東日本屈指の町中華名店。ある秋の夜、腹の芯にブレぬ決意を固めながらブラブラと、はやる気持ちを抑えつつ蔵の街・巴波川沿いを歩く。闇夜に見えてきた。<長栄軒>が。
飛び込む。1カ月ぶりか。前回は独りで昼に来て、夜も独りで来た。1日に2回も独りで同一店へ足を運んだのは人生初。会津若松の神明通りで昼と夜に同じ店に行ったことあるが、その際は私一人ではなく昼は会食、夜は宴会だった。
どこに座ってもいいですよ、広いところでどうぞとこの前もおっしゃられたが、混みだして4人テーブル独占は気が引ける。2席しかないカウンターを陣取る。まずは瓶ビール。そして、1品目に頼むと決めていた餃子。
メニューをよく見ると、2種類の餃子が。調理方法や味の違いでなく、個数が違う。5ヶが500円。6ヶが550円。500円までは1ヶ100円だが、6ヶ目だけが50円になる6ヶ入りを注文。
王将で生まれ育った私にとって、餃子1人前という単位は6ヶと刷り込まれている。1人前を2人で、3人でシェアする際も割り切れる個数。「6」は平和の象徴的数値でもある。
ビールと同時に、韓国海苔とキムチが。お通しではない、味わい深く泣けるサービスである。
店内備え付けの下野新聞を読みながらビールをコップに注いでゴキュゴキュ。海苔やキムチで口を湿らせていると、ブツ降臨。美しすぎるビジュアルである。カリカリの褐色の肌。
タレにラー油を垂らし、まずは1ヶ…。カリカリと後の、ジューシー。すごい。熱々で焼けた口内をビールで追いかけて冷やす。至福である。
餃子が残り2ヶに。ビールも無くなった。この日が仕事が溜まっており、ホテルに戻ってカキモノせねばならない。ゆえに居酒屋でなく町中華で、ビールは2本までと決めていた。
瓶ビール追加。2品目は、着座するまではカツカレーライス一択だった。しかし「ソース焼きそば(じゃがいも入り)」に惹かれた。じゃがいもが入ったソース焼きそばは栃木市名物。ビールにも合う。初志貫徹し、カツカレーにビールか…。
私は土壇場で転んだ。カツカレーと言うつもりが「ソース焼きそば」と発していた。カツカレーは次回の愉しみに。
餃子を食べ終え、キムチと韓国海苔をツマミにビールをヤッていると、ブツ降臨。たっぷりである。焦げたソースの香ばしさは鰻蒲焼クラスの破壊力がある。
さっそく啜る…。好き。好き。濃厚なのにスパイシーでキレがある。
ソース焼きそばにじゃがいもは必要か論争は、ラーメンに海苔、酢豚にパイナップルほど加熱しないだろうけど、栃木ではじゃがいも入りがデフォルトであり、正義であり、王道なのだろう。
グランドホテル内居酒屋に続き2度目のじゃがいも入りソース焼きそば。昼よりも夜にビールやハイボールと合わせたい逸品である。
すべて食べ終えた。ビールも無くなった。スープ50円に惹かれたが、店内はいつのまにか満席に。お会計を済ませて大満足で店を出る。
闇夜の巴波川沿いを歩いてホテルへ。まさに小江戸な蔵の街。時代劇小説などで、町民が酒を呑んでフラフラ酔っぱらいながら気持ち良さげに歩いているシーンを体感できる。
ただし私の読む時代小説はミステリか伝奇だけなので、気持ち良さげな独り酔っぱらいを待ち受ける未来は悲惨で目も当てられない結末ばかりだけど。
巴波川沿いの至宝。
ビールを頼めば無料サービス(たぶん)が2品も。
美しすぎるフォルム。
栃木名物・じゃがいも入り焼きそば。
風情ありすぎ。