【エピソード8】「五ノ神製作所」
2023年の夏に名古屋駅麺通りの7峰すべて完麺というプロ登山家クラスの偉業を成し遂げてから約1年後、駅麺通りに新たな峰が隆起していた。このテのコンセプトゾーンは定期的に店舗が入れ替わるため、注意を怠ってはならない。
時間は17時半。昼時はどこも長蛇の列だが、穴場時間ゆえかどの店も混んではいるが並ぶことなく入店できる。
新たな峰は「五ノ神製作所」。「製麺所」ではない。入口には「ラーメンTOKYO百名店2017〜2023年 7年連続」とある。2010年に東京で産声を上げてあっという間に行列を作ったとある(店の案内より)。キャッチフレーズは「海老を飲みませんか?」。斬新で心震える。
冷たい水で喉を湿らせつつ、卓上でメニューを吟味。初めての店で券売機は後ろからのプレッシャーに押しつぶされる。メニューで戦略を練ることができ、好感度が跳ね上がる。
トッピングやライスメニューもあるが、つけ麺が専門。ラーメンはない。つけ麺はノーマルの「海老つけ麺」にトマト、味噌アレンジの3種類。すべて1,180円がベースの値段である。
麺の量はノーマルが360gゆえ、プラス150円で540g(大盛)を選択。チャーシュー、味玉、キャベツが追加される「特製」にランクアップさせる。提供は水で締めない「あつもり」だ。
さらにプラス200円すれば720gの特盛になるが、初めての店で特盛は危険。しかし、私はつけ麺やまぜ麺よりも圧倒的にスープに浸されたラーメン派ゆえ、つけ麺を食べなれていない。スープが無くなったら絶望するだろう。プラス150円でスープ増しに。
気づけば単品なのに合計1980円。1000円の壁どころではない。ラーメン(つけ麺)単品では破格だが、ひつまぶしなどに比べたら半値程度。名古屋名物の一つがエビフリャ〜。東京ラーメンといえ名古屋で「海老推し」は好適だ。
店内は満席。4人掛け席からは中国語(たぶん)が大声で聞こえるが、カウンター席はいかにも地元のラーメン武士で溢れている。期待が高まる。卓上の調味料は一味唐辛子、黒胡椒、タバスコ。タバスコが謎である。海老トマトつけ麺用なのか。
海老、降臨。香りが海老である。まずはスープをレンゲで…。濃厚な海老。和でも中華でもない、日本独自で進化を遂げた新種の海老の味。
麺を浸して啜る…。刮目した。麺とスープが濃厚かつ官能的に絡み合う。海老を飲む、という感覚を体感できる。
丼の中の麺は何かに浸かっている。最初、白湯かと思ったがほんのりと色がついている。レンゲで少し啜る…。海老の薄味の出汁だった(たぶん)。
麺を啜り終え、この薄味出汁を濃厚スープに注ぐ。いわゆる「スープ割り」。圧倒的な中毒性。行列と7年連続ランキングの理由を舌で理解した。
通路に人が写っていない奇跡。
海老を飲む快楽。