『坊っちゃん』(夏目漱石 岩波文庫)。言わずと知れた古典名作文学であり、出版から100年を経た今日も世代を超えて読み継がれている永遠のベストセラーである。
『坊っちゃん』というタイトルと、その作者(夏目氏)を知らない日本人は少ないように思われるが、最後まで読んで内容まで細かく把握している人は多いのだろうか。私は恥ずかしながら、未読だった。親譲りの無鉄砲な坊っちゃんがどこか(松山)で大暴れしながら悪者を退治し、マドンナと恋に落ちる痛快ロマンスだと思っていた。
毎月出張で四国の松山へ訪れることになった。坊っちゃんの舞台に向かう特急でこの文庫150ページ程度の名作を読んでみた。そして、ぶっ飛んだ。全然違うではないか。
松山の中学校に赴任した無鉄砲(というより短慮)で、都会意識が強く極端に地方を蔑視する主人公(坊っちゃん)は、赴任早々校長以下教員たちに有●弘行氏のごとくあだ名を命名。実に些細なトラブルに巻き込まれていく。せいぜいイタズラの範疇だが、短気な坊っちゃんは事を大きくしてしまう。
物語の軸は、赤シャツ(教頭・文学)・のだいこ(美術)の芸術コンビと、坊っちゃん(数学)・山嵐(数学)の数学コンビの争いだ。狸(校長)は様子見といったところ。それにしても赤シャツとは、金●先生時代のト●ちゃんを思い出させる見事なネーミングである。
赤シャツがうらなり(英語)の婚約者(マドンナ)に横恋慕し、強引に別れさせ自分のオンナにしてしまう。うらなり氏は宮崎の中学校に栄転(左遷)。これが最も大きな問題となり、おせっかいな筋肉系数学コンビは芸者遊びに勤しむ芸術コンビの現場を押さえ、待ち伏せして一方的に暴力を振るう。坊っちゃんは辞表を出し、東京に戻って鉄道技師になった。これが本筋だ。
私の要約と読解力にかなり難はあるものの、全編に渡り坊っちゃんの育ての親であり愛情を注ぎ続けた清(坊っちゃんの実家のお手伝いさん)に対する思慕で彩られている。
私の一番の勘違いは、マドンナだった。物語の鍵を握る存在だが完全な脇役。坊っちゃんとは何のカラミもなく、あまつさえ敵役の扱いを受けていることだ。
何とこの作品には後日談があった。坊っちゃんが東京に戻って3年を経た頃、山嵐がいきなり訪ねてくる。山嵐は驚くべき情報を伝える。坊っちゃん&山嵐が赤シャツに天誅(リンチ)を加えた夜、実は赤シャツは自殺していたというのだ。赤シャツの暗号のような遺書が残されており、その時は赤シャツのオンナになっていたマドンナが真相を知っているという。
本当に赤シャツは自殺したのか。殺されたのではないのか。真相を探るべく、坊っちゃんと山嵐は松山に向かう。事件の裏には驚天動地の陰謀が隠されていた……。
この後日譚は『贋作「坊っちゃん」殺人事件』(柳広司 集英社文庫・角川文庫)。『坊っちゃん』を読み終えた後、間髪いれず読み始めると、原作を読んだものにしか分からない伏線や表現が随所にちりばめられており、ニヤリとさせられる朝日新人文学賞受賞作である。〔次夜後編〕
2011年09月28日
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