2018年12月08日

第2090夜:湯豆腐になりたい【嬉野(佐賀)】

 嬉野温泉。佐賀県の位置する温泉郷である。私はこれまでバスで何度も嬉野ICを通り過ぎたが、2018年10月上旬、初めてご縁を頂き嬉野温泉への上陸を果たした。ただし、湯治でも旅行でもなく、少々生臭いミッションである。

 嬉野温泉商店サービス会のA川氏にインターまで迎えに来て頂き、メイン通り(商店街)を散策。色分けされた歩道(路側帯)もあり、歩道も決して狭くないのだが、商店街(の一部)を一方通行にしようという動きがあり、それに全力で反対しているのが商店会。

 私は商店会側から軍師として招かれた。しかし私は交通や都市計画の専門家でも何でもないし、そもそも車すら持っていない。

 商店街を構成するお店は土産物一辺倒というより、生活に根差した店で主に構成されている。かなり垢ぬけてお洒落な店も数多い。ポテンシャルを感じさせる。私は平日の小雨降る夕方に歩いたのだが、観光客よりも地元住民の方が多いように見受けられた。

 立派な温泉旅館が無数に林立。湯気が立ち上っている。その2日前、福島県奥会津地方の柳津温泉郷に私は宿泊していたのだが、当然ながら規模が異なる。日本中に無数にある温泉郷の中で、何の順位か失念したが22位らしい。ちなみに名物は「湯豆腐」。なかなかシブい。

 悩ましいミッション前に商店街にほど近い<山水グローバルイン>チェックイン。ビジネスホテルだが、男女別の入れ替え式天然温泉大浴場がある。館内の至る所に嬉野の銘水を詰めたウォータークーラーが設置されている。実にポイント高い。

 商店街に交流センターがある。20時から22時まで「一方通行を阻止するためには」というウルトラマニアックなテーマで90分話せという大型台風級の無茶ぶりを開始2時間前に聞かされ、何とか気合で対応後、K賀会長、A川元会長と路地の寿司屋へ。

 生ビールが染み込むように旨い。絶品の刺身、にぎりをツマミながら日本酒へ移行。様々なお話をお聞かせいただく。

 24時にホテルへ。温泉大浴場は24時までなので翌朝の楽しみとし、浴衣に着替えて漫画コーナーへ。『キャプテン翼ワールドユース編』を数冊手にし、部屋へ。

 嬉野の冷たい清水をチェイサーにスーツケース常備バーボンをラッパしながら読みふけっていると、いつの間にか瞼が落ちていた。

 翌朝。ハシゴせず深酒鯨飲しなかったため異様にすっきり6時起床。大浴場へ。貸切状態の中、体と頭を洗い、嬉野の温泉に浸かる。……。くふぅ、ムフゥという呻きしか漏れぬ。

 昨晩集まられた商店主たちは老いも若きも顔の肌艶が潤っていたことを思い出す。日々の温泉の効能か。月々1万円で自宅に温泉を引けるという。

 脱衣場で体を拭いていると「ビール冷えてます」というPOPが。思わず頭が真っ白に。しかし時間は朝6時過ぎ。PC猿打せねばならぬだけでなく、これから長崎へ向かわねばならない。

 心の隙間に鍵をかけ、奥歯を噛みしめながら冷たい嬉野の清水を呑む。……。これはこれで、甘露。体中の我が汚れた毛細血管と細胞が弾けだした。

 昨晩は〆のラーメンなどをやっていないので(24時まで寿司屋にいましたが)、極上温泉に浸かって部屋に戻ると空腹を覚えた。朝食付きプランだったことを思い出し、朝食会場へ。ビジネスホテルだが浴衣のまま行けるあたりも温泉郷ならではといえる。

 和洋バイキングは10種類以上ありそうな総菜に生卵、納豆、カレーまである。中でもとびっきり目を惹いたのが、湯豆腐。嬉野名物である。昨晩食べ損ねたので、幸せの邂逅だ。タレはポン酢ともう1種類ある。湯豆腐は角が立っておらず、白濁した煮汁とともに揺蕩っている。

