いろいろ酒の銘柄を変えていくのもたまには楽しいが、このような渋い居酒屋では野暮である。私は新政の熱燗でしばらく押していく戦略に切り替えた。
そろそろ腹に溜まるものを口にしたい。そう思った矢先、おでんである。味の染みた玉子、白い板コンニャク、プルンとした食感が楽しい玉こんにゃく、ちくわ、はんぺん。ただ、あくまでもお通しなので、どのネタも小ぶりである。腹一杯になると、酒が進まなくなる。呑んだくれの気持ちを憎いほどに吸い上げている。
辛子がツーンと鼻に効く。おでんの実力は、練り辛子の辛さと比例する。おでんに熱燗。腹が絶妙に落ち着いた。
■ 5杯目:新政(熱燗)+お通し(鮭トバ・韓国海苔)
5品目のお通しは、こだわりが感じられる燻製だ。鮭トバと韓国海苔である。
鮭トバは、北海道などでは定番。指でつまんで、噛みしめる。歯ごたえがある。自家製特有の塩からさと、脂のコク。量もたっぷりとある。鮭を齧り、酒を呑む。相性は極めて良縁だ。
軽く焙られた韓国海苔の香ばしさ、ほんのりとした塩の味がたまらない。韓国海苔は酒のアテとして実力は高いが、おでんの後に出てくるところが渋い。酒のピッチが速くなる。
今まではお通しが酒よりもすぐに無くなっていたのだが、鮭トバ&韓国海苔という珍味コンビのパワーに押され、酒の消費ペースが速くなった。お通しが減らない。私は作戦の変更を迫られているようだ。
■ 6杯目:新政(熱燗)+お通し(味噌汁)
熱燗を再度注文し、先程の杯のお通し(鮭トバ&韓国海苔)を楽しむ。この6杯目のアテに、珍味系が来ると厳しいなと眉間に皺を寄せていると、割烹着ママさんが「味噌汁、召し上がられますか?」。
私の空気頭が破裂した。味噌汁。酒休めとして、これほど絶妙な選択は考えられない。
私は椀物や汁物で酒を呑むことを好む。シメではなく、一発目でも良い。焼鳥屋の鶏スープ、寿司屋の茶わん蒸しや澄まし汁、おでんの汁、土瓶蒸し。チャーシュー麺の麺抜き。汁モノは、充分に酒の肴である。
湯気を立てた味噌汁が運ばれてきた。一口啜る。燻製と酒でヒリついたところを、上品なダシが駆け抜ける。味噌汁の具は、たっぷりの魚のアラに、味噌で煮込まれても鮮烈な香りを失っていない山菜。具を肴に酒を呑み、汁を肴に酒を呑む。酒と肴のペースが、味噌汁によって再びバランスが保たれた。〔次夜完結〕
新政の熱燗&おでん
東朋治フェイスブック⇒http://www.facebook.com/#!/tomoharu.azuma

