私は特段ここという床屋は決まっていない。出張や移動中の空き時間を見つけて散髪する。どの店に行っても私のオーダーは変わらない。「バリカン15oで丸刈りにして、裾だけ12oで」。これだけで日本中どの床屋でも、どんな理容師でもほぼ同じ髪型を決めてくれる。私が編み出した「ゴルゴ刈」。かれこれ20年近くゴルゴ刈である。
神戸新長田時代、まちづくり仲間でもあった見習い「美容師」(男性)のための実験台に幾度となく頭を委ねた。ゴルゴ刈なのになぜ3時間近く掛かるのか今でもよく分からないが、普段は10分で終了してしまう。
岩手県内陸部の北上市にも支店を持つ実業家のY下氏御自ら私のゴルゴ刈に着手。私は床屋に行くと9割以上の確率で寝てしまう。あまりにも気持ちいいからだ。バリカンが頭皮を刺激するとこれだけで極上のマッサージ。プロの見事かつ丁寧な技術であっという間にゴルゴ刈の完成だ。どっちか順番を忘れたが、シャンプーしてスッキリし、顔ぞりする。
シャンプー中はさすがに起きているが、顔ぞり中も私は寝てしまう。Y下氏曰く、少しいびきをかいていたようだ。ドライヤーで髪を乾かして終了だが、ドライヤーなどゴルゴ刈には不要。私は四半世紀以上ドライヤーなるものを使ったことがない。ちなみに櫛も同様である。ジェルやムースなども四半世紀使った記憶がない。
私は妙に髪が伸びるのが早い、くせ毛なので髪の毛が立たずに寝るのでなおさらだ。1か月でゴルゴから七三分けに見えるようになる。この数年、さらに髪が伸びるスピードが速まってようで、月に床屋1回ペースだったのが20日に1回ペースに加速している。ちなみに髪の伸びるスピードは本人のスケベ度に比例するという。
床屋さんの最も嬉しいサービスは全部終わった後の簡単な頭皮マッサージと肩もみである。床屋の一連の流れをフルコースに例えるなら、ラストのプチマッサージは極上のデザート。理容師さんによって時間は違うが、たっぷりやっていただければこれほどのシアワセはない。
クイックマッサージ専門店とは別物の気持ち良さ。サービスという感覚もお得感を増長させているのかもしれない。床屋さんの肩もみ&頭皮マッサージのみ、15分1000円程度でメニュー化していただけないだろうか。
Y下氏の超絶マッサージテクに思わず喘ぎ声を上げていると、さらにシートが倒れ、頭を横に向けさせられた。耳かきをして下さるという。〔次夜後編〕

「のり平通り」の散髪屋さん。