<満龍>。札幌の町有名町中華チェーンである。町中華という概念より斜め上を走っている。昭和46年創業とあるから、私が生まれる前から札幌市民に愛されている。
私が札幌に住んでいた四半世紀前にも屹立していたはずだが、入ったことがなかった。恥ずかしながら、その存在をほとんど認知していなかった。
四半世紀前、私はラーメンといえば札幌では<山岡家>以外で啜った記憶がない。当然他の店でも啜っているが、当時の私の舌で山岡家以外に旨いと思えた店は、寮生がバイトしていた<五丈原>ぐらいか。
町中華的な存在なら、北18条〜北24条あたりで済ませてきた。ススキノで、私はラーメン横丁で啜ったどころか、横丁を通ったこともない。観光客しかいかない=高いという固定概念に囚われていた。それから幾年月。札幌のラーメンはとんでもなく進化していた。
北海道ラーメン道場、札幌らーめん共和国(崩壊)…。ラーメン横丁は相変わらず未踏だが、山岡家以外のラーメン店もかなり攻めてきた。旨い。
秋の涼しさが全開なススキノの夜。塩ホルモン店と回転すし店を独りでハシゴして超絶満腹に。ススキノの定宿まであと数十秒というあたりで信号待ち。その場所が<満龍>総本店。店頭にほぼすべてのメニューが掲示されている。
時間潰しに何気なく目をやった。ラーメン、一品料理、飯類…。人気ナンバーワンからスリーまでが味噌ラーメン、焼飯、あんかけ焼そば。カレーライスに町中華の香りがする。
いくつかの品に「普通」「ミニ」そして「ジャンボ」と書かれている。ジャンボ?一品料理はすべて「小皿」「中皿」のみ。独欲の世界感だ。気になりつつ信号が青に変わり、店の前を立ち去った。そして翌日の昼。ほぼ開店と同時に飛び込む。すでに2名の常連風が。
メニューを観る。「大盛」でなく「ジャンボ」である。麺類は別途大盛り(プラス120円)とある。ジャンボは「あんかけ焼きそば」「ソース焼そば」「炒飯」「ファイヤー炒飯」「男の焼き飯」「麻婆豆腐丼」「中華丼」の7種。私はジャンボの中から選択することに。
最近、単品メニューの大盛に惹かれなくなってきた。加齢もあるが、味に飽きてしまう。人気ナンバーツーの炒飯にしようと思ったが、途中で味変が必要だ。
私が選んだのは「男の焼き飯」。「男の」に惹かれた。オトコたるものの、老いても枯れても大盛で攻めねばならない。普通が950円。ジャンボが1100円。
このメニューだけ「ミニ」はなかった。「男の」という形容詞に「ミニ」は不要なのだろう。ザンギ(北海道唐揚)も1ヶから注文できるらしく、1ヶ追加。
厨房で「男の焼き飯ジャンボ入りま〜す」と店員さんの声が聞こえた時、何故か恥ずかしさを感じた。
店内はあっという間に満席に。サラリーマンもいるが、作業着が多い。作業着が集う店にハズレなしは縄文時代からの日本の理。
ススキノの昼は閑散だが、至る所で大小の工事がさかん。作業員も多いはず。ススキノでラーメン以外で昼営業している貴重なオアシスなのかもしれない。
ブツ降臨。圧巻である。かなりのボリュームの真ん中に白葱の細切りがこんもり。ネギフェチには嬉しい。そして、分厚く大きな焼豚が4枚、四方に鎮座している。朱雀・白虎・青竜・玄武。私の焼き飯を守護する魔方陣。
スープで心を落ち着かせ、揚げたてザンギから。何もつけず旨い。ビールをヤリたくなる。
いよいよ、男。チャーハン、パラパラ系。味はそれほど濃くないが飽きのこない味。これが濃かったら食べきれないだろう。私はしっとりも好きだが、パラパラの方が量を食べられる。
チャーシューも柔らかくて味が染みている。ネギの細切りが絶妙のアクセント。爽やかさを口内で広げてくれる。
ラスト3分の1は苦しくなったが、一気呵成。いやはや旨し。気づけばペロリ完食だった。
また訪ねる機会はあるだろうか。あれば、次回はあんかけ焼きそばか。中華丼か、麻婆豆腐丼か。夜ならビールとソース焼そばもイケるかもしれない。
<満龍>の「満」は、満足・満腹・満点。食べ過ぎると、胃の内容物が昇竜のごとくせりあがってくるかもしれないけれど。
ススキノで昼営業の貴重な中華。
男のジャンボ炒飯、ザンギ追加。