<元祖ニュータンタンメン本舗>。この店のタンタンメンは川崎市民のソウルフードであることを何かで知っていた。西日本にはないはずで、私は未食だった。ただしカップ麺だか袋麺だかで啜ったことはある。味を全く覚えていない。印象ゼロなのでイマイチだったのだろう。
蒲田の居酒屋を堪能した独りの夜。蒲田もとんでもなくラーメン屋が多い。神奈川に近いためか、家系がハバを利かせている。どうせなら、啜ったことのない分野を攻めたい。呑んだ後かつ汁モノ好き故まぜ麺系はスルー。
1軒目の近くに冒頭の<元祖ニュータンタンメン本舗>が煌めいていた。ほぼ満席だが、カウンターが1席空いていた。川崎が本場で、蒲田は隣接。普段はタンタンメンにあまり興味惹かれないが、郷に入らばなんとやら。いざ鎌倉、でなく川崎である。
嬉しいことに、券売機でなかった。初めての店で券売機は戸惑ってしまう。メニューを観ながら戦略を練る。ツマミ系もあるが、とりあえずハイボールを注文する。
初めての店では王道のノーマルが正しい。「タンタンメン」の「中辛」がど真ん中らしい。ど真ん中を突き進む。
店内は若い女性が多い。私の両隣は独り客の男性と若い女性。ラーメン鉢が異様に大きい。
ひっきりなしにお客がご来店。辛さ、トッピングなど好みにカスタマイズする声が聞こえてくる。気になったのが「ダブル」。「たまごダブル」「ひき肉ダブル」などが耳に沁みつく。
再度メニューを観た。玉子、ひき肉、にんにくをダブルにするようだ。3つとものダブルが「オール」でプラス440円。注文済だったが、カウンター越しに「オールプラスで」と伝えた。麺職人、快諾。間にあったようである。
ハイボールをヤリながら店内をキョロキョロ。創業60年になるという。「感謝・感激・還暦」というキャッチに微笑させられる。何ともいえないにんにくの刺激的な香りが店内に漂う。食欲が喚起される。
ブツ降臨。圧巻のビジュアルである。<蒙古タンメン中本>の「北極」ほどではないが、かなり怯む赤さ。玉子の黄色も眩しい。独特の美学が感じられる。
胡椒は必要なさそうだ。レンゲでまずはスープ…。まさに「中辛」。昔は辛いもの好きだったが、初老になると辛さより旨さ。むしろ甘党になりつつある。
ニンニクのパンチが凄い。玉子がマイルドである。ひき肉もスープが染み込む。麺は太めのストレート。ツルツルモチモチで絶妙にスープに絡む。凄まじく、旨い。
麺を啜り切った。ひき肉、にんにく、玉子がたっぷりのスープが半分以上残っている。
レンゲで掬い、口に運ぶ…。目を細める旨さ。飲めば飲むほどに旨さの角度が上がる。止められない。止まらない。止めたくない。気づけば青磁の巨大鉢から麺1本、汁1滴、具1片残らず滅失していた。
大満足で店を出る。満腹である。ブラブラと西口の定宿へ向かう。途中、焼肉屋の前を通る。「お一人様大歓迎」とある。店内を除く。カウンターが1席空いている。腹ははちきれそうだが、どうしよう…。
風格の店構え。
とりハイ(とりあえずハイボール)。
力強い営業時間。60周年おめでとうございます。
オールダブル。