45分。面白い(大河)ドラマならあっという間だが、遅々として前に進まぬ行列の待ち時間であれば時空が歪んだかと思うほどの苦行である。人気店の行列待ちを楽しめるという御仁もこの世におられるそうだが、私には徹頭徹尾理外の範疇。行列など私の苦手な事象ベスト3位以内が下がったことがない(1位は何かと言われたら出てこないのだが)。
年明け早々タフ極まりないミッションが掛け値なしに休日なく押し寄せる火曜日の正午過ぎ、栃木市から1時間に1本の両毛線で佐野市へ。私は時間を間違えていて、ミッション開始は2時間半後だった。駅周辺にチェーン系コーヒー店(PC猿打しても気が咎めぬ)がない。
とりあえず腹ごしらえ。駅前に移転した佐野ラーメン店<F谷>さんへ向かうが定休日。一瞬の放心後、とりあえず市役所周囲を歩く。
ふと思い出した。会議所の近くに昼しか営業していない佐野ラーメン店が屹立していたことを。<Hれる屋>。佐野市の中心部の位置するが決して立地はド一等地でない超人気ラーメン店である。この店の評判を市のご担当者からかなり前から耳にしていた。
厄除け大師の看板が見えた。遠目からでも人の集積が見える。厄除けでなく私の目的地<Hれる屋>に並んでいるようだ。ざっと20人は並んでいる。店舗壁面に「このあたりなら40分待ち」趣旨の表示が。私のその少し後ろ。45分ぐらいか。
普段ならは行列に並ぶなど絶対にありえない。時計を見ると12時45分。ミッション迄2時間15分もある。スープ売切トラップにかかる恐れに不安を感じつつ、私は意を決した。1月の中旬なのに寒くもない快晴。むしろ心地よいほど。店舗名と気候が完全にシンクロしている。
地元常連と私のようなヨソモノが半々な雰囲気。しかし並んでいる皆さまはそれほどいらだっていない。佐野市民の穏やかさか。行列必至は想定済だからか。じわじわと前へ進む。後ろを振り返ると行列が。常に20人は並んでいるようだ。
途中、店員さんが出てきて笑顔で店内トイレ利用を勧める。店頭にウォーターサーバーがありご自由にどうぞと嬉しい気配り。この段階で絶対に間違いない名店であることを確信する。
列の前の3人組のリーダー格っぽいオヤジが携帯で何やら話し込んでいる。オヤジはすさまじく切なそうに他の2人を連れて列を離れた。急ぎが入ったか。さぞ無念だろう。しかし我ら後列は怒涛の3人抜きゆえ、ほんのりと笑みが漏れる
45分後、入店を許された。いきなり席でなく、店内で待合いイスで少し待つ。この間に券売機と対峙し、じっくり検討する。私の後ろはまだ店外ゆえプレッシャーもない。
この日、私はスーツケースだった。店員さんがわざわざ置き場所を作って下さる。入口に「スーツケース入店お断り」表示のラーメン屋も実在する(経験済)。感動で目頭が熱くなる。〔次夜後編〕

