平成中村座。N村勘九郎氏率いる一門が紫川沿いの広場に歌舞伎小屋を建て、約1か月間興行する小倉の晩秋の風物詩である。
いつから続いているのか分からないが、その存在は知っていた。我が小倉の2大定宿の一角の川向う。ただ、その小屋の外観は見たことなかった。チケットはプレミアで、そこそこの名士でも購入困難という。
一座が魚町商店街を「練り歩いた」4日後。翌日朝から門司港ミッション故、前日の小倉入り。この日は何かの全国大会があるらしく、ホテルが半年前から取れなかった。3連休の初日でもあった。かろうじて1万円以下のホテルを見つけて即クリック。
その夜は何の予定もない。前日に栃木県から夜中に帰宅し、ただ疲れが抜けないだけ。翌日、門司港ミッション終了次第大急ぎで電車と新幹線をいろいろ乗り継いで再び栃木県へ戻らねばならない。あまり深酒もできない。
ちなみに前日、栃木県からいろいろ乗り継いでいったん神戸に戻る際、寝過ごして姫路まで行ってしまった。姫路で良かった。広島とからなら目も当てられぬ。
独り吞みもつまらん。2023年夏から旦過チームに加わったT木マネージャーをお誘い。女史は飲みに行くまで、平成中村座場外の無料コーナーを見ないかと誘ってくれた。
小倉は凄まじい人。呑み屋の前はどこも超満員。魚町2番街を抜け、イルミネーションに彩られた紫川沿いへ。南下すると、すぐに小屋が視界に入った。
思いっきり立派な建造物だった。掘っ建て小屋を連想していたが、度肝抜かれた。これを1か月でつぶすのか。何故かいろいろ話題の大阪万博2025を連想してしまう。
主役は『どうする家康』でシブい演技を見せつけるご兄弟。茶屋四郎次郎氏と石田三成氏。すでに夜の部が始まっているらしく、小さな音だが太鼓らしき音色が漏れてくる。
浅草の仲見世の超ミニチュア版のような通りが形成されていた。気分だけでも平成中村座。入口がいきなりラーメンなのが小倉らしい。和菓子など和テイストの商品が並んでいる。
興味深くキョロキョロ歩いていると、店舗側から「アァッ、アヅマさん!」と声を掛けられた。若松を引っ張ってきたカリスマ・M田氏だった。
若松と御縁を頂いたのは2010年から。その初年度、何度か酒席をご一緒した。圧倒的なパワフル、マシンガントークに惚れ惚れした。以降、M田氏は小倉を拠点に様々な事業を展開(たぶん)。日本茶の持つ可能性を無限に広げておられる。
めっきりお会いする機会は激減。十年以上ぶりか。わずかな時間だが若松談議に華が咲く。
気になるメニューを見つけた。「茶論ジンジャーエール」。キャッチコピーは「竜王が選んだドリンク」。さりげなく将棋の駒のイラストも。
注文してみる。たしか竜王は、その10日ほど前に対局が行われた北九州市内において、黄金市場商店街<レモニー>のレモネードを飲まれたのでは…。
まあ、もう1杯飲まれたのかもしれない。どこにもF井という固有名詞はないので、別の竜王かもしれない。
ブツを受け取る。カップの下部がジンジャーエール、上部が抹茶。コントラストが美しい。
さっそくストローに口を付ける…。未体験の味だが、すっきりと旨い。和と洋の抱擁。炭酸が心地よい。
微笑という名の見栄を切っていると、アタマの中の大向こうから「ヨォ〜ッ!アヅマ屋!」の掛け声が勝手に響いてきた。
芝居小屋。
異界へのゲート。
風情あり。
お久しぶりです。
頼まずにいられない。
すっきりしたオトナのドリンク。
小屋の対岸に屹立する愛してやまない我が定宿。