キムチ納豆。定番ではないもののあまり口にしない小鉢料理だが、これをメインとしているラーメン屋がある。<柳家>。私も何度となく通い啜った盛岡最強のラーメン店である。
ある初春の朝10時。三陸宮古からバスで鬼のように冷え込む盛岡に到着。翌日朝一番で大阪府内で仕事があり絶対に当日中に帰神せねばならぬが、飛行機は大雪吹雪のため条件付き運行。陸路も大幅にダイヤが乱れている。一か八かだが、まず空港へ向かわねばならない。
花巻空港行バス乗換が1時間。とにかく寒いので何か腹に入れて暖まろう。10時開店同時に駅ビル地下<柳家>へ。寒いのでキムチ納豆を久々に攻める所存だ。
メニューを念のため見る。今まで意識していなかったが、4種類もキムチ納豆系が存在。看板商品「キムチ納豆ラーメン」、その上の辛さ「キムチ納豆 辛」、さらにその上「レッドホットキムチ納豆」、そしてフェザン店限定で最も辛い「常夏のキムチ納豆ベイベー」。
かなりアナーキーな商品名だが、観測史上「最強寒波」が日本列島を蹂躙している2017年のド厳冬期に、盛岡で常夏なベイベーを啜るのも一興である。
心臓の弱い方はご遠慮下さいと但し書きまで書かれているが、私はその9日前の健康診断で異常なしのお墨付き。心電図の美しさと胃カメラの曇りや荒れひとつない映像は先生に褒めて頂いたほどである。
待つこと5分強。ブツが運ばれてきた。……。目の前に置かれただけで、キムチ納豆特有の発酵臭が湯気と鼻孔に飛び込む。見た目は深紅。眼にも鼻にも刺激が強すぎるビジュアルだ。
卓上のコショウや一味をかける勇気はなく、まずはレンゲでスープをひと啜り。……。キムチと納豆と味噌(たぶん)が絶妙にブレンド。たしかに辛いけど、旨い。体がじんわり暖まる。一番辛いメニューにして正解だ。
麺を啜る。モチモチ太麺。他のスープなら小麦感も味わえるだろうが、このスープでは分からない。野菜もたっぷりシャキシャキで、その上にもたっぷり辛味調味料が掛かっている。それを混ぜ合わせて一気呵成に啜る……つもりが、かき混ぜた瞬間一気に辛さが確変した。
一気に汗が噴き出してきた。鼻水まで溢れてきた。涙まで毀れてきたが、ここは勝負。気合で麺とスープを啜る。
麺と具は喰いつくしたが、スープを半分ほど残してしまった。悔しいのでライスと生卵を頼んでスープにぶち込んでやろうと考えたが、それは苦行以外何物でもない。なぜこんな寒い日におしぼりが冷たいのか不思議だったが、何となく理解できた。
外に出る。バスは5分後に到着。雪がシンシンと降り続いているが、常夏ベイベーのおかげか体はがポカポカ。寒さをあまり感じない。しかし、明日のトイレ(大)が少し心配だ。
ちなみにこの日の盛岡駅構内トイレのウォシュレット、1秒もシャワーが我慢できない痛いほどの冷たさだった。
一日も早い再興、神戸より祈念申し上げます。
2020年11月08日
2020年11月07日
第2557夜:柳の地底樹海【盛岡(岩手)】
大ヒレ。豚一頭につき1sしか取れない希少部位だそうである。`1sも‘ではなく`1sしか’である。
そんな高級そうな部位を白ワインに漬けこみ、メニューに「惜しげもなく」とあり山盛りトッピングされているが、実物は惜しむようにひっそりだった白味噌仕立ての逸品が「大ヒレ玉ねぎラーメン」である(と書かれている)。
盛岡どころか岩手ラーメン界を席巻制覇している<柳家>さん2015年夏時点のイチオシっぽいメニューである。
キムチ納豆ラーメンという神戸人の私だけでなく全国一般的に勘案してもキワモノ的存在が看板商品だが、その系列店や支店、暖簾分け店の増殖は留まること知らず。我が宮古にも魚菜市場近くに<清兵衛>がある。
基本のキムチ納豆以外に店舗限定メニューも豊富。しかもかなりアナーキーである。まさにラーメン界の抜け出せない樹海のごとき魔力を秘めている。「それ、本当に美味しいの?」と疑問を挟みたくなるが、試さずにはいられない惹きの強さを放っている。
聖地(本店)に潜入したことはないが、盛岡駅地下フェザン店は朝10時オープン(2015年当時)なのでバスの待ち時間に重宝している。メニュー表にある定番(定番にしてはかなりポップなラインナップだが)以外に期間限定やコラボ系も数多し。
私も神戸市民なのに頻度が高い時は隔週の割合でフェザン店で啜っているが、そのたびに新作に出会っているような気がする。まさに「柳の樹海」といえる。
キムチ納豆を最初啜った時は匂いから絶句。ところが、かなり印象に残る。時が立つほど気になり、無性に啜りたくなる魔性ぶりである。
