博多駅バスターミナル。コロナ以降、そもそも博多に立ち寄る機会が滅失していることもあり、私にとって全く利用する機会のないバスターミナルである。しかし、ビルの地下は別。奥の奥に「牧のうどん」が存在しているからである。
博多に来るのが凄まじく久々なら、当然ながら牧さんも久々。時間は11時過ぎ。店内びっしりだが回転が素晴らしく、待つことなく絶妙のタイミングで誘導して下さる。
久々に牧さんの券売機と対峙。私の後ろには人が並んでいる。ゆっくり吟味している時間なし。
左上の一番目立つ大きな写真入りボタンは「肉・ごぼう天・かしわセット」。‘お得なセット’とショルダーネームが。かしわは「かしわめし」のようである。880円。
肉ごぼう天を頼むつもりでもあったので、迷わずにプッシュ。店員さんにうどんの硬さを「普通」でお願い。以前「やわ」を頼んだ時、アゴが無くても啜れるほどの柔らかさだった。
まさに老若男女な客層である。壁に張り出された牧のうどん店マップに目を通す。我が拠点の北九州市内は無し。セントラルキッチン方式ゆえの配送戦略なのか。これも偉大な正解である。
ブツ降臨。テンション爆上がり。卓上のネギ入れ放題が力強すぎる。急須に入った替え出汁も心強すぎる。ネギをたっぷりと投下し、まずは出汁…。
肉の甘み、ごぼう天を包む天かすの油分が出汁に溶け込んでいる。思わず目をつむる。旨すぎる。夜中1時まで鯨飲していた五臓六腑に沁み込んでいく。麺の柔らかさが懐かしい。
私はうどんにコシを求めない。福岡県はラーメンも旨いけど、うどんがとんでもなく旨い。うどんとそばなら迷わずそばを選ぶ私が、福岡県では迷わない。うどん一択である。
それほど啜っているわけでないのに、出汁が減ってきた。柔らかなうどんが出汁を吸う。そのために添えられている急須の替え出汁。そして、魔法が発動する。うどんが出汁を吸って膨らむのか、啜っても減らない。魔法の、夢のうどんである。
かしわめしが旨い。これだけで丼でお替りしたいほど。うどんを啜り、出汁を啜り、かしわめしを頬張り、肉やごぼう天を楽しみ、タクアンをパリポリ。至福の無限ループである。
麺を啜り終えた。出汁も呑み切った。かしわめしも1粒残っていない。そこで、替え出汁を丼にすべて注ぐ。葱を散らす。ざるそば後の蕎麦湯割りならぬ、牧さんの出汁〆である。
肉とごぼう天の濃厚で甘辛い味が溶け込んだ出汁も最高だけど、シンプルでプレーンな出汁そのものを味わう…。全く違う。
淡麗、上品、気品、和心、洗練、絶佳。澄み切っているのに、どこまでも底が見えない奥深い重層。私のヨゴレきった悪心もこの瞬間だけ洗われた気分に浸れた。ほんの一瞬だけ澄み切ったまま、私は地下鉄で馬出九大病院前へ向かった。JR吉塚駅へ行くつもりだったのに。
地下奥の至宝。
豊富極まりない選択肢。
読むだけで心躍る。
北九州は残念ながらエリアではない様子。
夢のはじまり。
夢のつづき。