豊後といえば何となく大分あたりかと推測される。掛け紙に目を通す。鶴崎から始まり、野津原、久住、笹倉、坂梨、内牧、二重峠、大津、熊本。熊本以外、見事なまでになじみのない宿場町の数々。要するに、大分あたりから熊本まで九州中部を横断する街道なのだろう。
博多駅から新幹線に乗車。久々の急ぎのパソコン仕事もなく、帰宅するだけというリラックスムード満点の雨模様の秋。発泡酒をズラリ3本並べた私は、隣の中国人らしきオヤジの怪訝かつ引き気味の視線を頬に幾分感じながら、掛け紙とフタを外した。……。見事な陣が引かれている。隙が見当たらない。
陣の中央に鎮座している出汁巻き玉子、鶏の黒胡椒焼、殻をむくのが面倒で私にとっては鬼門である煮海老あたりで発泡酒をまずは1本。うぐいす豆も苦手で酒のサカナにもならぬが、箸で一粒づつツマミながら口に運んでいると、退屈しのぎになってなかなかよろしい。
続いてごぼう天、たけのこ、人参、里芋、しいたけといった安定感あふれる煮物ゾーンの攻略を開始する。発泡酒ゴキュゴキュ、煮物モグモグ。新幹線は関門海峡の海の下を通過し始めたようだ。
白御飯ゾーンの上に豪快にトッピングされた鮎の甘露煮と対峙する。圧倒的存在感である。頭から齧りつく。……。骨っぽさ、皆無。生臭さ、皆無。旨み、絶妙。柔らかさ、充分。満足感、大有。発泡酒が進む。この濃くも上品な甘さには、麦焼酎のロックが合いそうだ。
発泡酒は3本目に。横のオヤジが落ちつかなさそうにそわそわし始めた。キン●マのようなサイズ、色合いの物体が2ヶ入っている卑猥なゾーンがある。キ●タマ風の物体を口に放り込む。……。揚げポテトである。塩っ気が嬉しい一品だ。
その横の官能的な色合いのハムを口に入れる。……。ハムと思いきや、何の肉か分からぬがステーキだ。私は驚きの呻きをあげそうになる。凄まじいジューシーさ。冷えているのに、口中に肉汁が溢れる。この一品を口に運ぶだけでも、1食分の価値がある。見事である。
発泡酒3本が焼失した。山菜とあじご飯をパクパク平らげた後、しば漬をおかずに錦糸卵が載せられた白米でシメる。しば漬と白米の相性に改めて唸らされる。
大満足で豊後駅弁街道の旅を終えた。私の九州駅弁7街道脳内巡りは、いよいよ残り1街道となった。薩摩街道である。

(付記)
この九州街道シリーズ駅弁を攻めていたのは、5年ほど前のはず。覚えていない。6箱までは快調だったが、残り1箱となった「薩摩街道」に出会わぬまま時が過ぎ去り、駅弁売場でこのシリーズそのものをあまり見かけなくなった。S郷どんそっくりの私だが、薩摩は未踏の地。薩摩へ行かねばこの駅弁と出会えぬのだろうか。