佐野松桜高校。いろんな高校が合併し、情報制御科、商業科、家政科、介護福祉科からなる栃木県立高校である。松桜高校と佐野市役所が何かの協定を締結している。
その一環として商業科2年生約80名を対象に、高校生の頃から創業を意識してもらい、成人後も生涯にかけて佐野に定住してもらう壮大なプロジェクトが2023年度からスタート。その一発目として、50分(1コマ)限定で創業に関連する講義を実施するという。
春先に聞いた時「ふ〜ん、すごいですね」と適当な相槌を打っていた。自分に関係あると思わないから。ところが暑くなりだした頃、その噺をアヅマがやれという指令が市から飛来。
職業上、創業・起業・開業したいオトナたちを対象にそのような噺をすることは年に幾度もある。オトナも幅広く、20代から60代まで。男女比率は女性が高め。
しかし、高校生である。10代である。19歳でなく、17歳である。誰もいない海で二人の愛を確かめている年齢である。進学か、就職かで揺れ動く青春時代。そんな17歳の高校2年生に、就職でも進学でもない第3の選択肢「創業」をぶつける。
目を剥いた。安受けあいしたものの、何を話せばよいのか全くイメージが湧かない。これまで私が作り上げてきたブツが使えそうにない。よって数十枚の完全新作を書き下ろした。ただ、この創業噺がウケる未来が想像できない。心を響かせる自信も皆無。
もし高校生が卒業後すぐに創業するなら、よほどでない限り全力で辞めさせる。進学、就職、結婚、出産など様々な転機が長い人生で押し寄せてくる。その時に考えればよい。ただし、その時に備えた心構えを高校時代からインプットさせておくことも狙いのようだ。
当日がきた。午前中は普通に佐野ミッション。その前夜は夜中2時まで12年前まで高校生だった栃木商工会議所の若手と鯨飲。我が四半世紀のシゴト人生でも極めて異質。とにかく、腹が減っては戦は何とやら。酒が残っており空腹感は激しくなかったが、気合を注入せねば。
佐野市役所から激近の<Y華>へ。この前は数え切れぬほど通ったが、入るタイミングがなかった。「下野国らーめんの郷 佐野らーめん会」と白抜き赤ノボリが鮮やかで力強い。
カウンター席捕獲成功。迷わず「ちゃーしゅーめん」。ここからが迷った。プラス100円で大盛か、プラス350円で半チャーハンか…。
ここは佐野である。ラーメンが有名すぎるが、佐野の「ジャンボ」餃子も私にはラーメンに比する大名跡。何故か佐野のラーメン店はモツ煮込を置いている店が多いものの、ここは「手作りぎょうざ」400円で勝負である。
ぼんやりスマホをいじっていると、ちゃーしゅーめん降臨。思わず口笛を吹きたくなるタタズマイ。清楚と淫靡が同居している。ビジュアルがいかにも「佐野」。大きくてかまぼこ型の焼豚、メンマ、透き通ったスープ、そして平打ち麺。隙なき完璧な様式美がそこにある。
餃子は5ヶ。焼き色もセクシー。大きいが、巨大でもない。程よい大きさだ。最初の2ヶは醤油とラー油だけで、残り3ヶは酢を足して。餃子の付け合わせの豆もやしが妙に旨い。
啜る。齧る。吸う。下野の大地に根を張り、創業という危険な香り漂う新世界をいざなう、というより陥れるために、まずは80名の高校生エネルギーと視線を受け止めねばならない。
チャーシューメンと餃子という佐野が誇る2大スターを我が体内に取り入れた。準備万端。あとはスベっても動じない鋼のメンタルを体内に取り入れるだけ。その方法は高校生に創業噺をする以上によく分からないけれど。
腹が減っては何とやら。
佐野が誇る最強コンビ。
2年商業組アヅパチ先生。
(付記)
後日、高校生からの感想文を頂いた。これほど真剣に聞いていてくれたのか。「初恋はいつですか?」「牛丼屋(Sき家)で好きなメニューは何ですか?ボクはチーズ牛丼です」などの質問も寄せられたけれど。