2015年01月26日

第1138夜:禁断になるかもしれない果実【小倉(北九州)】

 レバ刺。牛や鶏の哺乳類系もあれば、カワハギやアンコウなど魚類系もある。共通していることは、ただ一つ。レバ刺愛好家にすれば、何はともあれ「旨い」ということである。昔からフグの肝を食べてあの世へ旅立った方々が数は減れども後を絶たないことでも知られている(加熱されているが)。まさに、禁断の果実である。

 庶民生活への直結の有無はともかく、様々な法律や制度が折り重なるように規制と緩和を繰り返しているようである。レバ刺し好きにとっては、増税よりも悲嘆にくれる規制が発布された。「牛のレバ刺し」禁止令である。日本中のレバ刺しファンの悲鳴がコダマした。

 飲食店主が客の要望に断わりきれず提供し、誰かが通報したのか逮捕されたというニュースを目に耳にした時、激しく同情した。まさに「殉職」である。

 牛レバ刺しが禁止された直後、三陸の居酒屋で「レバ刺し」がメニューにあった。三陸にまで規制が伝わっていないのだろうか。鼻息荒く注文すると、見た目は似ているが微妙に違う。

 口に運ぶ。……。確かにレバ刺しだが、どこか違う。クセと苦みがある。店主に聞くと、なんと「豚のレバ刺し」だった。豚は規制対象外という(当時)。牛より豚の方が生食は危険なのではなかろうか。そもそも、豚を生で食べることを想定していないということか。

 ある晩秋の夜。北九州の台所・旦過市場の若旦那衆やそのサポート軍団と勉強会の後に11人でもつ鍋屋<徳川>さんへ向かう。思いっきり葵の御紋が施されているが、徳川家の御子孫が直営されているもつ鍋専門店なのだろうか。

 生で乾杯し、餃子や味噌仕立てのもつ鍋を注文。モツはプリプリで醤油ベースの出汁に旨みが溶けこむ。鍋に入れる明太子餃子やシメの蒸し麺(戸畑ちゃんぽん麺?)も絶品だった。

 絶品もつ鍋や餃子以上に異彩と煌めきを放っていたのが、レバ刺しだった。牛でも、豚でも、鶏でもない。「馬のレバ刺し」である。色鮮やかで鮮度も良さそうだ。これまで数多く馬刺し系を満喫してきたが、馬のレバ刺しは初めて。旦過の若旦那衆は「牛より絶対に馬の方が旨い!」と力説される。果たして牛の生レバ刺し上が本当に存在するのだろうか。

 大きな希望と一抹の疑念を胸に、ブツをごま油に浸して口に運ぶ。……。その刹那、白馬が天を駆けた。歯ごたえコリコリ臭みゼロ。牛をさらに上品に旨みだけを昇華させた舌触りとコク。純真にして無垢、色気と妖艶、溌剌かつ野生。私の構築してきた夜の世界が、砕けた。茫然自失。牛よりもウマかった。

 馬の生レバ刺という神と法に許された至福の果実。規制ラッシュの昨今、何かの事件をキッカケに、禁断の果実になりかねない。時は2014年11月中旬。解散総選挙が迫る。馬の生レバ刺しを断固として守る党、牛の生レバ刺し復活を公約に掲げる党に、私は一票を投じたい。

150126馬レバ刺@徳川(北九州小倉).jpg
絶品、馬のレバ刺し。
posted by machi at 06:38| Comment(0) | 福岡県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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