これにレアチーズを入れた爆弾メニューにはさすがに轟沈したが、個性的な担々麺「こまち」、甘目のスープに背脂が効いた「はやぶさ」という東北新幹線便乗メニューには刮目させられる。
前述の大ヒレ玉ねぎラーメンもポタージュのごときトロミで、和風でありながら中華でどことなく洋風の下地も。メニューをよく読むと。我がトラウマのレアチーズを隠し味にしているとのこと。レアチーズはラーメンにとって隠し味であり、メインを張るものでもないと強く確信している。
驚愕のラーメンコミック『ラーメン大好き小泉さん』でさりげなく(主人公の一言セリフだけで)この店の「レアチーズ」に触れている一コマがある(店舗名は出ていないが、確実に<柳家>さんと推測できる。私もその影響で啜ってみたのだが(2夜前にご紹介)……。
この店に臨む際、ある程度今日はこれで勝負しようと決めてから暖簾を潜る。しかし、張り出された限定メニューを見ると、我が心のラーメンコンパスが狂う。矢印が定まらない。心かき乱される。まさに盛岡駅の地下に妖しく広がる「柳の生い茂る樹海」である。
<柳家>再起を祈念した4夜連続の3夜目。
そんな高級そうな部位を白ワインに漬けこみ、メニューに「惜しげもなく」とあり山盛りトッピングされているが、実物は惜しむようにひっそりだった白味噌仕立ての逸品が「大ヒレ玉ねぎラーメン」である(と書かれている)。
盛岡どころか岩手ラーメン界を席巻制覇している<柳家>さん2015年夏時点のイチオシっぽいメニューである。
キムチ納豆ラーメンという神戸人の私だけでなく全国一般的に勘案してもキワモノ的存在が看板商品だが、その系列店や支店、暖簾分け店の増殖は留まること知らず。我が宮古にも魚菜市場近くに<清兵衛>がある。
基本のキムチ納豆以外に店舗限定メニューも豊富。しかもかなりアナーキーである。まさにラーメン界の抜け出せない樹海のごとき魔力を秘めている。「それ、本当に美味しいの?」と疑問を挟みたくなるが、試さずにはいられない惹きの強さを放っている。
聖地(本店)に潜入したことはないが、盛岡駅地下フェザン店は朝10時オープン(2015年当時)なのでバスの待ち時間に重宝している。メニュー表にある定番(定番にしてはかなりポップなラインナップだが)以外に期間限定やコラボ系も数多し。
私も神戸市民なのに頻度が高い時は隔週の割合でフェザン店で啜っているが、そのたびに新作に出会っているような気がする。まさに「柳の樹海」といえる。
キムチ納豆を最初啜った時は匂いから絶句。ところが、かなり印象に残る。時が立つほど気になり、無性に啜りたくなる魔性ぶりである。
これにレアチーズを入れた爆弾メニューにはさすがに轟沈したが、個性的な担々麺「こまち」、甘目のスープに背脂が効いた「はやぶさ」という東北新幹線便乗メニューには刮目させられる。
前述の大ヒレ玉ねぎラーメンもポタージュのごときトロミで、和風でありながら中華でどことなく洋風の下地も。メニューをよく読むと。我がトラウマのレアチーズを隠し味にしているとのこと。レアチーズはラーメンにとって隠し味であり、メインを張るものでもないと強く確信している。
驚愕のラーメンコミック『ラーメン大好き小泉さん』でさりげなく(主人公の一言セリフだけで)この店の「レアチーズ」に触れている一コマがある(店舗名は出ていないが、確実に<柳家>さんと推測できる。私もその影響で啜ってみたのだが(2夜前にご紹介)……。
この店に臨む際、ある程度今日はこれで勝負しようと決めてから暖簾を潜る。しかし、張り出された限定メニューを見ると、我が心のラーメンコンパスが狂う。矢印が定まらない。心かき乱される。まさに盛岡駅の地下に妖しく広がる「柳の生い茂る樹海」である。
<柳家>再起を祈念した4夜連続の3夜目。
2020年11月06日
第2556夜:レアチーズ爆弾【盛岡(岩手)】(後編)
ブツが運ばれてきた。キムチ納豆ラーメンにビジュアルはよく似ているものの、定番は生卵だがレアチーズ入りは半熟卵。鉢に鼻を近づけると、チーズの香りがほのかに漂ってくる。
スープを一啜り。キムチと納豆のツートップの勢いにチーズの濃厚な酸味は隠れがちであるものの、チーズ自体が奥ゆかしい隠し味に。独特のコンチェルトを奏でている。
たっぷりのモヤシをワシワシ食べ、麺をグイグイ啜る。汗がほんのりにじみ出る。半年に1度は啜りたくなる魔性だ。