 レンゲですくい、ポン酢を垂らす。口に運ぶ。……。口の中で蕩けた。豆腐の旨味そのものも濃厚だ。豆腐自体が旨いのか、温泉成分を含んだ水で煮るからこのように化学変化するのか。ふわっふわの、とろっとろ。

 湯豆腐が嫌いな御仁もいないと思うが、何よりも大好物という御仁も多くはないだろう。しかし、この湯豆腐を味わうとこれまで狭き固定概念が根底から覆される。朝食の旨しだが、寒い夜に熱燗をヤリつち味わうとさらに旨味が増すだろう。

 早朝から極上の温泉に浸かり、トロントロンの温泉湯豆腐を味わう。そして、チェックアウト前にもう一度温泉に飛び込むことを決意する。私自身が湯豆腐のようにトロトロになってしまいそうである。

181208嬉野温泉@.jpg
嬉野温泉のメインストリート商店街。温泉豆腐が名物?

181208嬉野温泉A.jpg
足湯もシブい。

181208嬉野温泉B.jpg
寿司も旨し。

181208嬉野温泉D.jpg
朝食はバイキング。

181208嬉野温泉E.jpg
湯豆腐がメインディッシュ。

181208嬉野温泉F.jpg
朝から食べ過ぎた。
posted by machi at 14:25| Comment(0) | 佐賀県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月09日

第738夜:シシリアンライス評価委員に認定される【佐賀(佐賀)】(後編)

 「シシリアンライス、お待たせしました〜」。マスターの味のある声が聞こえてきた。私の目の前に、美しくも巨大な宝石箱が飛び込んできた。見た目はシーザーサラダが沖縄タコライスに見えなくもないが、煌めきが半端でない。そして、すごいボリュームである。

 ほかほかライスの白、レタスの緑、トマトの赤、クルトンの小麦色、マヨネーズドレッシングの淡黄、半熟目玉焼の濃黄、牛肉の褐色……。思わず口が半開きになる。

 器も身目麗しい。カラフルで楽しくも深みのある意匠が施されている有田焼である。高級感溢れる器に目を奪われ、中身に心震える。お箸とともに、レンゲも添えられた。

 口に運ぶ。……。最初にマヨネーズドレッシングのまろやかな酸味が広がり、レタスのシャキシャキした食感が歯にあたる。間髪いれず、焼肉のたれ風のものがまぶされたほかほかライスが追いかけてくる。厳選された炒め牛肉は柔らかくも上品な脂がのり、なんとも高貴かつジャンクな風味に目を細める。レタスはレンゲで食べにくいので少しだけ苦戦したけれど。

 歯ごたえのアクセントを担うのが、ジューシーなトマト、カリカリのクルトン、プチっと弾けるコーンだ。これらが口の中で混じり、不思議の国が生まれる。私のようなマヨラーにはたまらない味づけ。カフェ飯っぽいけど、完全なサラリーマンオトコメシだ。

 半分を食べ終えた。私はレンゲの先を半熟卵の黄身にそっと押しつけた。かすかな抵抗の後、黄身がトロリと溢れだし、ライスや具に絡み始めた。

 新たな気持ちで口に運ぶ。……。混然一体。口の中が薩長土肥状態に。それぞれが連携しながらも別々の味っぽかったのが、半熟卵が一つの完成された料理に昇華させた。坂本竜馬氏的な役割を半熟卵が担っている。夢中になった。食べ終えた。大満足である。

 席を立とうとしたら、マスターが「佐賀市ご当地グルメ『シシリアンライス』」評価委員認定書」をカウンター越しに手渡された。マップに掲載されている推進協力店が証明書を発行しており、3枚集めるとカッパをモチーフにしたシシリアンナちゃん携帯ストラップがもらえるそうだ。カッパは遠野(岩手)や若松(北九州)だけでなく、佐賀にも生息しているとは。

 私は仕事柄、様々な委員になったが、シシリアンライス評価委員は光栄の誉れ。評価するだけでなく、普及活動にもお役に立たねばならない。私は、意を強くした。店によってアレンジや値段も異なっているそうだが、ボリュームありすぎて食べ歩きは辛いかいもしれない。

