七味の朱を加え、まずは出汁……。うまい。旨すぎる。うどんを啜る。最高にのど越し。かしわとうどんと出汁をまとめて口に含む。……。小倉に、北九州にたどり着いてよかった。
半分ほど啜り終えた後、舌に異変を感じた。かしわの量だけでなく甘辛さも倍になり、出汁に溶け出しすぎて味が濃厚になりすぎている。やはり、適量というものがあるのか。私、少々浮かれすぎていたようだ。
折尾ミッション終了後、商連の旦那衆とタクシーで<仲むら>へ。ここは年1回の究極のお楽しみ。生でガツンと乾杯。机にはずらりと刺身が尾頭付きで並んでいる。
甘鯛の甘さ、穴子の上品な淡泊、鱧の季節先取り感、鯵の勢い、虎魚の純粋……。わさび醤油、酢味噌、ポン酢を駆使しながら様々なバリエーションで楽しむ。鮮度無敵。食べきれるかと思ったが、あっという間に腹に滑り落ちる。すべてコリコリで無敵鮮度だ。
枝付きの枝豆も味が濃い。きぬかつぎは皮ごと口に放り込む。大地の力強さが毛細血管から吸収されていく。穴子の骨のてんぷらはカリッカリのサクッサク。塩加減も見事で生ビールがゲリラ豪雨のごとくノドから食道へ滑り落ちる。
豪華と鮮度を極めた刺身軍の総大将は「烏賊の姿づくり」。透き通っている。そして、動いている。箸でつまむ。押しては引く悪女も深情けのごとき弾力が箸先から伝わってくる。
醤油にチョン付けし、口に運ぶ。……。9時間半かけ折尾までたどり着いてよかった。心の底から安堵と歓喜が沸き上がる。
たっぷりと粗の唐揚が運ばれてきた。お楽しみ第2弾である。ゼラチン質、カリカリの骨、そして奥の奥に潜む髄のうまみ。焼酎水割りをやっていたが、これには生ビールだ。
烏賊のてんぷらは柔らかい。少し歯に力を入れるだけでフヒンとほどける。臭みもゼロ。純粋な本質だけが昇華している。
味噌汁で心落ち着ける。そして、〆の握りが運ばれてきた。海老、貝、いくら、雲丹、鮪、鯛、シマアジ……。握りは別腹だがさすがに苦しい。刺身で腹いっぱいになる幸せは他に変えられぬ。寿司には日本酒でありゅ。石川県珠洲市の地酒をクイッ。……。もう止まらない。
タクシーで折尾駅へ。博多行き特急乗車まで30分ある。いったん改札を出てコンビニで缶ビールと缶ハイボールを捕獲。靴下を脱いでスリッパに履き替え、脱力モード全開で缶ビールをカシュッ。ほぼ誰もいないホームで味わう背徳の旨さ。長かった一日を振り返る。
関西人には忘れられない1日になっただろう。大阪から遠く離れた北九州は平和そのものだが、2年前の熊本地震では大ごとだったはず。災害列島の恐ろしさ。いつ何時天変地異が発生するかもわからない。恐怖を戒めとし、ソニックに乗り込んだ。





たどり着いたご褒美。

折尾駅ホームにて。