ヒラクビルへ。鰻の後の、ひらく本屋での今年最後の1冊購入。レジで「グラテマラ」をホットで注文し、出来上がる間に隣の本屋へ。せっかくなので読んだことのない作家の本を選びたい。
2回目の椎名先生を除き、1回目の町田先生(コンビニ兄弟)、3回目の深緑先生(ベルリンは晴れているか)、ともに初読だった女性作家。どちらも大当たり。素晴らしい読書体験だった。最後も未読の女性作家の本を読んでみたい。
鰻の街・多治見での鰻昼メシの後に掛け値なしに最強最高に相応しいタイトルの1冊を見つけ出した。『うなぎ女子』(加藤元 光文社文庫)。男性のような名前だが、女性作家だった。
タイトルからは、全く内容の想像がつかぬ。流行りのグルメ系小説か。
裏表紙のあらすじを目にする。ある鰻屋を舞台にした、1人の男性と5人の女性が織りなす連作短編集らしい。レジで購入。喫茶コーナーに戻ると、ちょうど珈琲ができていた。
鰻の後のホット珈琲は格別。香り高き逸品に舌と鼻孔を震わせながら、全5作の第1話を読む。タイトルは「肝焼き」。
着物リサイクルショップを創業した中年女性と、そのヒモである甲斐性なきダメ中年(売れない役者)が登場。女性目線で描かれ、ヒモと別れられないグズグズした生活に見切りを付けるべく、最後に二人で訪れた鰻屋。鰻と酒をヤリつつ交わされる会話と回想。
それほど鰻は重要なアイテムでもない。タイトルの「肝焼き」の意味も最初分からぬが、最後の最後で、はっきりと描かれないが「肝焼き」というタイトルの妙味が味わえる気がした。
実在の老舗鰻屋のオヤジが帯に陽気な推薦甚句を寄せている。「うな重片手に、この1冊!」。
物理的にも小説の毛色からしても、このキャッチにはかなり無理がある。単なる鰻好きの女子が鰻屋で喰いまくる話ではない。しかし、ある意味で斬新極まりないキャッチと言える。
それから約20日後。この作品に相応しい舞台で続きを読むことにした。鰻屋である。ただし、多治見ではなく大宮。それも私が愛してやまない鰻居酒屋(うな鐵)で。
うな重片手にこの本を読むなどはとても試せないし、試そうとも思わない。しかし、骨せんべいや鰻串焼を肴にビールや日本酒ならイケそうだ。
第1話で登場したヒモのクズを巡る5人の女性の物語。そして、第3話あたりからクズの印象が変わる。最終話はなかなかに震えた。
「うなぎは胃袋を満たすのではなく、心を満たすために食べる、大人の心の隙間をいっぱいにしてくれるご馳走」(原文をアヅマ略)。
至言である。〔終〕
