A5。その日暮らしの自転車操業貧乏ヒマすぎの私にとっては、紙のサイズを意味する。
残暑厳しく夜も蒸し暑い平日の20時過ぎ。旦過市場とその応援団チーム(私も応援団)8人で小倉紺屋町の至宝<ぷちれすとらんT&H>へ。
私はこの店が小倉、北九州、西日本、そして日本屈指に好きである。料理はすべてマスターにお任せ。常に期待の遥か上を越えてくる。ビール、ワイン、焼酎…。実質的に時間無制限の呑み放題で毎回1人6,000円。
8人も座れば満席ゆえ予約は必須。イチゲンでたどり着くことは不可能だろう。数回足を運んでいる私でも、いまだに場所は少しあやふや。実力があれば立地は関係ないという好例である。
平均して月2回ペースで旦過入りしている。ミッション終了後は私を含め4人のレギュラーメンバーで懇親会。この4人をベースに、日によって減ることはないが増えることはある。
この夜は4人で予約していたそうだが、急遽倍の人数。それでもマスターは対応して下さる。毎回呑み会の幹事を務めて下さるⅯコト氏に大感謝である。
ドライ、ラガー、一番搾り、エビス、黒ラベル、プレモル…。主要メーカーの主力商品がほぼ揃っている。これを小瓶でガンガン。その後は各人の好みで焼酎やワインなどに移行する。
刺身の盛り合わせが圧巻過ぎる。映えるなんてもんじゃない。鮮度最高で彩りも眼福。明太子で和えられた蛸、カジキ、鮪…。ビールが喉をマッハで通り抜けていく。
魚系はこれで終わりではなかった。いや、肉系へのプレリュードか。大皿にたっぷりと並べられた黒紅の霜降り。「鯨の尾の身」だった。私の正面は元魚屋の若大将。彼曰く、100g4000円は下らない宝石クラスの逸品という。
生姜醤油で頂く…。上品と野趣が抱き合っている。凍らせて半解凍させた「ルイベ」状態で提供された。臭みゼロ。哺乳類の王に相応しい貫禄の逸品である。
生物の進化をドラマチックに体感した後、今度は完全に肉系。ローストビーフである。低温調理された牛肉の旨味。あっさりだが深い。
ポン酢しょうゆの大根おろしの他に、塩ウニが添えられていた。美しい深紅の肉片に塩ウニをチョン付けし、口に運ぶ…。海を大地が包み込む天地逆転。生命の誕生である。
鯨飲しつつ談笑していると、マスターがはにかんだ笑顔で大皿を手にテーブルへ。「A5ランクのシャトーブリアン」。
紙は数字が小さいほど大きく値段も高いが、肉は数字が大きいほど高騰する。「A5」「シャトーブリアン」。普段目にも口にもできない天の調べ。美しすぎる断面。口に運ぶ…。舌が、体が、脳が蕩けた。銀河の誕生である。
ビル2階の奥の奥の楽園。
輝く盛合せ。
グラム4000円を下らないらしい鯨の尾の身。
ローストビーフ。
A5シャトーブリアン。