案内所のドアの前に立った。閉まっている。無情にも「本日休館」の張り紙が。私が訪れた月曜は休館日だったのだ。風の松原案内所を勧めて下さった駅前案内所の秋田美人たちが、悪女に思えてきた。悪女ほど魅力的というのは、古今東西の通説ではあるけれど、ボディブローのように後からジワジワ効いてくる。
ここまで歩いたのだから、松林を散策してみる。他の4つは存じ上げないが、日本5大松林であるそうだ。舗装されたジョギングコース(6q)の中に、小道に分かれるようにウッドチップ歩道、トリムランニングコースなるものがある。
私は松林の奥に足を踏み入れていった。爽やかな森林浴というより、死後の世界を彷徨っている気分になる。あまりにも寂寥感が漂っている。
冬を間近に控え、枯れ枝や落ち葉が目立つ。晩秋の松林は、幽界に繋がる異界の扉だ。そして、驚くほど人とすれ違うことがない。案内所が定休日なので、余計に少ないのかもしれない。
途中でさっぱり方角が分からなくなり、不安になる。「日本の音風景100選」だが、人はおろか虫や鳥のさえずりすら聞こえず、吹き荒ぶ風の音しか耳に入らない。一瞬だが、雹混じりの雨がサッと降ったとき、私は激しく後悔した。もちろん傘などない。
土の道は、雨が降ったのか濡れて湿っている。私は革靴である。ぬかるみを歩くと、靴の中に泥が入りそうだ。森のような松林の中心部で、私のようにネクタイにスーツ、革靴、バッグにパソコン入れて散策しているヤツなど、まずいない。不審者にしか見えないだろう。
それにしても、圧倒的な松林である。自然界には、まっすぐに直立したものは存在しないという。確かに、たとえ1000本の松林の中で木と同じ色の電柱が立っていたとしたら、おそらく一発で見つけることができるだろう。分岐点に立てられた案内看板が、かなり遠くからでも分かるのだ。表示も極めて分かりやすく、遭難の心配はなさそうだ。
巨大な樹木が頭上をふさいでいるので、うっすらと暗い。しかし、空気が濃い気がする。松の香りが大気に溶け、私の細胞を活性化させようとする。ウッドチップの小道を踏みしめると、自然が育んだ独特のクッションが気持ちいい。これだけの松林を独り占めしていると思えば、贅沢極まりない貴重な体験である。私の心が浮足立ってきた。
私は思いっきり、空気を吸い込んだ。しかし、吸いこめなかった。なぜなら、寒さで鼻水があふれていたからだ。
日本屈指の松林を独り占め

