2012年05月15日

第476夜:杜の都の源氏物語【仙台(宮城)】(その一)

 文化横丁。仙台の繁華街の一角に佇む、魅力的な夜の飲食ゾーンである。老舗とモダンが入り混じり、どの店も良さそうな雰囲気にあふれている。夜が更けると、大勢の酔客の声がドア越しに聞こえてくる。

 その一角に、人が一人通れるかどうかの路地がある。入り組んでいる。突き当たりにぼんやりと看板の照明が灯されている。<源氏>という居酒屋である。

 店の構え、立地。イチゲンが暖簾をくぐるには、かなりの勇気を必要とする。まずフラっと入れる雰囲気ではない。

 私は数年前、仙台を訪れた。すでに廃刊となったガイドブックに載っていたので、たまたま訪問することができた。ガイドブックに載ってるぐらいだから、イチゲンの私でも大丈夫だろう。そのように自分自身を鼓舞せねば、足が竦んで硬直してしまいそうだった。

 それから千以上の夜が過ぎた。いまだに、<源氏>で味わった至福のひととき、感動が忘れられなかった。
私は(仮に)20歳から呑み始めたとし、38歳に至る現在まで、平均週4日は外で呑んでいると推測される。1軒目で終わることはまずないので、1日2軒ハシゴしたとする。店はもちろん重複するが、以下の数式が得られた。

私の呑んだ店の数 : 1日2軒×週4日×年52週×18年間=7,488軒

 自分で計算して、少し引いてしまった。計算ついでに、1軒で生ビールを6杯呑んだとする。

私の呑んだ生ビールの数 :7,488軒×5杯=44,928杯

 約45,000ジョッキである。私の訪問したのべ7,500軒の呑み屋で、<源氏>は私の居酒屋ベスト5に確実にランクイン。このバカ計算は、如何にこの店が素晴らしいかを伝えたいがための隠微な情念だ。余談ついでに全くの個人的嗜好だが、神戸・新長田の<あみさき>、大阪・十三ションベン横丁の<あさひ>、岩手・宮古の<のり平>もベスト5に食い込んでいる。

 迷宮に迷い込み、一抹の不安と無限の期待を胸にガラリと引き戸を開けると、見事なコの字カウンターが目に飛び込む。照明は極力落としている。コの字の中では、割烹着を着た、汗とは無縁の上品なママさんが、軽快かつ優雅に動かれている。

 カウンターはびっしり客で埋まっている。騒ぐ客など誰もおらず、皆さんじっくりと酒と肴を楽しんでいる。私は詰めていただき、45,000杯の生ビールで膨張した体を滑りこませた。

 旬の魚や干物が壁に一部張られているが、基本的にメニュー表は存在しない。未確認だが、恐らく焼酎やウィスキー、チューハイやワインもない。4種類の生ビールと、数種類のこだわりぬかれた地酒のみだ。ドリンク値段は平均1,000円程度。あれ、高いと一瞬思うが、凝視すると壁に張られた酒の御品書に、すべて「お通し付」と書かれている。〔次夜その二〕

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<源氏>物語への入り口

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2012年02月20日

第420夜:拝啓、震災のまちから〜73通目【気仙沼(宮城)】

 東日本大震災商業復興支援マネージャー派遣事業「気仙沼市」。2011年9月7日に椛S国商店街支援センター様より復興支援マネージャーとして派遣されてから半年が経過。本事業期間が2012年2月末で終了します。今週末に気仙沼入りし、本日(2012年2月20日)、私の気仙沼滞在の最終日になります。昨夜は復興商店街を何軒ハシゴしたか、覚えておりません…。

 着任直後に1週間滞在。以降、私は月に最大でも計1週間程度しか滞在できませんでしたが、復興野郎Bチームの中でも安定感抜群のCP・Y川氏を中心に現地活動を展開してきました。

 T大大学院を休学し、気仙沼でボランティア活動に勤しんでいた20代後半のS井氏。私の着任初日、避難所でたまたま私の横に座っていた彼を現地長期常駐不可能な私の名代として、現地マネージャーにスカウト。大学院を中退してしまったほどの奮闘ぶりを発揮。彼と仕事をして、改めて私の空気頭とは全く異なるハードディスクの容量の違いに頼もしさを感じました。

 被災商店街復旧・復興に向けた地ならしをお手伝いさせていただきながら、被災者の方から逆に励まされ、優しさと温かさが心に沁みたこの半年間、本当に様々なことがありました。

 様々な補助制度の活用提案と申請サポート、休会中だった商店街の総会開催支援、復興商店街オープンイベント運営、活動継続が危ぶまれていた魚町地区の継続的な会合のスタート。そして、2月上旬に始まった魚町・南町・八日町地区の合同勉強会&意見交換会。本日13時より、2回目が開催されます。