スープも麺も残り3分の1に。いよいよクライマックスである。傷つけず慎重に泳がせていた半熟卵を潰し、麺と絡めて啜る。スープにも卵のトロミとコクが加わり、確変必至である。
私は生卵系がトッピングされる料理の場合、最初からかき混ぜない。半分もしくは残り3分の1を切ったところで一気に黄身を潰して絡め取る。味の変化を試したいからだ。
箸で真っ二つに。黄身がとろーり出てくると待ち構えていたが、いっこうに出てこない。さらに分割する。黄身が見当たらない。うん?白身だけなのか。
クエスチョンマークが目の前で飛び出した頃、ガツンとチーズの香りが飛び込んできた。うぉ!これは半熟卵ではなく、チーズだったのか。プルプルのトロトロ。こんなチーズは始めて。レアチーズとはこのことか。
レアチーズに麺を絡めながら麺を啜る。……。あれ。なんか変だ。意識が真っ白になり、思考能力が停止状態に。レンゲでレアチーズ部分とスープを一緒に啜る。……。思わず叫びそうになった。甘いのだ。
私は甘いものが基本的に苦手なので(2015年当時。今は好き)、普段甘いものを口にすることがないので分からなかった。レアチーズとは、ケーキのことだったのか。
私の箸が止まった。視線が宙をさまよった。キムチは定番かもしれぬが、納豆はラーメンの相手として異質。この店のキムチ納豆ラーメンはそんなタブーに挑み、見事成功している。しかし、キムチ納豆味のラーメンスープにチーズケーキがトッピングされているとは……。
昔(2010年頃)長崎で爆弾ちゃんぽんなる逸品を啜った。この爆弾はラードのようなもので、崩すと一気にコクが増す。ところがこれは完全にレアチーズ爆弾である。カウンターに腰掛けたまま私は爆死。我が保守的かつ狭い了見をメガトン級の破壊力で粉砕した。
ショックのまま少し呆けていると、バスの時刻が近づいてきた。お会計の前に、もう一度メニューを見た。レアチーズキムチ納豆の一行説明に目を剥いた。
「テ●ビ朝日系‘ナニコレ珍百景’登録商品」
まさにその通り。私は、朦朧としつつも激しく首肯した。
<柳家>再起を祈念し、4夜連続アップ中(2夜目)。
スープを一啜り。キムチと納豆のツートップの勢いにチーズの濃厚な酸味は隠れがちであるものの、チーズ自体が奥ゆかしい隠し味に。独特のコンチェルトを奏でている。
たっぷりのモヤシをワシワシ食べ、麺をグイグイ啜る。汗がほんのりにじみ出る。半年に1度は啜りたくなる魔性だ。
スープも麺も残り3分の1に。いよいよクライマックスである。傷つけず慎重に泳がせていた半熟卵を潰し、麺と絡めて啜る。スープにも卵のトロミとコクが加わり、確変必至である。
私は生卵系がトッピングされる料理の場合、最初からかき混ぜない。半分もしくは残り3分の1を切ったところで一気に黄身を潰して絡め取る。味の変化を試したいからだ。
箸で真っ二つに。黄身がとろーり出てくると待ち構えていたが、いっこうに出てこない。さらに分割する。黄身が見当たらない。うん?白身だけなのか。
クエスチョンマークが目の前で飛び出した頃、ガツンとチーズの香りが飛び込んできた。うぉ!これは半熟卵ではなく、チーズだったのか。プルプルのトロトロ。こんなチーズは始めて。レアチーズとはこのことか。
レアチーズに麺を絡めながら麺を啜る。……。あれ。なんか変だ。意識が真っ白になり、思考能力が停止状態に。レンゲでレアチーズ部分とスープを一緒に啜る。……。思わず叫びそうになった。甘いのだ。
私は甘いものが基本的に苦手なので(2015年当時。今は好き)、普段甘いものを口にすることがないので分からなかった。レアチーズとは、ケーキのことだったのか。
私の箸が止まった。視線が宙をさまよった。キムチは定番かもしれぬが、納豆はラーメンの相手として異質。この店のキムチ納豆ラーメンはそんなタブーに挑み、見事成功している。しかし、キムチ納豆味のラーメンスープにチーズケーキがトッピングされているとは……。
昔(2010年頃)長崎で爆弾ちゃんぽんなる逸品を啜った。この爆弾はラードのようなもので、崩すと一気にコクが増す。ところがこれは完全にレアチーズ爆弾である。カウンターに腰掛けたまま私は爆死。我が保守的かつ狭い了見をメガトン級の破壊力で粉砕した。
ショックのまま少し呆けていると、バスの時刻が近づいてきた。お会計の前に、もう一度メニューを見た。レアチーズキムチ納豆の一行説明に目を剥いた。
「テ●ビ朝日系‘ナニコレ珍百景’登録商品」
まさにその通り。私は、朦朧としつつも激しく首肯した。
<柳家>再起を祈念し、4夜連続アップ中(2夜目)。