神話のごときおとぎ話のようだが、実際に現在も三十六人衆の末裔がおられるという。なかなかご本人にお目に係る機会はなさそうだが、「三十六人衆」という銘柄の地酒は割と手軽に酒田で味わうことができる。
庄内空港でも販売されているが、2015年9月上旬の肌寒い酒田のメイン通り・中通り商店街2階のカウンターの鎮座していた。カウンターに腰掛けた私の目の真ん前である。
商店街2階に位置する超人気居酒屋<魚山人>さんへS野理事長とS藤女史で。これまで2度突撃して満員で入れなかったのだが、3度目の正直が実現。まずは生でノドを潤し、魅力があふれ出そうなメニュー拝見。全部注文したいほどの多幸感である。
これまで酒田では刺身を満喫してきたので、地物の天ぷらに惹かれた。旬の終わりを間もなく迎えるお隣の鶴岡名産だだちゃ豆(枝豆)をやりながら地野菜の天ぷらと地魚の天ぷらを指名。今日はほぼ天ぷら一択である。
お通しが登場。大きな舞茸と万願寺級のしし唐揚げ出し天ぷらである。お通しも天ぷらとは予想外。これだけで十分にメインを張れる逸材である。
生を2杯呑んだところで、すかさず地酒に切り替える。豊富な銘柄で迷ったが、目の前の「三十六人衆」一升瓶が圧倒的な存在感で眼前にてオーラを放っている。これを冷やでやる。豊潤で爽やかだか芯の強い香りが鼻から抜けていく。
地物野菜天ぷら盛合せが運ばれてきた。すごいボリュームである。トマトといった変わり種もある。口の中で熱々の汁が弾ける。すかさず冷やの三十六人衆で押さえつける。コーンの柔らかさと甘み、椎茸のポクポク、巨大しし唐に爽やかで上品な苦み…。他にもあったが種類を忘れてしまうほどの充実感である。
地魚天ぷら盛合せ天ぷらも圧巻である。キス、烏賊……。メゴチもあっただろうか。奥深い岩塩にチョン付けし、口に運ぶ。……。荒波のイメージが強い日本海に揉まれた極上の白身。淡麗かつ上品なのに、芯の通った三十六人衆の強さが感じられる。冷やの地酒で追いかけると、旨さにふくよかさが増す。店名に相応しい山と海の恵みたっぷりである。
一升瓶が残り少なくなった。マスターが「ハイ、あげる」と瓶ごと下さった。大きなぐい呑みに自分で注ぎ豪快に呷る。満腹に目を蕩けさせていると、お待たせ〜と「だだちゃ豆のかき揚げ」が降臨。すっかり忘れていた。かぶりつく。これだけ天ぷらを食べ続けると胸焼けするが、この店はカラリと上品。いくらでも入る。素材の良さが空前絶後に高められている。
地酒を呑み干した。3人でバー<アバディーン>へ。車で理事長を迎えに来られた奥方様も緊急参戦。奥州藤原氏ゆかりの三十六人衆が酒田に錨を下ろして800年強。商人町・酒田は商人にその気脈が受け継がれているようである。

旬の地物野菜の天ぷら。感動。

地酒「三十六人衆」を豪快に。

繊細と豪快が高次元に同居する地魚の天ぷら。