ある師走の午後。埼玉県春日部市から盛岡駅に13時着。13時15分発の盛岡発宮古行きのバスに乗る。たまたまかもしれぬが、16時までに宮古入りするためにはもっとも便利ゆえ、2回に1回はこの時間のバスに乗っている。
しかも、この時間のバスは1日1往復しかない夢の2階建て超豪華超特急バス。2時間15分の所要時間が2時間5分と10分も短縮される。しかも完全予約制だ。
窓口で切符を買う。座席に十分余裕があるという。私は特に車窓に興味がないので空いている後部座席に乗り込み、パソコンを開いて猿打ちし始めた。
ドアが閉まり、バスが動き出したようだ。しばらく猿打に集中し、県庁市役所前を通り過ぎたあたりでふと顔を上げると、誰もいない。
立ち上がっても、誰も見かけない。……。2階は誰も乗っていない。1階は割高料金のビジネスシート。そこには誰か乗っているだろう。
途中休憩の道の駅「やまびこ産直館」に着いた。降りる際に、1階を除いた。誰もいない。運転手さんにもしかして私だけなのかと問うと、苦笑いしながら首肯された。
何人乗りか分らぬが、乗客、掛け値なしに私だけ。予約制なので途中乗車なし。盛岡から宮古まで約100q。試したことのある御仁と会ったことがないので正確な数値は分らぬが、タクシーなら3万円は下らないだろう。
タクシーではなく、バス貸切である。しかも2階建ての豪華バスである。もし実際に貸し切るといくらかかるのか……。最高の贅沢さと快適さ。まさに「イーハトーブ」状態である。
浮かれていたと、ふと不安がよぎる。今後の運行継続の懸念である。ギュウギュウ満席もツラいが、独占もツラい。1階は運転手さんだけ。2階は私だけ。車内アナウンスもすべて私のために。2時間5分の独り占め、申し訳なさも満点だ。
道の駅で眠気覚ましの缶コーヒーを2本捕獲。1本を運転手さんにプレゼントした。
翌朝。宮古から盛岡へは早朝7時半バス。普通車両である。2人掛けを独り占めできる程度の絶妙の乗車加減が心地よい。
バスは定刻の10時前に盛岡到着。駅構内の飲食店街は10時オープン。11時前の新幹線で東京経由で茨城県行方市へ向かう。約1時間の待ち時間。
朝昼兼用で「白龍じゃじゃ麺」と「柳家ラーメン」のどちらを攻めようかと鼻息荒くしていたら、いつの間にか全店11時オープンに繰り下げられていた。
超弱小従業員ゼロ自宅事務所超零細会社一人社長(私)にとっては遥か銀河系の彼方の、働き方改革とかいう謎のレボリューションか…。イーハトーブから現実に引き戻された。
気持ちを切り替え駅構内の立ち蕎麦屋で10時までの朝食セットに1分前滑り込み成功。たぬきそば&ミニ鮭ごはん(通常570円→朝食420円)に幸運に笑み。
宮古ではミッション前に中央通商店街の食品スーパー<玉木屋>で大量の「宮古ラーメンのスープ」とレトルトパウチのホルモン群を捕獲した。これで我が家(一人暮らしですが)の年末年始はイーハトーブである。
誰もいない。
夢の2階建て特急バス。1日1往復。
悲しいことに2020年1月上旬に閉店。
朝食セットはどこもお得。
こぼれる笑み。

