女将。味わい深い2文字である。大将と異なり、かっぽう着や和装をキリリと、艶やかに着こなし、客を捌きもてなす。温泉旅館、割烹、小料理屋…。スナックなら「ママ」になる。
8月上旬の、幾分暑さも和らいだ21時前。出雲駅からほど近い中町商店街ミッションを終え、ノドの渇きと空腹を癒すべく居酒屋に狙いを定めた。商店街は歓楽街と隣接しているが、まずはミッション先であるアーケード下のお店を選択したい。
時間は21時前だが、どこも流行っている。満席で入れそうにない店ばかり。商店街の一番端にある<ミートショップ サイトウ>さんに一か八か飛び込んでみた。4人掛けテーブルが1席空いていた。ツイているが、30分後にラストオーダーという。
店を選び直す気力もない。30分勝負を試みる。
生で乾杯。瞬殺で体内に吸収される。2杯目からはメガレモンサワー。ずしりとした重さと保冷カップが心強い。
‘ミートショップ’というショルダーネームが入る前から期待を抱かせた。結果、期待を遥かに上回る感動が待っていた。
大好物の「センマイ刺」は臭みなく歯ごたえ良し。コチュジャンタレにびったり合う。「チーズダッカルビ」のジャンク感がタマラナイ。思わず笑みが漏れる。「ホルモン4種盛」は肉系店舗の真骨頂。どの部位もレモンチューハイが進みまくる。
「ハムカツ」の安定、「タコさん赤ウィンナー」の洒脱、タルタルたっぷり「チキン南蛮」の正義。他にもいろいろ頼んだが、ほうれん草と玉子の「ポパイ炒め」は白眉。箸休めなのに一品で勝負できる圧巻の旨さ。値段もリーズナブル。人気も納得である。
ラストオーダーから30分店に居たが閉店に。正味1時間。メガレモを数杯ヤったが、呑み足りない。
歓楽街である代官町へ。居酒屋。スナック、ラウンジが林立している。お腹は充分に満足。スナックや軽い小料理が望ましい。
私の視界をとらえたのが、赤提灯に彩られた<寄道処 あずみ>。店頭のA型看板には「和風スナック?女将?」という文言があり、その下にフードメニューが羅列されている。暖簾は出ているが、全く店内が見えない。
和風スナック、良いではないか。女将、という文言にもグッと来た。旅情気分も高まる。
同行氏たちの承諾を得ず、暖簾を潜った。客は誰もいない。そして、奥からコワモテのオヤジさんが。1か月前に独りで飛び込んだスナックも、女将でなくムキムキのお兄さんだった。出雲のスナックは男性店主なのか。
カウンターに座る。オヤジさんにシステムを聞く。「スナック」ゆえにテーブルチャージは発生するが(1500円)、ドリンクは統べて500円均一という。目の前に並ぶ総菜は別料金。
店内のTVではオリンピックの熱戦。開催国のリネール選手が決勝で豪快な1本勝ちで金メダル。リネール選手、昔から出ていなかったか?
ハイボールを鯨飲しつつ談笑。居心地が良い。気づけば24時を回っている。ふと気づいた。店頭のA型看板、「女将」でなく「女将?」と疑問形であったことを。八百万の国の夜はあまりにも奥深い。