ある寒い冬の雨の朝8時。ホテルから歩いて潮来駅へ向かう。イコカが使えない昭和の改札だが、駅員もいない。券売機に対峙するが、何故か北朝霞までのチケットが買えない。
駅員さんを奥から捕まえ切符を買おうとしたら、何故か潮来駅から北朝霞駅までは同じJRだが発券できないらしい。1660円の切符を買い(券売機の上限)、差額を北朝霞駅で払ってくれとおっしゃる。
首を傾げながら1時間に1本の成田方面行へ。成田で乗り換え安孫子、新松戸を経由し北朝霞へ。かなり接続が良くても2時間40分の長旅である。すべて普通列車だ。ちなみに新松戸駅の立体ホームの複雑さは折尾駅クラスである。
前々日の夜に襲ってきた歯痛がかなり治まっている。今治水が効いたのだろうか。長旅の途中、腹が減ってきた。外は氷雨。こんな日は湯気煙る立ち食い蕎麦に勝る惹きはない。
乗換の我孫子駅でふと思い出した。この駅のホームには全世界の駅そばマニアで知らぬ者なき有名な逸品がある。「唐揚そば」である。なぜ有名なのか。理由はその巨大さにある。
我孫子駅をぐるりと見渡し、1番ホームへ向かう。ここまで来れば電車は10分の1本ペース。蕎麦を楽しむ時間もある。歯痛も治まってきたので、久々にガツンと歯ごたえのあるブツを喰いたい。麺類と、ガツン。唐揚そばしか思いつかない。
店内は満員である。唐揚そばは1ヶ(440円)と2ヶ(540円)。店内客の半数が唐揚そばを頼んでいるようだ。
私はガツンと2ヶ入りに。行列に並ぶがすぐに着丼。唐揚2ヶがデカすぎて蕎麦がほぼ見えない。丼が小さく見える。店頭のビジュアルポスターよりデカいのではないか。汁を啜ろうにも、そばを手繰ろうにも、まずは唐揚1ヶを完食せねば次に進めない。
一味をパラリし、エアーズロックにかぶりつく。……。ザクっとした衣の歯ごたえが力強い。その後に鶏もも肉の旨味が口の中でステップを踏む。汁に浸してかぶりつく。ソリッド感が薄まるかわりに衣が出汁を吸い、味が確変する。もも肉も温められて旨味が増す。
1ヶ完食した段階でかなりの満足感である。蕎麦もコシがあり香りも豊か。濃いめの出汁とよく絡む。唐揚の衣の脂がつゆに溶けだして思わず目を細め、口角を上げる。
もう一つのエアーズロックに挑む。出汁に浸かっているので渾然一体。それにしても大きい。何とか喰い切ったが、1ヶで十分かもしれない。しかし再度券売機に対峙したら、一瞬迷いながらも2ヶのボタンをきっと押すはずである。

安孫子市民のソウルフード(たぶん)。

立ち寄らずにいられない吸引力。