大スター。人間界には数あれど、秋の味覚の大スターと言えば松茸である。他国は知らぬ。しかし、私のような下々には大スターと邂逅する機会などめったに訪れない。
10月中旬というのに蒸し暑い北九州小倉の夜。午後イチから打合せ、オンライン会議、打合せ、会議、会議の5連発を終えた私は旦過市場のⅯコト氏と古船場のビル奥の名店へ。
冷えた瓶ビールで喉を潤していると、程なくレギュラーメンバーも合流。再度乾杯する。
お通しのヅケがとんでもなく旨い。刺身などのヘタっぽい部位の集合体だが、最高のお宝に昇華。早めに焼酎に切り替えた。麦焼酎(二階堂)がたっぷりの氷と2gの水を従えてドカンと1本降臨。未開封のクチアケである。
巨大皿の刺身盛合せは圧巻。大とろ、烏賊、帆立、鯨ベーコン、蛸…。宝石箱である。ポン酢と刺身醤油を使い分けながら思う存分満喫する。
いつもの4人で話題尽きることなく森羅万象談笑していると、1品目の大スターがたっぷりと姿を現した。顔出しNGな、この店の看板スターであり、天下無双のスーパースター。代替品あれど、ホンモノには叶わない。
口に運ぶ…。笑みが零れる。私一人で8切以上平らげる。同行氏に詫びたい気持ちも霧消。
そして、もう一皿運ばれてきた。日本の秋の大スター、松茸である。九州らしく、スダチでなくカボスが添えられている。岩塩を従えて。卓上に歓声が上がる。
2週間前、旦過市場のⅯコト氏から極太の松茸を2本も頂いた。料理センスのない私だが、スダチと三つ葉と鶏ささみと黒毛和牛薄切りを帰路のスーパーで買って、自宅で焼松茸、なんちゃって土瓶蒸し、松茸と黒毛和牛のすき焼きを出雲の地酒で思う存分満喫した。
その余韻も冷めやらぬ2週間後、再び松茸と相まみえた。なんという、芳醇の秋なのか。
箸で一切れ掴む。離れていても芳香が鼻孔に飛び込んでくる。カボスを少し垂らし、岩塩を少しだけつけて口に運ぶ…。口の中が紅葉した。秋があふれ出した。すかさず濃い目の麦焼酎水割りで追いかける。旨さが膨らむ。
1本丸々割いたようで、たっぷりとある。2大スターの競演に拍手喝采。贅沢極まりない希少品を肴に鯨飲。野趣と風流、剛毅と慎深、豪快と繊細。後1か月で秋が終わる。来年がすでに待ち遠しい。
最後の最後に鶏の唐揚がひょっこり登場。大スターでないかもしれぬが、普段から寄り添っていただける「手の届くスター」「会えるアイドル」。安定と安堵が体内に入ってきた。
眩しい海の宝石箱。
秋の大スター。
手に届く庶民の味方。