大伴家持氏。今から1300年ほど前の奈良時代の歌人である。聖武天皇の時代らしいから、2024年の大河ドラマの主人公(紫式部氏)より300年も前のスターである。
多治見で1泊する際、まず13時までに多治見入りしてたじみDMOのどなたかと昼鰻することが我が過去2年間の至福ルーティンだった。
2023年度シーズンV全3回の初日、たじみDMOの皆さまがあまりにも多忙で私のウナギ誘惑光線を軽くスルー。O口COOに無理言って帰神前の翌日(土用の丑の2日前)に。
COOが向かったのは<魚関>。明治30年創業という鰻の街・多治見屈指の老舗鰻屋である。多治見の鰻屋はどこも超絶旨さの実力店揃い。2021年初訪問したこの老舗も抜群だった。
明後日(土用の丑)なら絶対に入れぬ。敢えて2日前にずらすことで先取り感を味わう。
ひっきりなしに電話が着信し席を外すCOOに代わり、5日に1度程度しか着信しない私(それもキャッチセールスばかり)がCOOの分まで注文。「うなぎ丼・上」と「肝吸い」。
隣の出張と思しきサラリーマン5人組。年輩はビールを、若手は車運転のためかジュースをキメてらっしゃる。平日の昼のリーマンビール。多治見に来て鰻と対峙せずにいられない気持ち、痛いほど分かる。ビールを飲みたくなる欲望も。
独り無聊ゆえメニューをさらにパラパラすると、深く首肯する至言が記されていた。
「食に陰陽あり 鰻は陽にして 力の源也」(詠み人知らず)
エアコンの効いた広々ゆったりの店内で熱いお茶を啜る。席に戻ってきたCOOは奥から出て来られた店のオーナーと談笑。仲睦まじい。
フタで隠されたブツが降臨。杏仁プリンはCOOへのサービスらしい。私もついでにサービスのご相伴を預かる。
香物は奈良漬。独特すぎる味わいで私にとっては酒にも白飯にも合わない不思議な食べ物なのだが、こと鰻に関しては他に代替えが効かないほどの見事なパフォーマンスをキメてくる。鰻蒲焼と奈良漬を最初に合わせた先人のセンスに深く唸らされる。
山椒をパラリし、まずは肝吸。五臓六腑に沁みる。鰻丼は、言わずもがなの旨さ。多治見鰻はふっくら柔らかよりも多少関西のパリパリ寄り。この加減が絶妙である。
岐阜産米が足りなくなる6切の破壊力。あっという間に滅失。杏仁プリンの甘みも爽やか。
メニューに、万葉集からの引用があった。冒頭の歌人・大伴家持公の一文である。
「石麻呂に吾物申す 夏痩せに良しといふ物ぞ 鰻漁り食せ」
現代語訳が合わせて掲載されていた。
「俺は石麻呂に言ってやったのさ。夏痩せにはウナギがいいらしいから、とってきて食いなって。(原文ママ)」
この見事すぎる現代語翻訳者は誰か。
まさに酷暑の今の時期。夏痩せしてしまった石麻呂という御仁に鰻を喰えと勧めている。
私は夏痩せの経験無く、夏太りばかり。こんな私にも家持公は鰻を喰えと勧めるだろうか。
圧倒的風格。
深く首肯。
見事すぎる現代語訳。
至福の極み。