腕時計のバンド。大学時代はTウン&カントリー、働き始めて20年間は3本のOメガシーマスター、40代半ばからSイコーダイバーウォッチが我が左手首の恋人である。
50歳になってから程なくして、絶賛恋愛中のSイコーの腕時計バンドに亀裂が走った。倦怠期か。別れの危機である。何とか関係を修復せねば。鬼滅でなく亀裂は広がるばかり。
これまで動かなくなった腕時計を修理に出したり電池交換は経験がある。元時計・宝飾店であり、現在手広く様々な事業を手掛けている北九州若松の盟友・U島氏に修理を頼んでいた。しかし2024年7月現在、若松へ足を運ぶ機会はない。
そんな酷暑の午後、小倉馬借の定宿をチェックアウト。翌週から出張が続く。一刻も早く亀裂を修復したいが、どこに行けば良いか分からない。
小倉駅へ向かう途上の魚町銀天街には超高級店(K林時計店)が屹立する。魚町の顔的専門店である。しかし他店の腕時計を、しかもバンド修理だけで店内へ飛び込む勇気が私にない。
解決策を思案しながら銀天街を小倉駅方面に歩いていると「トケイ・貴金属」という文字が視界に。激シブの老舗宝飾店である。「トケイ電池交換」の文字も強調されている。店頭にはびっしりと「腕時計バンド」が展示されている。「SALE」というアルファベットと共に。
藁にも縋る思いで飛びこんだ。職人気質な店主と邂逅。窮状を訴える。店主は嫌な顔をせず対応して下さる。手渡した腕時計バンドの亀裂状態をチェック。何故かドキドキする。
医者と同じである。すぐに治療してくれれば安堵するが、手に負えないからと他の医者や病院に行けと言われたら絶望する。
店頭には私のダイバーウォッチ用のゴムバンドはない。すると、どこかから箱が出てきた。その中には、黒いゴムのリストバンドが様々な種類収められていた。
当然、同じメーカーの純正品でない。しかし、一刻も早く関係を修復したい。タフな夏を伴侶と共に乗り切りたい。
似たデザインのバンドをいくつも幅をチェックしている。固唾を呑んで私は見守る。やがて、1本のバンドを紹介された。お見合いの気分とはこのことか。
その彼女(腕時計バンド)に乗り換えることに。するとプロはものの3分程度でバンドを取り換えた。セール中ということでかなり料金も割り引いてくれた。そもそもの定価がいくらか分からないが、嬉しくて実にありがたい。心強かった。
政令市・北九州の最強商店街、魚町商店街は店主が講師として技術やノウハウをレクチャーする「まちゼミ」を展開し続けている。大都市の最強商店街で「まちゼミ」に取り組んでいるのは、私の乏しい知識では小倉魚町以外存在しない。
眼前で繰り広げられた「リアルまちゼミ」。巨大資本のチェーン店や大規模飲食店が林立する昨今、老舗のプロの技があまりにも眩しかった。
大助かり。
乗換。