新宿三丁目。新宿どころか都内、それも23区内で十年以上呑んだ記憶がない私は、新宿など改札から出た記憶もない(2024年2月上旬時点)。
ある夜、関東出張中にポカっと夜のスケジュールが空いてしまい、急遽田辺でお世話になった府中在住のF島氏と呑むことに。氏は新宿をご指定。しかし私は新宿など全く分からず迷子になるのは必定。
氏と改札が1か所しかないという誠に心強い新宿三丁目駅で合流。地上に上がって徒歩2分ほどに<どん底>があった。
圧倒的に味わい深い建物というか、ビルである。絶対に独りだったら入るどころか気づかなかった。店内は地下から3階まであるらしく、最高にシブい内装である。創業50年以上らしく、歴史がある。この雰囲気が一夜で作り出せない。
生ビールで乾杯。2杯目からはドラフトギネス。ギネスがピッタリな空間である。店内はあっという間に満席に。
お通しがバケットに生ハムとクリームチーズ。サラミとハムの4種盛、ポテトフライ、牡蠣オイル漬、マッシュルームに何かの肉を詰めた逸品(ブランチャというらしい)。
どれも旨く量も多い。酒が進む。出てくるのも早い。あっという間にテーブル上が渋滞に。
店の常連のことを「どんファン」というらしい。そのファンの面々が凄い。とても書ききれないが、俳優、声優、タレント、作家…。文豪・三島Y紀夫氏も「どんファン」らしい。
私の趣味(の一つ)は読書だが、ミステリに偏っている。三島作品は全くの未読。それほどピンとこないが、この店に向かう途中に<池林房>という3文字表記の居酒屋が視界に入った。確か、S名誠先生のご友人が経営されている居酒屋でなかったか。
椎名作品は小説からエッセイまで数百冊読んできた。最も「読んだ」作家である。そのエッセイに頻繁にこの店が確か登場していたはず。
時間は21時に。F島氏も椎名エッセイのファンだった。歩いて1分。2軒目に立ち寄った。ほぼ満席だったが席の確保に成功。
私はホッピー(黒)を頼み、ツマミに「東京べったら」と「グラッパ(ハチノスのイタリアン?)」、ウィンナー盛合せを注文。
店員さんは皆さん若い。店内の客も若い。しかし、明らかに年配の従業員が一人おられた。その方が料理などを運んで下さる。マスクされているが、目元に見覚えがある。
椎名エッセイでよくお写真で登場されるオーナー様だった。三島作品でなく椎名作品で20歳から40代半ばまで育った私には感無量。オーナー自らが機敏に動かれている姿に心打たれた。
気づけば23時。私の宿は春日部。新宿で呑んだ経験もなく、そこから春日部まで深夜に移動したこともない。路線検索する。10分後の地下鉄に乗り、3回ほど乗り換えれば24時半に春日部に着くようだ。
慌ててホームへ。府中在住のF島氏は逆方向の電車へ。東へ向かう電車が4分後に入線する。その時、猛烈な尿意に襲われた。乗換のタイミングや移動に自信がない。しかし、我慢できない。
エスカレーターを駆け上がった。トイレが見えた。遠いが小走りを決めた。私にとっては年に1度もないアクションシーンである。
新宿三丁目にそびえる城。
歴史あり。
パブらしいツマミ。
牡蠣、だったかな。
ハム、だったかな。
憧れの居酒屋。
「べったら」メニューは珍しいかも。
グラッパ、だったかな。