松茸と鱧。秋の味覚の最強コンビである。味も、希少性も、そして値段も。
タフなミッションを終えた神戸三宮の初秋の夜。すっかりお気に入りの店になった<亀遊>で自分へのご褒美として松茸天ぷら、松茸と鱧の土瓶蒸しなどを思う存分満喫した。その際、1か月後であればこの秋の2大スターがまだ競演可能とマスターに聞かされた。
それから約1か月が経過した深秋の夜。市役所を退職されて新天地に羽ばたかれる長年お世話になった御仁の送別会を<亀遊>で決行。マスターに松茸と鱧の料理をお願いしていた。
いつもはカウンターだが、この夜は1席しかないテーブル席。カセットコンロが鎮座している。私は生で喉を開き、ハイボールをチェイサー代わりに地酒をド鯨飲。銘柄はマスターにお任せ。自家製からすみが酒を無限ループさせる。
先付三寸を楽しんだ後は鮮度無双の刺身。鰹、鯛、烏賊、そして鱧。脂の乗った刺身が食べられない私には最高の盛合せである。
続いて、鱧の天ぷら。淡泊な身を油が抱きしめている。ポクポクとじんわりした旨味が染み込んでくる。地酒とチェイサー(ハイボール)のピッチが上がる。
卓上のカセットコンロにたっぷりと出汁が張られた土鍋がセットされた。たっぷりの野菜が平皿に。そして、2大スターが腕を組みながら降臨。平皿に鱧の華が開いている。松茸もたっぷりと2本分はありそうだ。
さっと火を通すだけでも、じっくり煮込んでも、どちらも旨いという。まずは鱧を泳がせる。ピクっと震え、肌が桃色に硬直し、キュっと丸みを帯びる。すかさずフーフーしつつ口へ…。清楚と官能、無垢と経験、正座と寝技。家庭では絶対に味わえない妙技に打ち震える。
そして、看板スターの松茸…。秋が破裂した。鼻から香りが抜ける。噛みしめるほどに味の濃さが増す。土瓶蒸しは出汁を味わう風流だが、鍋は具が主役。出汁は脇役だが、旨味を吸い込んで一世一代の名演を決めてくる。
鱧と松茸を同時に口へ…。意識が銀河系の彼方までぶっ飛んだ。芳醇な無だけが残る。出汁に松茸と鱧の旨味が憑依しはじめ、ただでさえ極上の出汁が確変していく。一緒に煮込んだ野菜もグッと旨くなる。
〆はそうめんを投入。いわゆる、宇宙最強の「にゅうめん」が夜の三宮に舞い降りた。私は鍋の〆は圧倒的に麺。うどん、ちゃんぽん麺が定番か。しかし、にゅうめん(そうめん)は盲点だった。一部の隙もない圧巻。昔懐かしい「究極かつ至高のメニュー」である。
先付三寸。
旬の刺身。
松茸と鱧の鍋。
鱧の天麩羅。
自家製からすみ。
鍋のシメはにゅうめん。
(付記)
その後はスナック、バーとハシゴ。翌日二日酔いで轟沈。