2020年03月23日

第2402夜:岡山駅「かくしずし」【駅弁】

 「かくしずし」。岡山駅で発売されている駅弁である。世に駅弁は数あれど、最もユニークな駅弁の一つに数えられる。

 容器の形は正方形で、赤を基調とした美しい巻絵模様が描かれている発泡スチロールの重箱タイプ。いざ重箱のフタを取り外した瞬間、何の予備知識もなければ絶句するだろう。

 広がるのは冬の北海道根釧原野のごとき一面の銀世界。緑もなく、窪みもない。潔いまでの冬景色。日の丸弁当すら梅干が中央に鎮座しているが、広大な白飯の荒野のみである。

 あまりの出来事に思考が停止してしまうが、重箱をひっくり返して下さいという注意書きが。このようなアクロバティックなことも可能なこの容器、駅弁業界における大発明といえる。

 ドキドキしながら恐る恐るひっくり返す。裏ブタを外す。今度は春のタンポポ畑のような明るく陽気な爛漫風景が目に飛び込んでくる。祭囃子が聞こえてきそうである。

 岡山の名物料理に「天領寿司」なるものがあるらしい。かなり高価っぽいので当然未食だが、ビジュアル的には具の豪華なチラシ寿司といった風情。この「かくしずし」も、チラシ寿司をひっくり返したものである。

 「かくしずし」の歴史は極めて古い。江戸時代、備前のお殿様が倹約令を発令。「食膳は一汁一菜」という絶望的なお触れである。とんちの効く町人たちは「それならば、山海の幸をふんだんに乗せたすしも一菜といえば一菜」と拡大解釈。「かくしずし」の誕生である。

 見た目は単なる白御飯だが、上に飾る具を底に敷き詰め、重箱をひっくり返すと豪華な具が表に現れるという心憎い演出である。

 定石通りにひっくり返して味わうと、一般のチラシ寿司とほとんど変わらない。具を下にしたままひっくり返さずに楽しむのがツウであるそうだ。

 私もツウ人を気取ってみた。箸で酢飯をつまんで引き上げる。その下には錦糸玉子が敷き詰められている。どんどん食べ進む。「おっ、サワラだ」「今度はエビだ」「穴子まで入ってるぞ」「酢レンコン発見!」と、一口ごとに嬉しい驚きがある。

 半分まで食べ進めた。私にとって、駅弁は酒のツマミである。焼酎をグビ呑みしながら味わっていたのだが、どうも酢飯のみを肴にしているようで少し落ち着かない。

 重箱を再度ひっくり返した。先程の完璧な様式美と異なり、イナゴの大群に襲われたかのように少し無残な菜の花畑になっている。しかし、具がしっかりと目視できるので安心だ。

 酢飯の具を肴に再度呑み始めた。この安定感。目隠しして食べるより、眼でも味わいたい。

 私はしみじみと感じた。江戸時代の備前岡山に生まれなくて良かったと。

200323かくしずし@岡山@.JPG
表。

200323かくしずし@岡山A.JPG
裏。
posted by machi at 08:42| Comment(0) | 駅弁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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