能代(秋田)】(前編)

 リゾートしらかみ。秋田から青森を結ぶ五能線を快走する、鉄チャン垂涎のリゾート列車である。世界自然遺産・白神山地をモチーフにした3タイプの列車がある。

 大人気スポット・白神山地の青池をイメージしたコバルトブルーベースの「青池」編成、白神のブナ林をイメージしたダークグリーンベースの「橅」編成、白神産地に生息するクマゲラと五能線沿線の夕日をイメージした「くまげら」編成がある。
 
 2010年12月、「青池」編成がハイブリッドシステムの新型車両となる。現行の「青池」は2010年11月役割を終える。13年以上、五能線の日本海と白神山地、津軽平野を駆け抜けてきたそうだ。
 
 私は2010年11月中旬、秋田から「リゾートしらなみ青池」に乗車し、能代へ向かった。たまたま、この列車のタイミングが良かっただけの偶然である。全車指定席で、一日3往復する。

 何の予備知識もなく乗車した私は、目を見張った。3号編成だが、真ん中のサロンカーは個室で、4人がけのイス&テーブルで占められている。それを挟む通常車両も、窓は広々とし、絶景を眺める工夫が随所に凝らされている。車内販売も充実しており、仲間でワイワイ楽しむもよし、ひとり車窓の景色を堪能するもよし。フトコロの深い列車である。

 車両には、五能線沿線の充実した観光ガイドが無料で設置されている。そして「ありがとう青池」と記された記念乗車証が、期間限定で特別に配られていた。私は鉄チャンではないものの、口元がニヤリと吊りあがった。
 
 座席のリクライニングを倒し、足を延ばす。私の足が太く短いためでもあるが、足を延ばしても、前の座席に届かないほどゆったりとした感覚だ。
 
 わずか1時間のリゾート列車の旅を、精一杯満喫したい。広大な自然を眺めながら、朝食がわりに駅弁を楽しむことにした。
 
 豊富な種類の中から私が選択したのは、「白神浪漫弁当」。リゾートしらかみ「くまげら」編成を記念した弁当だ。私が乗車したのは「青池」だが、兄弟のようなもの。パッケージには「世界自然遺産がもたらす豊かな自然の恵み 五能線沿線の名産品大集合」と記されている。
 
 まずは、「炊き込みご飯」の上にビッシリ敷かれた「ぶなしめじ煮」。白神山地のブナ林に敷き詰められた落ち葉のような風情が漂っている。普段味わっているしめじよりも、歯ごたえも鮮烈で濃厚な気がする。彩りも鮮やかな「いくら醤油漬」のプチプチとした食感とコクが、上品な味づけの炊き込みご飯にとても合う。
 
 メインディッシュとして、大きめの「帆立の天ぷら」が、ウルトラ●ンのカラータイマーのごとく炊き込みご飯の中央に鎮座している。ドシンと食べ応えのあるパンチ力だ。〔次夜中編〕

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快適を極めたリゾートしらかみ「青池号」
posted by machi at 06:17| Comment(0) | 秋田県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする