私は彼の分だけ「デス辛」を注文してあげる優しさを見せつけた。
元銀行員らしく、無茶な客のパワハラ要望に全力で答える習性が見についているのだろう。彼は一瞬言葉を詰まらせたが「はい、それでいきます」。2週間前に多治見で耳にした至言「ヤルか、超ヤルか」。彼、超ヤっている。
ブツ降臨。1辛は中央に小さな梅干程度の大きさの辛ダレがコチョンと乗っている。デス辛は、別皿にたっぷりと。私はそのすべてをバンちゃんのタンメンにぶちまけてあげる慈愛を発揮。
バンちゃんのタンメンだけ、明らかにビジュアルが異なる。一口スープを啜らせてもらう。
‥‥‥。辛すぎ。鼻水が止まらない。美味しいとかいうレベルを超え、味が全く分からない。バンちゃんは汗をかくことなく、時折うめき声を漏らしつつ気合で啜っている。
私は口の中を水で冷やし、眼前の1辛に挑む。まずはスープ‥‥‥。ホヘェ!?こんなにも旨いのか。
野菜の旨味がベースだが、しっかりとした濃厚さがある。たっぷり野菜のタンメンだが、小さめに刻んでおり野菜があまり邪魔しない。麺はストレート。スープとの相性も良い。
辛みを混ぜ込む。ピリリとするが、まさに野菜の旨味を引き立てるアクセント的辛さ。刮目した。私のタンメン感が変わった。気づけばスープ1滴残さない熊啜ぶりだった。
岐阜タンメンの由来が記されたPOPが視界にあった。
愛知県内で屋台からスタートしたらしい。当時、東海地方にタンメン店が少なかったため創業されたようだが、そもそもニーズが無く閑古鳥が鳴いていたという(このあたり、一部アヅマ脚色)。岐阜に出店してみたらお客が多く押し寄せ、お店を継続できるようになったとある。
岐阜県民が支持してくれたタンメンを全国の人に食べてもらい、多くのお客を呼んで岐阜に少しでも恩返しをしたい。その思いから「岐阜の人に感謝タンメン」。それを略して「岐阜タンメン」と称するように。
泣かせる話である。1杯に壮絶なドラマが秘められている。そして、毎月10日は岐阜タンメン子供食堂と銘打ち、小学生以下はタンメン1杯無料いう。
ご当地系、名店系カップ麺は恐ろしい。本店を知らずにそれだけ啜り、それの完成度がイマイチなら、本店も同様と考えてしまい足を運ばなくなってしまう。
岐阜タンメン、店啜りはカップの数億倍旨かった。しかし、この店の大ファンになった今、カップ麺を啜る機会があれば、また違った印象を持つかもしれない。ハマって箱買いするかもしれない。

1辛。

5辛。

すごいぜバンちゃん(右)。

泣かせます。