 気仙沼から帰路に着く際、一ノ関まで80分ほどかけて電車か路線バスで移動します。パソコンを開いて仕事しつつもクタクタで、一ノ関に近づく頃はいつもウトウトしてしまいます。

 前回の気仙沼滞在終了後、私はそのまま宮古へ向かいました。寒波厳しい気仙沼にしては珍しく幾分温暖なポカポカ陽気。バス車中で完全に爆睡してしまいました。

「あれぇ〜!お客さん、乗ってたのぉ〜!」

 叫び声で目が覚めました。バスは止まっています。寝ぼけて放心状態の私は3秒ほどして覚醒しました。バス会社の車庫だったのです。終点の一ノ関到着に全く気付かず座席からずり落ちるほど眠りこけていた私でしたが、運転手さんも全く気づかなかったようでした。

 新幹線の時間が迫っています。流しのタクシーなど拾えそうにありません。親切な運転手さんはため息を500回ぐらい、私はスイマセンを100回ぐらい繰り返しながら、一ノ関駅までそのままバスで戻っていただいたこともありました。

 最も驚愕だったのは、気仙沼市が南町・魚町地区の復興まちづくりコンペを公募実施したこと。180も申請団体が名乗りを上げ、凄まじいウネリが巻き起こっています。コンペ終了後は、Y川氏、S井マネージャーが尽力した3町合同勉強会&意見交換会を、気仙沼市が今後の復興まちづくりを検討していくステージに活用していただくことを願っています。

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Y川氏(左)&S井現地マネージャー(右)の絶妙な気仙沼チーム

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2012年02月08日

第412夜:拝啓、震災のまちから〜70通目【気仙沼(宮城)】

 「気仙沼市被災商店街合同勉強会&意見交換会」。気仙沼市の中心市街地商店街地区では、気仙沼市主催による復興まちづくりコンペが公募されています。最終エントリー数は未定ですが、180団体が手を挙げられています。

 なぜコンペが実施されることになったのか。内実は私ごときに分かりませんが、住民意見(主に事業者)を二分しているのが、防潮堤の有無問題。景観を損ねるから必要ない、6.2の高さが妥当なのか、100年いや1000年に一度レベルの大津波に備えるために巨費を投じるなら他にところに回すべき、エトセトラ……。要するに、まとまらないなら一般事業者から幅広くアイデアを公募し、いいとこ取りで計画を作ろう、と推測されます。

 今回の地震で地盤沈下が激しくなり、高潮時以外でも沿岸部は冠水しています。盛り土による嵩上げと並行して行われる予定の震災復興土地区画整理事業。調査設計期間もあるので、本設復興に向けた動きが具体的に工事として着手されるのは早くても5年以上先。その間に廃業や更なる住民流出が進み、商環境はますます厳しくなるでしょう。

 コンペの是非はともかく、被災地区がそれぞれ復興計画に対する話し合いの機運が高まりだしたことは、遅ればせながら喜ばしいことです。ただし、面的整備を進めるためには、地区を横断した情報共有が不可欠。同時に、魅力ある復興計画を絵に描いた餅に終わらせないためにも、復興まちづくりの具体的な手法、付随する課題、今後待ち受ける修羅場などを知っていただく必要もあります。

 私が気仙沼入りしてから5カ月が経過。復興野郎BチームのY川氏、S井現地マネージャーの尽力で、魚町地区・南町地区・八日町地区(一番街)の商店街代表者や組合員が集った本格的な合同勉強会を昨日(2012年2月7日)発足させることができました。

 当初の予定時間を大幅に超過する白熱した意見交換会となりました。特に区画整理事業は大きな痛みを伴います。時間もかかります。都市計画決定までの紆余曲折、それからの住民合意……。目指すのは、復旧ではなく復興です。

 会議を終えた夜。気仙沼復興商店街の割烹<世界>さんで復興野郎Bチームと打合せ会食の最中、店のオーナーも顔を出され、1時間以上様々なお話をお聞かせ下さいました。とてもここではすべてを書き記すことはできませんが、復興を影で支えているのはこれほどの大人物なのかと心の底から感銘を受けました。途中、目頭が熱くなってきました。

 ありがとうの言葉、挨拶、人だけでなくモノに対する感謝……。勉強会を主催した私たちですが、被災地では私たちの方が勉強させていただくことが圧倒的に多いのです。一つの事象をマイナスと捉えるかプラスと捉えるかはその人次第。ただ、どんな修羅場や不幸もプラスと捉える習慣を身につければ、人生は100億倍も幸せになるでしょう。

120208気仙沼市商店街合同勉強会.JPG

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