 後日、一日一麺同盟の麺友である北九州のU野氏から情報がもたらされた。シシリアンライスの由来である。「トマトの赤とゆで卵の白とキュウリ やレタスの緑がイタリア国旗の三色旗 をイメージし、地中海に浮かぶシチリ(シシリー)島にちなんで名付けられた」らしい。カジュアルなカフェメシではなく、やはり重厚なゴッドファーザー風のオトコメシである。

130608シシリアンライス@かっぱ亭in佐賀.JPG
佐賀の宝石、「シシリアンライス」。
posted by machi at 07:17| Comment(0) | 佐賀県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月06日

第737夜:シシリアンライス評価委員に認定される【佐賀(佐賀)】(前編)

 4月4日。この日は日本記念日協会(こんな団体があるんですね)が制定した「シシ(44)リアンライス」である。恥ずかしながら私は、全く存じ上げなかった。それ以前に「シシリアンライス」の知識どころかその存在すら初耳だ。不明を恥じるのみである。では、謎の用語「シシリアンライス」とは何か。

 昭和50年ごろ、佐賀市中心街の喫茶店で誕生。じわじわ広がり、30軒を超える店で提供されるようになったらしい。皿や丼に温かいライスを盛り、炒めた肉と生野菜を載せてマヨネーズをかけたものが基本形。ネーミングもいまだに謎という。(佐賀観光協会シシリアンMAP参考)。MAP冒頭に‘うわさによると’と書かれており、発祥の由来すら定かではないようだ。

 2012年10月下旬。全く予備知識のないまま佐賀駅に降り立った私は、駅構内の観光協会にて前述の「シシリアンライスMAP」を入手。これが、佐賀市最強の御当地グルメであるらしい。昼食メニューが確定した瞬間だが、何のライスか最初はさっぱり分からない。

 朝食を抜いて空腹だったので、とりあえずマップに掲載されている店舗の中で最寄りの<かっぱ亭>を訪ねた。有明海の豊かな恵みを堪能できる郷土料理居酒屋だった。

 店内はサラリーマンで大にぎわい。ボリューム満点の定食メニューを各々楽しんでいる。イナセな鉢巻と派手な法被を着込んだコワモテの大将と奥様が忙しそうに立ち働いている。

 店のルールが分からない私は、コワモテ大将の眼前のカウンターに腰掛け、少々ビクビクしながら「シシリアンライス」と眉間にシワを寄せながら、シブい関西弁でつぶやいた。

 大将は相好を崩し、蕩けるような笑顔で「は〜い、シシリアンライスひとつ〜」と甲高い声を発した。私の緊張がほどけた。女将さんもマスターも実に丁寧で気持ちいい接客ぶりだ。

 店内を見渡す。大物というより、マニアックなタレントが数多く来店されているようで微笑ましい。駅で入手した観光マップを思いっきり熟読していると、忙しく調理している大将が「お客さん、これ」と言って2冊の本を開いてカウンター越しに私に手渡した。

 何だろう、と受け取った1冊目は、何と魚類図鑑。それも、有明海で獲れる魚介類のみを掲載したマニアックな構成。パラパラとめくるが、どれも初めて目にする魚ばかり。美しい魚体からグロテスクだが味は絶品な魚まで、その生態やおススメの食べ方まで紹介されている。食欲が喚起されるというより、その生態のリアルさに少し引き気味になる。

 もう1冊にさらに驚く。音楽雑誌だ。キョトンと固まってしまった私に、大将は「ほら、ここ。●ずのお二人が店に来たんです」とおっしゃる。それは、ゆ●のお二人が<かっぱ亭>の座敷で有明海の魚を堪能しながら答えているインタビュー記事だった。マニアックタレントばかりだな、とニヤけていた私の頬っつらを叩かれた気分だ。失礼いたしました。〔次夜後編〕

Resized_320_DSCF4255.JPG
コワモテだが実に優しい大将と賑やかな店内。
posted by machi at 07:48| Comment(0) | 佐賀県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする