高瀬川。何となく文学の香気漂う名前の川である。高瀬川は京都木屋町通り沿いに流れている。めったに京都市内へ足を運ばない私は、高瀬川沿いをぶらつくのが初めてだった。実に風情があって気持ちいい、ある10月の秋晴れの正午前だ。
木屋町界隈に限らないだろうが、明らかに日本人よりアジア系の賑やかな方々が圧倒的な存在感を放っている。そして、異様なまでのラーメン店の数に圧倒される。1000年の都と様々な食文化が融合して謎の惑星になりつつあるのかもしれない。
ラーメンを愛してやまない私である。正午前の空腹到来。どこかで啜ろうか。しかし日本語以上に外国語表記が目立つ店ばかりで少し興ざめする。
ラーメンを断念し、京阪三条方面に向かうとライブハウスが地下にある。めったに京都に近寄らぬ私の目的地は、そのライブハウス。私の新長田時代の部下であり妹のような存在でもあるモグの通算●回目の結婚パーティが開かれたからだ。開園ギリギリに到着。スーツ着ているのは我が新長田チームぐらいで、他は思いッきりラフな服装だ。
超普段着の司会者が登壇。ようやく始まったか。モグはその数か月前に開かれた我が家の宴会に参加し、婚約発表していた。旦那はお会いしたことがない。どこだ、新郎は。キョロキョロしていると、司会者と思しき御仁が実は思いッきり新郎。思わず絶句する。
私はたまたまだが1番前の超アリーナ席。乾杯前からいきなり新婦のモグを挟みドリカム編成の3人が三味線演奏。間髪入れず琉球舞踊と思しきお二人の女性がステージへ。その距離があまりにも私と近い。
モグはテーブルを回りながら愛想振りまいている。旦那、高砂に放置プレイ状態である。信じられぬほど不味いソーセージに顔を顰めながら痛風ゆえハイボールをガバガバ空ける。
メインセレモニーと思しき鏡開き。新婦モグが選んだらしいぐい飲みに樽酒を注ぐ。木の香りが豊潤な日本酒をガバガバやっていると、唐突にモグが実のお姉さんの伴奏で歌い出した。
彼女が私の部下になったのは十数年前だが、確か当時は男女デュオで活動中だった。信じられぬほど売れていなかったと記憶するが、仕事はホントに良くできた。私の中では年齢はともかく何人目かの妹のような気分だった。頼りにもしていた。それから紆余曲折たっぷりで今に至ったのだろう。私も年1回以下の頻度で会うかどうかだったが、見た目も全然変わらない。
そんなことを思い出しながら歌を聞いていると、今度は新郎がビッグバンドを率いて登壇。曲は『ロード・オブ・●・リング』のホビット荘やエ●ヤを思わせるケルティッシュ。誰かが踊りだした。私も特別サービスで立ち上がり、ステップを踏んで踊る。汗ダクダクだ。
地下鉄で京都へ。同行氏らと呑み直すべく三宮へ。しかし、50分以上ある。売店でロング冠を5本買い新快速に持ち込むが異様に混んでいる。とても座れない。それでもめげずに乾杯。
それから三宮のビアホール、新長田の串カツ屋、最後は我が自宅。14時間ほど呑んだだろうか。そういえば映画に出てくるホビットたちは酒好きだ。私はホビットのような愛らしさはないが、短躰でクセ毛で毛深くてイタヅラ好きなところだけは似ているはずだ。
鏡開きの1次会。
謎の姉妹デュオ。
2次会。
3次会。
4次会。
末永くお幸せに。
2017年12月09日
2015年06月06日
第1229夜:夜の「伏見」と先斗町【京都(京都)】(後編)
身も大きなしじみがたっぷりの赤出汁をじっくり味わっていると、ママが他の客に寿司を売りだした。確かに赤出汁を呑んでいると、満腹なのに寿司をツマミたくなる。しかし、一切れが異様にデカすぎる。結局誘惑に負け、平目と鯖と穴子の押しずしをマダムとシェアする。
穴子は柔らかくてジューシー。鯖は脂が乗っているのに酢の塩梅が絶妙でクドクない。すっきり食べられる。満腹なのに胃に収まっていく。持ち帰りは1本1500円。私は穴子と鯖を持ち帰ることにした。ズシリと重い。他店の倍のサイズ。マダムの分も含め計3本持ち帰ることをママに告げた。ママは私の目を見て一言放った。「愛している」。
超満腹で店を出る。観光客と外国人で大賑わいの風情あふれる祇園を歩く。私は祇園童貞である。桜が咲き始め月明かりに照らされている。千年の都のソコヂカラを思い知らされる。
先斗町に戻る。シメはBARで。ウィスキー専門バーは幾度もドアを潜ったが、ウォッカのみに絞ったBAR<NAKANISHI>へ(正式にはロシア文字)。
カウンターだけのシブイ店内とシブいマスターがキマっている。壁面を埋めるボトルはすべてウォッカ。同程度の銘柄を取り扱っているバーは銀座に1軒あるらしいが、そこは他の酒も置いている。ウォッカだけは日本唯一このお店だけらしい。創業15年以上になるという。
私はウォッカベースのカクテルは経験あれど、ウォッカのストレートは未だ童貞である。冷凍庫でキンキンに冷えた何かの銘柄をショットで口に運ぶ。……。シャープ。甲類焼酎に近い味だが、チンチンに冷えているからか思ったよりも呑みやすい。
度数は40度ちょっと。ウィスキーとほぼ同じ。私は居酒屋ではハイボールだが自宅やバーではウィスキーやバーボンはほとんどストレートなので慣れている。クイクイ呑めてしまう。
他の銘柄を試す。甘く感じられた。焼酎もウィスキーも銘柄で味が全く異なるように、ウォッカも千差万別。これからボトル買いし、自宅で試してみようと誓う。
ストレートでシュッとした舌をレーズンのパウンドケーキが甘さで包み込む。ウォッカに合うツマミといえる。マダムはウォッカベースのカクテルをスイスイ空けていく。
年に1度の伊丹市民オペラに毎年出演しているマダム。本番2日前を控え、呑みすぎ喋りすぎ唄い過ぎは禁物。ノドをセーブせねばならない。
そんなマダムと私はド素人だがオペラ話で談笑していると、マダムがいきなり歌い出した。度胆抜かれた。他に客はいない。マスターもニヤニヤと苦笑している。マスターにマダムが「すいませんね」と軽く謝る。するとマスターはステキなシブイ笑みで「いえいえ、もっと聴いていたかったです」。
祇園、三条、先斗町。その日の午後まで全く想定していなかった夜の京都散策。中年男女が酒をじっくり楽しめるオトナの街である。
アジア系観光客が制圧。
先斗町のウォッカ専門バーにて。
穴子は柔らかくてジューシー。鯖は脂が乗っているのに酢の塩梅が絶妙でクドクない。すっきり食べられる。満腹なのに胃に収まっていく。持ち帰りは1本1500円。私は穴子と鯖を持ち帰ることにした。ズシリと重い。他店の倍のサイズ。マダムの分も含め計3本持ち帰ることをママに告げた。ママは私の目を見て一言放った。「愛している」。
超満腹で店を出る。観光客と外国人で大賑わいの風情あふれる祇園を歩く。私は祇園童貞である。桜が咲き始め月明かりに照らされている。千年の都のソコヂカラを思い知らされる。
先斗町に戻る。シメはBARで。ウィスキー専門バーは幾度もドアを潜ったが、ウォッカのみに絞ったBAR<NAKANISHI>へ(正式にはロシア文字)。
カウンターだけのシブイ店内とシブいマスターがキマっている。壁面を埋めるボトルはすべてウォッカ。同程度の銘柄を取り扱っているバーは銀座に1軒あるらしいが、そこは他の酒も置いている。ウォッカだけは日本唯一このお店だけらしい。創業15年以上になるという。
私はウォッカベースのカクテルは経験あれど、ウォッカのストレートは未だ童貞である。冷凍庫でキンキンに冷えた何かの銘柄をショットで口に運ぶ。……。シャープ。甲類焼酎に近い味だが、チンチンに冷えているからか思ったよりも呑みやすい。
度数は40度ちょっと。ウィスキーとほぼ同じ。私は居酒屋ではハイボールだが自宅やバーではウィスキーやバーボンはほとんどストレートなので慣れている。クイクイ呑めてしまう。
他の銘柄を試す。甘く感じられた。焼酎もウィスキーも銘柄で味が全く異なるように、ウォッカも千差万別。これからボトル買いし、自宅で試してみようと誓う。
ストレートでシュッとした舌をレーズンのパウンドケーキが甘さで包み込む。ウォッカに合うツマミといえる。マダムはウォッカベースのカクテルをスイスイ空けていく。
年に1度の伊丹市民オペラに毎年出演しているマダム。本番2日前を控え、呑みすぎ喋りすぎ唄い過ぎは禁物。ノドをセーブせねばならない。
そんなマダムと私はド素人だがオペラ話で談笑していると、マダムがいきなり歌い出した。度胆抜かれた。他に客はいない。マスターもニヤニヤと苦笑している。マスターにマダムが「すいませんね」と軽く謝る。するとマスターはステキなシブイ笑みで「いえいえ、もっと聴いていたかったです」。
祇園、三条、先斗町。その日の午後まで全く想定していなかった夜の京都散策。中年男女が酒をじっくり楽しめるオトナの街である。
アジア系観光客が制圧。
先斗町のウォッカ専門バーにて。
2015年06月04日
第1228夜:夜の「伏見」と先斗町【京都(京都)】(中編)
他の客の注文したメニューが視界に入る。どれも凄まじい量で、それを勘案すると激安である。一人で数皿食べきれるものではなく、何人かでシェアしないと厳しいだろう。
学生らしい感じのいいバイト君が実に忙しそう。ママはカウンターの学生グループを捕まえ、バイトしろとその場でスカウトしつつ携帯番号を聞き出している。すごい光景である。
「どぶ漬」とは何だろう。頼んでみると、胡瓜と茄子の糠漬けだった。。酸っぱすぎず、浅すぎず絶妙の浸かり具合。たっぷりで280円。特に茄子のグラデーションは芸術の域である。
580円を380円にサービスするから鰹のあたまを食べろとママが持ってくる。思わず目を剥いてしまう巨大さ。これだけで満腹になりそうだが、勢いに押され受け取ってしまう。
ママは常連でもイチゲンでもこれがオススメとドスの効いた声と凄まじい目チカラで迫ってくる。どの客も「じゃあ、それお願い」と答えるしかない。これぞ「販売」。見事である。
すでに満腹なのだが、隣の芝は青く見える。他の客の注文で気になった品を追加する。「筍の刺身」。適度な苦みと新鮮さと歯ごたえが最高。体中の細胞が水を得て生き還る感じ。だし醤油もよいが、わさび醤油にトドメを刺す。
最も気になった「うにの天ぷら」。うにを天ぷらできるのか。練りこんだ蒲鉾のことか。または京都独自の言葉で全く別の食材なのか。値段は600円と安値。試しに注文してみる。
出てきたブツを見て顎が外れそうになった。メニュー名どおりだった。海苔に乗せ、素揚げしている。口に運ぶ。……。サクッとした海苔の風味の後、油をまとった海胆の旨みが濃縮され、トロトロのまま押し寄せてくる。すかさず菊正宗を口に含む。風味が倍加する。すごい技術である。なぜ弾けて小さくならぬ。鮨屋で握りを頼むより安くて旨いかもしれない。
野菜てんぷら山盛りは40代の男女(私とマダム)には厳しいので、「春の山菜天ぷら」に。旬の山菜天ぷらは無敵のアテ。柔らかくて、ほろ苦い。末梢神経の隅々まで春が行きわたる。
帰る前に河原町あたりでシメのラーメンを啜るつもりだったが、もう胃の限界に達している。しかし、汁モノは啜りたい。私は赤出汁を注文した。するとママがジロリと私を一瞥し、イセエビとシジミ、どちらを具にするか聴いてきた。
イセエビは魅力的だが豪華すぎて二の足を踏む。値段もいくらか分からない。私はショボくてすいませんという表情を浮かべつつ、消え入りそうな声で「シジミで…」とつぶやいた。
ママが泣く子も黙るスルドイ目で私をにらみつけた。一瞬の間の後、ママが「正解」と言葉を放たれた。私はドキドキとクエスチョンマークが飛び交ったまま口を半開きで呆然としていると、ママが補足した。「今日のイセエビは冷凍やねん。シジミの方が美味しいで。お兄ちゃん、ええ選択するやん」。恥ずかしかったが、褒めらたら嬉しいものである。〔次夜後編〕
まさに春の奇跡、筍の刺身。
奇跡の調理、うにの天ぷら。
学生らしい感じのいいバイト君が実に忙しそう。ママはカウンターの学生グループを捕まえ、バイトしろとその場でスカウトしつつ携帯番号を聞き出している。すごい光景である。
「どぶ漬」とは何だろう。頼んでみると、胡瓜と茄子の糠漬けだった。。酸っぱすぎず、浅すぎず絶妙の浸かり具合。たっぷりで280円。特に茄子のグラデーションは芸術の域である。
580円を380円にサービスするから鰹のあたまを食べろとママが持ってくる。思わず目を剥いてしまう巨大さ。これだけで満腹になりそうだが、勢いに押され受け取ってしまう。
ママは常連でもイチゲンでもこれがオススメとドスの効いた声と凄まじい目チカラで迫ってくる。どの客も「じゃあ、それお願い」と答えるしかない。これぞ「販売」。見事である。
すでに満腹なのだが、隣の芝は青く見える。他の客の注文で気になった品を追加する。「筍の刺身」。適度な苦みと新鮮さと歯ごたえが最高。体中の細胞が水を得て生き還る感じ。だし醤油もよいが、わさび醤油にトドメを刺す。
最も気になった「うにの天ぷら」。うにを天ぷらできるのか。練りこんだ蒲鉾のことか。または京都独自の言葉で全く別の食材なのか。値段は600円と安値。試しに注文してみる。
出てきたブツを見て顎が外れそうになった。メニュー名どおりだった。海苔に乗せ、素揚げしている。口に運ぶ。……。サクッとした海苔の風味の後、油をまとった海胆の旨みが濃縮され、トロトロのまま押し寄せてくる。すかさず菊正宗を口に含む。風味が倍加する。すごい技術である。なぜ弾けて小さくならぬ。鮨屋で握りを頼むより安くて旨いかもしれない。
野菜てんぷら山盛りは40代の男女(私とマダム)には厳しいので、「春の山菜天ぷら」に。旬の山菜天ぷらは無敵のアテ。柔らかくて、ほろ苦い。末梢神経の隅々まで春が行きわたる。
帰る前に河原町あたりでシメのラーメンを啜るつもりだったが、もう胃の限界に達している。しかし、汁モノは啜りたい。私は赤出汁を注文した。するとママがジロリと私を一瞥し、イセエビとシジミ、どちらを具にするか聴いてきた。
イセエビは魅力的だが豪華すぎて二の足を踏む。値段もいくらか分からない。私はショボくてすいませんという表情を浮かべつつ、消え入りそうな声で「シジミで…」とつぶやいた。
ママが泣く子も黙るスルドイ目で私をにらみつけた。一瞬の間の後、ママが「正解」と言葉を放たれた。私はドキドキとクエスチョンマークが飛び交ったまま口を半開きで呆然としていると、ママが補足した。「今日のイセエビは冷凍やねん。シジミの方が美味しいで。お兄ちゃん、ええ選択するやん」。恥ずかしかったが、褒めらたら嬉しいものである。〔次夜後編〕
まさに春の奇跡、筍の刺身。
奇跡の調理、うにの天ぷら。