広々とした歴史を感じされる脱衣場、洗い場に湯船。大賑わいである。観光客も多いが、明らかに地元の年配常連客が多数を占めているようだ。石鹸やシャンプーの備え付けもなく、完全な下町風銭湯である。大きな違いは、湯船の中央にどっしりと鎮座する湯釜の存在である。こんこんと良質の温泉が流れ出している。
先程は静謐の世界を楽しんだ。今度は賑わいあふれる下町風情に目を細めた。風呂に浸かっている最中から、肌がツルツルスベスベになるのを実感できる。
再度白鷺模様の浴衣に着替えて、3階個室に戻った。せっかく風呂に入ったのだが、汗が引かない。扇風機を回し、ウチワで煽ぎながら涼を取る。
程なくして、コースに付いているお茶菓子が運ばれてきた。輪島塗の天目台の熱い緑茶と、名物坊っちゃん団子である。熱いお茶を呑むことで、逆に一服の涼しさを感じることができる。
道後温泉は大昔から偉人や文豪に愛されてきた。古くは大国主命氏や聖徳太子氏、万葉の歌人山部赤人氏に始まり、小林一茶氏、正岡子規氏、与謝野夫妻をはじめ、明治期の大物政治家らも名湯に親しんでいる。
道後温泉、特に本館を決定的に世に広めたのが、文豪・夏目漱石氏の『坊っちゃん』である。夏目氏自身も松山の中学に教師として赴任した際、幾度となく通っていたそうで、小説中に「角田の温泉」として登場している。現在も館内3階に「坊っちゃんの間」として、夏目氏が通ったころのままの状態の一室が保存されている。
汗が落ち着いてきた。ごろんと横になって少し体を伸ばした後、縁側に移動した。ウチワで煽ぎながら、眼下の往来を眺める。日々の疲れがフワフワと体から抜け出していく。ぼんやりを楽しんでいると、急にザザっと雨が降り出した。雨の匂いが部屋に入ってくる。とてつもなく風流である。
数えきれないほどの偉人、文豪、大物たちが、この本館の、もしかすると私がいる同じ間で同じように縁側に佇み、日々の疲れを癒しながら、様々な文学の構想を練り、維新の元勲たちは明治、大正時代の日本の行く末を案じていたのかもしれない。
至福の80分だった。風呂上がりに縁側で涼みながら、私がいる和室で寛いでいた文豪や偉人たちの思想に想いを馳せようとした。私も何か思想しようとした。しかし、できなかった。縁側の眼下に見えるレストランの「湯上りのビール冷えてます 道後BEER」という看板、ノボリが気になって仕方なかったからだ。
風情と贅沢の道後温泉3階個室
縁側からの眺め
≪蛇足:昨日のあ〜ほボイルド≫
現地マネージャー候補の入E氏が大活躍する北九州黒崎地区「第4回黒崎はしご酒大会」に参加。私はステージ上で出陣の掛け声という大役を仰せつかる。終了後、さらにはしご酒を決行。

