前夜に銅座の<こじま>で繰り広げられた藤本祭の余韻冷めやらぬ日曜の昼の11時過ぎ。F本アニキ、T木タウンマネージャーとタクシーで茂木方面へ。奇跡的に当日の朝にも関わらずF本アニキが<二見>の予約を成功させたらしい。
アニキは小さい頃から通っているそうだ。長崎市民はたいていがこの立派な料亭の存在は知っているものの、実際に足を運んだ者はそれほど多くないという。そもそも予約がめったに取れないという。数十年通っているという藤本アニキだからこその手配師ぶりだ。
入った瞬間、歴史の風格を感じさせる。圧倒される。広い個室に通される。ゆうに14名は楽勝で入れそうな部屋に3人。昼は4組しか受け入れないという。
窓一面が、海。この日も長崎は雨だったが、夕日は最高らしい。豪華すぎる。
酒は瓶ビール(麒麟か朝日)、日本酒(銘柄不明)、焼酎しかないらしい。
瓶ビールで乾杯。お通し的存在のいくらでも酒が進みそうなごまめと吸い物で談笑していると、一発目の皿が運ばれてきた。割と深めな形状にフタが乗っている。
外す。……。小さな殻付き海老が10匹ほど浮かんでいる。何もつけずそのまま口に放り込むらしい。手を伸ばす。……。水が跳ねた。ビッチビチ動き出した。踊り食いである。
アニキが食べ方を伝授。そのまんま頭から口に放り込むと元気良すぎて口の中にいろんなものが刺さるらしい。しかも、車海老の稚魚らしい。可哀そうだが、それを凌駕する旨さと贅沢さ。
大皿に鯛と伊勢海老の活け造りが運ばれてきた。これほど細かくブツ切られてもビックビク元気に動いている。すべてが地物かつ天然もの。すぐ近くの漁港で上がった海の宝ばかりらしい。
鯛は最高鮮度。こりっこりで上品を極めた淡白。伊勢海老はねっとりと甘く、歯の弾力が心地よい。いくらでも食べられてしまう。
仲居さんが鮑をどうするか聞いてきた。鮑?……。伊勢海老の頭の下に鮑がいた。全然気づかなかった。鮑はバター焼きに。
熱燗に切り替え、手酌でガンガン。鮑も柔らかく、絶妙の火加減。バターの風味が熱燗に合いすぎる。肝のコクも飛翔する。
さらに大皿が。水烏賊の活け造りである。こちらも元気に動いている。最近はなかなか獲れないらしいが、今朝はいい形が入ったという。
生姜醤油で透き通った無双鮮度を口に運ぶ。コリコリと甘みが絶妙に同居。ヤリイカの活け造りは何度か北九州で口にしたが、水烏賊は初めて。下足は天ぷらではなく唐揚がオススメという。
塩加減も見事だったが、とにかくふんわりと柔らかい。熱燗ばっかりヤっていたが、途中ビールを再投入する。
大根、牛蒡と一緒に甘辛く煮られた鯛の粗炊き。粗だがたっぷりと身が付いている。大根も味が染みて蕩ける。冷めても味がさらに染み込んで旨くなる。
椎茸、蕗の薹、蓮根を従えた巨大な車海老の天ぷら。サクッサクのプリップリ。感嘆の唸りしか発せない。蕗の薹の苦みが春の訪れを感じさせる。
とどめが、鯛の塩釜焼。一般的な叩き割る塩釜ではなかった。粗塩の上に、鯛が、立っている。その周りに落花生と茹で卵が。もはやジオラマである。海底から巨大な海の怪獣がせりあがってきたようだ。
この鯛が旨すぎる。ゆで卵フェチも私にとっても嬉しいサービス。冷めるまで待って、殻を割って楽しむ。落花生も地味にいい味を出している。その脇に熱々の栄螺のつぼ焼き。
アニキに栄螺つぼ焼き攻略のコツを教えて頂く。少々苦戦したが、爪楊枝でクルンに成功。先っぽまで切れることなく抽出。肝の苦みがシビれる。シアワセすぎて雲仙岳を鼻息で超えてしまいそうになる。
最後は、ご飯を従えた伊勢海老の赤出汁。もう、こんな赤出汁を啜ってしまえば元に戻れない。
激安ではないが、コース料理としてのコスパは恐らく大都会の4分の1の値段で10倍以上の満足感。刺身が余っていたので1分ほど醤油に浸し、ご飯はヅケにして頬張る。目を細める。
たっぷり3時間堪能した。外は雨が上がり、波が穏やかに。帰り際に生け簀を見せていただく。……。水族館かと思った。もはや、これは建物の中の「海」である。
博多へ向かう特急かもめ号乗車。長崎から隣駅の浦上に着く前に寝落ち。目覚めれば新鳥栖。
昨晩もF本アニキに銅座の<割烹こじま>で絶品を大満喫し、翌昼は茂木の<料亭二見>でさらに上乗せ。3人で一升五合は呑んだんやなかろうか。もう都会で魚料理に興味が持てなくなりそう。背徳の果ての至福。来んね、長崎に!
夢の都。至福のつるべうち。










雄大な個室

部屋からの絶景。

まるで水族館。
